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えっ、うそ。
どうして、エレナが名乗ってるの……?
駄目だよそんな事したら……。
「エレナさん!!」
「学園長、もういいんだ」
たぶん、エレナもあたしと同じ気持ちだったんだと思う。
だから率先して名乗り出たんだ。
「俺があんたらの娘をやった」
エレナはミカエルの両親の方を真っすぐ見ながら、そう告げると……。
「お、お前か……。お前なのか!!!」
父親は震えながらゆっくりとエレナの方へと近寄り。
「お、お前なんかに……」
「ああ? どうした?」
「お前のような下賤な者が、私の娘をやったのか!!!」
エレナの胸元を掴むと何度もゆすりながら、大声でそう言い放った。
うわ、みんなひいてるじゃん……。
なんか視線逸らしてるし、黙っちゃったし……。
うぅ、気まずい。
「あなた、こいつは魔物よ! 魔物の子よ!!」
「こんな薄汚い、野蛮で粗暴なメス豚が!! よくも私の娘を!!!」
父親は貴族とも思えない汚い言葉でエレナを罵ると、彼女を突き飛ばす。
エレナは運動神経はいい方なので、そのまま転ぶことはなく踏みとどまったけど、それが父親の怒りの炎に油を注ぐ結果となってしまう。
「お前なんぞ、この場で私が立てなくしてやる!!!」
父親は腕を振りかぶり、全力でエレナを殴り倒そうとした。
駄目!
いけない!
このままじゃエレナが!!
「待ってよ!!」
いてもたってもいられなかった。
あのまま見ているだけだったら、エレナは間違いなく不幸になっていた。
そんなのは嫌だ!!
気づいたらあたしはエレナと父親の間に入っていた。
ミカエルの父親の拳は、あたしの目の前で止まった。
「ミカエルを傷つけたのはいけない事だって分かってる。でも、そんな言い方ってないよ!! 殴るの良くないよ!!」
「なんだお前……? この私が誰と知って口を利いている……?」
殴られなかったとはいえ、目じりがピクピクしてるし相当怒っている。
「今私は機嫌が悪い。ただちに這いつくばって詫びろ、そうすれば命までは取らないでおいてやる」
なにこいつ……。
なんだろうこの言い方。
うわ、すごいカチンときた……。
「はぁ!! ふざけないでよ!!! だいたい、エレナの大事な杖を壊したあんたらが悪いんでしょ!」
元々は向こうが悪いのに。
今まで我慢して、どうにかやり返したら親が出てくるとか。
意味わかんないよ!
「ふん、所詮は下賤な者の持ち物なんぞ、いくら壊れようとも知った事か」
「どうせ粗悪な安物でしょ? そんなのミカエルの持っていた杖と比べればゴミみたいな物でしょ?」
「……だとてめぇ」
「なんだ、お前……」
「俺の家族がくれた杖を悪く言う奴は、誰であろうとも許さんぞ!!」
今まで黙って堪えていたエレナは、今にも掴みかかって殴りそうだ。
無理もないよ、エレナの大切なものを馬鹿にされたんだ。
だいたい、この期に及んでまでこんな態度とるなんて……。
こうなったら……。




