50-4
「あああああ!!! いやあああ!!!!!」
今まで片手で頭を抱えていた女神ひなは、その動作が両手になってより苦しみだす。
「ママ!! ママーーー!!!!」
そして、自らが愛する人に助けを求めるかのようにそう叫ぶと、その場に力なく倒れてしまった。
「やったのか……?」
「…………」
女神ひなが完全に動かなくなった後も、ひなには近寄らなかった。
あたしはその様子をじっと見守った。
「うおっ! なんだ?」
「始まったね」
そしてしばらく経った後、ひなの体が七色に光りだすと、ゆっくりふたつに別れていき……。
光が収まる事には、合体する前のひなとセフィリアが現れた。
ふたりとも意識が戻っていないのか、眠ったままだった。
「セフィリア!!」
あたしは分離した様子を見た直後、セフィリアへと駆け寄り……。
「…………」
「……大丈夫、生きてる。よかった」
顔と顔を近づけて息づかいを確認すると、胸を撫でおろした。
「終わったのか……?」
「かな……?」
「なんか意外とあっけないな」
「う、うん」
確かに、ひなが暴走してセフィリアとひとつになって、女神になってあたしを教祖にして、それを利用して取り返して……。
やった事はいっぱいあるんだけども、時間にしたら大して経っていないんだよね。
「なあ、こいつはどうする?」
エレナは倒れているひなの方を見ながらそう告げた。
「死んでいるの?」
「いんや、まだ息はある。そのうち目覚めると思う」
「……一緒に連れて帰ろう」
「いいのか?」
「うん、みんなで帰るって言ったからね」
「分かった」
多分、ううん絶対にここでひなを見捨てたら後悔する。
だって、この子は何も悪くないんだもの。
ううん。
今までの出来事だって、誰が悪いとかそういうのじゃない。
みんながみんな、それぞれの思いに向かって頑張ってきた。
あたしはそんなみんなの気持ち知っちゃったし、あたしだってみんなの気持ち分からなくもないから、否定出来ないよ。
そう思いながら、あたしはひなの方を見た。
この時ひなは、閉じた瞳から涙をひとつぶ零していた。
そんな時。
「おい! なんなんだこれ!」
むむっ、なんか揺れている?
地震……?
いやでも、この世界に来てから地震なんて起きた事なかったし。
何で今更……。
あーーー!!!
そうだよ!!
「百合世界が……壊れようとしている……?」
「大丈夫なのかよ!」
「元に戻るだけだから!! ……たぶん」
「多分じゃ困る!」
そうだよ!
女神ひなが消えた、学園長の魔法で百合の光に転換されていた力は、本来の世界を戻す力に戻った。
だからこの世界は元に戻そうとしているってわけだ!
そうだったら、むしろ正常な流れなはず……だけども。
「だんだん揺れが強くなっていってるぞ!」
「これ大丈夫なの?」
「世界が崩壊……?」
「だいじょうぶ! だいじょうぶだから!! ……たぶん」
「多分じゃ困る!!!」
ひっ、みんな一緒に言わないでよー!
あたしだって、こんなの初めてなんだから!
そんなのに確証なんて持てないって!
「な、なんだありゃ!」
揺れが強くなっていって……!
なんか音も大きくなっていくよ!
えっ、何も無い空間にひびが入っていく……?
「ゆき!」
「エレナ!!」
あたしとエレナはお互いに倒れているセフィリアとひなを抱き、4人で寄り添いながら世界の変わり目を見届けた。
何も無い空間のひびは瞬く間に広がっていき、目に見える全てが覆われた瞬間、激しい音と共に粉々に崩れ去っていった。
「エレナ! 百合世界が無くなってもあたしはエレナが好きだからー!」
その最中、あたしはエレナの手を強く握る。
「当たり前だろ! 世界がどうなんて関係ねえ、俺はゆきが好きだ!」
エレナもそう言うと、あたしの手を握り返してくれた。
お互いの気持ちが通じ、分かりあえた瞬間。
崩れたところから明るい光が差し込み、あたしたちはそれに飲みこまれると同時に意識を失ってしまった。




