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48-4

「ママ、どうしてそんな悲しい顔をするの?」

「ひな……」

「ひなはママの事大好きだよ? 愛してるよ?」

「ええ……、そうね」

「だから、あんな奴らのいう事なんて聞いちゃだめだよ? ね?」

「そうね、そうよね」

 学園長の表情が……、どこか悲しげだよ。

 まさか改心した……?

 100年以上も思い続けた人が……、この局面で?


「ゆき」

「ん?」

「あいつはセフィリアだな」

「えっ?」

 ちょ、ちょっと、意味わかんないよ。

 どういう事。


「俺もアルとひとつになったから分かるんだが、他人の体を乗っ取って生きていくには限界があるらしい」

「うん。それで?」

「代を重ねるごとに、ベースとなる意識はだんだん薄らいでいく」

「ほおほお……」

「最初はそれでもソフィアの意思が強く残ると思ってたんだが……」

「うん」

「俺の思い違いだったな。本当のソフィアなら、俺の言葉程度じゃ揺るがなかった」

 確かにふった時も泣いてたような。

 話に聞いている学園長とは全然違うリアクションだよね。

 大砲壊しても、まだ来るかもって思ってたし……。


 あれ?

 でもさっきまで、ひなとの愛とか言ってたよ?

 あっ、もしかして……。


「ねえセフィリア、実は今まで乗っ取られてたふりしてたの?」

 そうだよ!

 そうじゃなきゃ、辻褄があわないよ!

 いくら学園長の意思が無くなってるとはいえ、こんなすぐに変わるなんてないもの。


「…………」

 この沈黙、もしかして図星……?


「厳密に言えば、私はセフィリアでもありソフィア学園長でもあるのですよ」

「じゃあ……!」

「馬鹿げた事をやっているのは分かっていました。それでも私はゆきさん、あなたが好きだった!」

「セフィリア……」

「あなたとひとつになれるなら、たとえ悪魔に魂を売ってもいい、エレナさんがどうなろうとも、世界が変わろうとも関係なかった」

「…………」

「ですが、あなたにはっきりと婚姻を断られた時、目が覚めました。私の願いは届かないのだと」

「…………」

「それならもう、この地下で人形を愛でようと」

「セフィリア、一緒に帰ろう?」

「……よろしいのですか?」

「あたし、セフィリアの気持ちに答えられない。だけど好きだよ。みんな好き。だからみんなで帰るの!」

「ゆきさん……」

「みんなでこれから生きていこう? こんなところで引きこもってたら未来無いよ」

「…………」

 そうだ、みんな一緒に生きていくんだ。

 誰も自分の未来を悲観して、未来を捨てる事なんてない。

 そんな思いを抱き、あたしはゆっくりとセフィリアへと近寄り、手を差し伸べた。

 セフィリアもこっちを向いている。


 このまま手を握れば……、もう全てが……。


 そう思っていた時だった。


「そんなの、許されるわけがないじゃない!」

 なにこれ……、勇者の剣……?

 横から攻撃を……!

 やばい、油断していた。

 よ、避けれない……!!


「あぶねえ!!」

「エレナ……?」

「くっ……!」

 あたしが突き飛ばされて……。

 エレナが、あたしの身代わりになって……!


「エレナ! エレナーー!!!」

 う、うそ……。

 なにこれ……。

 なんで、どうしてこんなことに……。


「いてて、無事かゆき」

「何やってるの!! エレナが当たっちゃったでしょ!!」

「俺が突き飛ばさなきゃお前が当たってただろ……。ったく折角盾になってやったんだ、そんな顔すんな」

「でもー!」

「そもそも、こんなんじゃ死なねえよ……。大魔法使いの力を受け継いだ俺様をなめるな」

 た、たしかに。

 血も出てないし、エレナの体だって温かい。


 いやでも刺さってるじゃん!

 無事じゃないよ!!

 ぬ、ぬかなきゃ。


「だが、結構効いたのも事実か。……皮肉にも、学園長から貰った衣装が役立ったか」

「え、エレナ?」

「ちょっと休む。すぐ回復するから……」

 エレナ?

 ああああああ!!

 エレナが目を閉じて動かなくなっちゃった……。

 ねえ起きてよ!

 お願いだから!!


「エレナ、エレナーーー!!!」

「ゆきさん、大丈夫ですよ。命に別状はありません……」

「セフィリア……?」

「私がそんな事、言えた義理ではありませんね……。全ては私の心の弱さが原因です、ごめんなさい」

「…………」

 今起きてる事も、過去起きた事も。

 全部何かが少しだけすれ違った結果なんだよね。

 それに、エレナが今生きてるのは学園長のおかげでもあるんだから……。


 あたしは目を閉じ、大きく息を吸った。

 そして、目から零れる涙を拭った後にエレナを抱きかかえると、セフィリアとひなから少し離れた場所にエレナを降ろした。


「ママ? こんな悪い奴らの言う事聞いちゃうなんて……」

「ひな……?」

「ねえママ、ママはひなの事が好きなんだよね? 一番だよね?」

「……そうよ」

「なら!」

「でも、みんなで暮らしましょう?」

「えっ……」

 セフィリアは少し憂いげな顔のまま、ひなの頭を撫でてそう告げた。


「……いやだよ」

「ひな……」

「ひなはママとふたりきりなの! ずっとふたりきりで一生一緒って言ったじゃない!!」

「こ、これって!!」

 ちょっと!

 セフィリアとひなの足下から出てきたのって……。

 円柱状の透明のガラスに、何だかよく分からない管。

 これって、過去にあたしとエレナがレズバーストした時の装置!


「きゃあっ!」

 その管にセフィリアとひなが捕まって……?

 な、なんなの。

 どういうこと……。


「ひな知ってるんだよ。これでひなとママがひとつになれるって」

「や、やめて……ひな」

「どうして? ママも嬉しいでしょ? 大好きなひなとひとつになれるんだから」

 ひとつ……?

 まさか、ふたりでレズバーストを!


 あたしが戸惑っている最中、セフィリアとひなは次々と管に繋がれて、それと同時にガラスの容器には液体が満たされていく。


「ママ、愛してる」

 そしてその一言と共に、ひながセフィリアへ深いキスをすると、ふたりの体が輝きだしていき……。

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