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「ママ、どうしてそんな悲しい顔をするの?」
「ひな……」
「ひなはママの事大好きだよ? 愛してるよ?」
「ええ……、そうね」
「だから、あんな奴らのいう事なんて聞いちゃだめだよ? ね?」
「そうね、そうよね」
学園長の表情が……、どこか悲しげだよ。
まさか改心した……?
100年以上も思い続けた人が……、この局面で?
「ゆき」
「ん?」
「あいつはセフィリアだな」
「えっ?」
ちょ、ちょっと、意味わかんないよ。
どういう事。
「俺もアルとひとつになったから分かるんだが、他人の体を乗っ取って生きていくには限界があるらしい」
「うん。それで?」
「代を重ねるごとに、ベースとなる意識はだんだん薄らいでいく」
「ほおほお……」
「最初はそれでもソフィアの意思が強く残ると思ってたんだが……」
「うん」
「俺の思い違いだったな。本当のソフィアなら、俺の言葉程度じゃ揺るがなかった」
確かにふった時も泣いてたような。
話に聞いている学園長とは全然違うリアクションだよね。
大砲壊しても、まだ来るかもって思ってたし……。
あれ?
でもさっきまで、ひなとの愛とか言ってたよ?
あっ、もしかして……。
「ねえセフィリア、実は今まで乗っ取られてたふりしてたの?」
そうだよ!
そうじゃなきゃ、辻褄があわないよ!
いくら学園長の意思が無くなってるとはいえ、こんなすぐに変わるなんてないもの。
「…………」
この沈黙、もしかして図星……?
「厳密に言えば、私はセフィリアでもありソフィア学園長でもあるのですよ」
「じゃあ……!」
「馬鹿げた事をやっているのは分かっていました。それでも私はゆきさん、あなたが好きだった!」
「セフィリア……」
「あなたとひとつになれるなら、たとえ悪魔に魂を売ってもいい、エレナさんがどうなろうとも、世界が変わろうとも関係なかった」
「…………」
「ですが、あなたにはっきりと婚姻を断られた時、目が覚めました。私の願いは届かないのだと」
「…………」
「それならもう、この地下で人形を愛でようと」
「セフィリア、一緒に帰ろう?」
「……よろしいのですか?」
「あたし、セフィリアの気持ちに答えられない。だけど好きだよ。みんな好き。だからみんなで帰るの!」
「ゆきさん……」
「みんなでこれから生きていこう? こんなところで引きこもってたら未来無いよ」
「…………」
そうだ、みんな一緒に生きていくんだ。
誰も自分の未来を悲観して、未来を捨てる事なんてない。
そんな思いを抱き、あたしはゆっくりとセフィリアへと近寄り、手を差し伸べた。
セフィリアもこっちを向いている。
このまま手を握れば……、もう全てが……。
そう思っていた時だった。
「そんなの、許されるわけがないじゃない!」
なにこれ……、勇者の剣……?
横から攻撃を……!
やばい、油断していた。
よ、避けれない……!!
「あぶねえ!!」
「エレナ……?」
「くっ……!」
あたしが突き飛ばされて……。
エレナが、あたしの身代わりになって……!
「エレナ! エレナーー!!!」
う、うそ……。
なにこれ……。
なんで、どうしてこんなことに……。
「いてて、無事かゆき」
「何やってるの!! エレナが当たっちゃったでしょ!!」
「俺が突き飛ばさなきゃお前が当たってただろ……。ったく折角盾になってやったんだ、そんな顔すんな」
「でもー!」
「そもそも、こんなんじゃ死なねえよ……。大魔法使いの力を受け継いだ俺様をなめるな」
た、たしかに。
血も出てないし、エレナの体だって温かい。
いやでも刺さってるじゃん!
無事じゃないよ!!
ぬ、ぬかなきゃ。
「だが、結構効いたのも事実か。……皮肉にも、学園長から貰った衣装が役立ったか」
「え、エレナ?」
「ちょっと休む。すぐ回復するから……」
エレナ?
ああああああ!!
エレナが目を閉じて動かなくなっちゃった……。
ねえ起きてよ!
お願いだから!!
「エレナ、エレナーーー!!!」
「ゆきさん、大丈夫ですよ。命に別状はありません……」
「セフィリア……?」
「私がそんな事、言えた義理ではありませんね……。全ては私の心の弱さが原因です、ごめんなさい」
「…………」
今起きてる事も、過去起きた事も。
全部何かが少しだけすれ違った結果なんだよね。
それに、エレナが今生きてるのは学園長のおかげでもあるんだから……。
あたしは目を閉じ、大きく息を吸った。
そして、目から零れる涙を拭った後にエレナを抱きかかえると、セフィリアとひなから少し離れた場所にエレナを降ろした。
「ママ? こんな悪い奴らの言う事聞いちゃうなんて……」
「ひな……?」
「ねえママ、ママはひなの事が好きなんだよね? 一番だよね?」
「……そうよ」
「なら!」
「でも、みんなで暮らしましょう?」
「えっ……」
セフィリアは少し憂いげな顔のまま、ひなの頭を撫でてそう告げた。
「……いやだよ」
「ひな……」
「ひなはママとふたりきりなの! ずっとふたりきりで一生一緒って言ったじゃない!!」
「こ、これって!!」
ちょっと!
セフィリアとひなの足下から出てきたのって……。
円柱状の透明のガラスに、何だかよく分からない管。
これって、過去にあたしとエレナがレズバーストした時の装置!
「きゃあっ!」
その管にセフィリアとひなが捕まって……?
な、なんなの。
どういうこと……。
「ひな知ってるんだよ。これでひなとママがひとつになれるって」
「や、やめて……ひな」
「どうして? ママも嬉しいでしょ? 大好きなひなとひとつになれるんだから」
ひとつ……?
まさか、ふたりでレズバーストを!
あたしが戸惑っている最中、セフィリアとひなは次々と管に繋がれて、それと同時にガラスの容器には液体が満たされていく。
「ママ、愛してる」
そしてその一言と共に、ひながセフィリアへ深いキスをすると、ふたりの体が輝きだしていき……。




