48-3
圧倒的なひなを前にして、完全に手詰まりだった。
その時、この戦いを黙って見ていた学園長が口を開く。
「ゆきさん、エレナさん、もう分かったでしょう? 早々に去りなさい」
「そんな!」
「セフィリアさんは諦めなさい」
「諦められるわけないでしょ!」
「たとえセフィリアさんを救ったとしても、彼女の気持ちは報われません……」
「…………」
にぶいあたしにだって分かってた。
セフィリアがあたしの事好きだって。
そして、それには答えられないって事も。
「なら戻って傷つくよりも、私とひとつになったまま、ひなを永遠に愛し続けた方が幸せなのです」
たぶん……、ううん、間違いなくセフィリアは傷つくと思う。
ちょっと前に求婚されて断った時のリアクション、あれは学園長のものじゃなくってセフィリアのものだと思うから。
「だけども! このままでいいわけないよ!」
「何故です? 別にあなた方を邪魔するつもりなんてもう」
「そうじゃあないよ! 学園長はセフィリアの人生を壊したんだ! そんな事……許されるわけないよ」
このまま魂を縛り、肉体を乗っ取り続けたら、セフィリアはずっと返ってこない。
確かにふられて悲しい思いをさせちゃうけれど、それだけが人生じゃないよね?
他にも楽しい事いっぱいあると思うし、……あたしよりも素敵な人だって見つかるかもしれない。
今が辛いからって、可能性を潰していい理由にはならないよ。
「……まさかゆきさんにそんな事を言われるなんて」
「学園長」
「そんな事を言う人ではないでしょう?」
「そうだけどもっ!」
あたしだって、こんな説教じみた事言うキャラじゃないのわかってるよ!
本職は作家だし、学園長の1/5も生きてないし……。
「ママ。もうやっつけちゃうね? あいつら、ママの話聞く気ないよ」
「…………」
「ママ? どうしたの? 顔色悪いよ?」
「ええ、大丈夫ですよ……。心配してくれてありがとう」
「ひな、ママのためなら何だってしちゃうんだよ?」
「…………」
「ああ、確かにゆきの言う通りだ。このままでいいわけないな」
おちょ、エレナ!
今まで黙ってたのに急にどうしたの。
「なあソフィア、お前が望んでいたものは本当にこれなのか?」
「……どういう事ですか?」
「お前はひなに愛されたい、愛したいんじゃなかったのか?」
「そうです。だから私はひなを蘇らせて――」
「んなわけないだろ。こいつのどこがひななんだ?」
「何を言っているです? 紛れもなくひなでしょう?」
「いいや違うな」
「何が言いたいんです?」
「ひなは……、確かに魔王に体を許したのは間違いない。その結果、魔王が俺ら勇者パーティの奴らとは一線を超えた存在になったのも事実だ」
「……ええそうよ。だから今度のひなは私を絶対に裏切らない。ひなは私を愛してくれる!」
「ちげえよソフィア。ひなはな、お前の事を愛していた。いやお前だけじゃない、アルキメディスの事もセレラインの事もだ」
「…………」
「前にゆきに見つけさせた勇者の手記、お前も中身を知らないわけがないだろう?」
「…………」
「本当に好きじゃなかったら、愛してなかったらあんな内容書かないと思うが?」
「…………」
前に学園内で見つけた勇者の手記。
思い返してみると、みんな仲良しだった。
世界変革のキーワードを隠すためのブラフとしても、本当に好きじゃなきゃあんな内容にはならない。
「いい加減、ひなの気持ちに気づいてやれよ」
「…………」
学園長の表情が……なんか悲しげな感じになってる?
もしかして、エレナの説得が効いているのかな。
このまま改心してくれればいいんだけども……。




