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「……い」
ふにゃふにゃぁ……。
こえが、きこえてくるぅ……。
「おい……」
あたしをよんでいる……?
だれがよんでいるの?
どうしてよんでいるの?
「おい! ついたぞ!!」
ふにゃぁ……。
ついた?
ついたって……。
あぁっ!!!
「うひぃ!!」
あ、あれ、ここは……。
そうだ、馬車の中だ。
確か舞踏会をするからお城へ向かうとか言ってたっけかな?
「相変わらず抜けてるな」
「ご、ごめん」
「いせかいとか、すまほとか、どこの出なんだ?」
「いや、そのえっと」
「そら、行くぞ。こんなつまらんところで脱落するのは嫌だろ?」
つり目の女の子は両手を腰に置きながら、少し偉そうに話しかけてきている。
確かにこの子の言う通り、馬車の中はもうあたししか居ない。
はやくいかなきゃ……。
あれ?
脱落って言ってたけどどういう事……?
「あぁ! まってー!」
ともかく今はついていかないと。
置いていかれたら何だかもっと危なそうな感じがする。
そう直感で判断したあたしは口元を袖で何度か拭いて、つり目の女の子の後を追った。
背の高い草木が茂った森の小道を抜けた先にあったもの。
それはロールプレイングゲームの中に出てくるような、石造りの立派な建物だった。
「うわぁ……、すごい」
実際に生で見るのは初めてだ。
すごい、すごいよこれ!
「ここが舞踏会の会場だな」
「ほおほお」
なるほど、確かに舞踏会やりそうな建物だ。
きっと貴族とか王族とかたくさん集まるんだろうなぁ。
そう思っていた時、建物の扉が開くと金属の鎧を身に纏った人とメイド衣装を着た人が次々と出てくると、たちまち横一列に整列した。
「よく集まられた可憐なる少女達よ!」
そしてそのうちの一人が一歩前へ出ると、あたし達の方を向き、そう大きく叫んだ。
おお、しかもこの声から察するに女の人!
女の騎士さん!
重い装備だからこういうのってリアルでは男の人だけだと思ってたけど、まさかいるなんて。
いやぁ、めっちゃ凛々しいし、かっこいいね!
「まずはこれを各自身につけて貰う! 早急に着替えたまえ!」
騎士の一言と共に、メイド衣装を着た人はあたし達へと近づくと、綺麗に折りたたまれた一着の服を手渡してきたので、あたしはそれを受け取り広げてみた。
「あ、あれ? ドレスは……?」
手渡された衣装を見て私は愕然とした。
だってこれ、ドレスじゃなくてどうみてもメイド服じゃん……。
え、もしかして舞踏会に招待って給仕としてなの……?
「ドレス??」
「うん、だって舞踏会って」
「あー、そいやそんな事言ってたなー。ま、着れば分かるよ」
「う、うん……」
つり目の女の子は少しとぼけたようにも見える表情でそう答えつつも、その場で元々着ていたぼろぼろの服を脱いで着替えだした。
「えぇ! ここで脱ぐの?」
「あ? 脱がなきゃ着れないだろ?」
周りの女の子も同じように抜き出すし……。
この待遇、この展開。
間違いない。
舞踏会で華麗に踊って王族に目をつけられてハッピーエンドのような、シンデレラストーリーなんかじゃない。
あたしはメイドとして仕事を貰いにきたんだ……。