46-3
少し前、アルの隠れ家にある秘密部屋にて。
「で、セフィリアを取り返す方法なんだが……」
「うん」
「やはり、百合バーストしかないと思っている」
まあ、そうだよね。
あたしはこの展開予想出来た。
割と万能魔法だからね、うん。
「だが、ただキスするだけだと駄目なんだよな」
「どういう事?」
「ソフィアは、ゆきの中にあるひなの魂を呼び覚まそうとしているわけだ。このままキスすれば、ソフィアの力に負けてしまう」
「……なんで負けるんだろ」
「そりゃあお前、何百年もずっと一途な愛を貫いてきた奴だぞ? しかも意中の相手を娶るために世界まで変えるくらいだ。そんな奴の意思に勝てるか?」
「勝てないかな……」
「だろ?」
うーん。
あたしもそこまで意志薄弱とは思わないんだけども、学園長に比べたら全然だね……。
じゃあどうするんだろ?
「そこでだ、俺とミカエルで逆に百合バーストを増幅しようって作戦だ。ゆきの魔法力を強化して、ソフィアの意思に飲みこまれないようにする」
「そんな事出来るの?」
「百合バーストで他の誰かの魔法力を増幅出来るなら、逆も出来るだろ?」
「おお! なんかすごいかも!」
「だろー? まぁ試した事ねえけどな」
「ですが、それに賭けるしかありませんね」
理論上……。
いやそれ以下だよね、机上の空論レベルだよね。
でも、あたしたちだけで何とかするしかないからなあ。
「それで具体的な作戦なんだが、なるべく警備が手薄なタイミングがいい」
「それなら、ゆきさんとソフィア学園長の結婚式はどうでしょう? 以前の時は多くの人を呼ぶために、警備はかなり手薄にしてましたよ」
「今回もいけるのか? 過去に騒ぎを起こしているんだろ?」
「少々細工は必要ですが、その点は問題ありません」
「ほお……」
そんなわけで、あたしたちはセフィリア奪還作戦を決めていったわけだけども……。
それから数日後。
聖百合教本部、教祖の部屋にて。
「どうですか? 私と結婚していただけませんか?」
まさか真っ向正面から求婚されるなんて!
この展開は予想してなかった……。
うーん。
ソフィア学園長は真剣だ。
先延ばしには出来なさそう。
「必ずあなたを幸せにしてみせます」
そ、そうは言われても~!
どうしよ……。
やっぱここは、おっけー出して結婚式に作戦決行かな。
…………。
いやいやいや!
ここでおっけー出して、このまま押し倒されたら学園長に飲みこまれてしまう!
…………。
それにこの人のやり方はどうあれ、気持ちは本物だもの。
あたしが好きだってのに、なんか裏切るみたいで嫌だよ。
誤魔化したり、嘘ついたりしたくない。
よし。
だったら!
「セフィリア、ううんソフィア学園長」
「はい」
「ごめんなさい」
やっぱ断るしかないよね……。
作戦失敗、これからどうしよ。
「やはりそうですか。残念です」
「学園長……」
「こんなにも愛しているのに、結ばれるために頑張ってきたのに」
「…………」
「うぅ……、すん……」
ああああ……、泣き出しちゃったよ。
すごい気まずいかも。
ごめん、本当にごめん!
好きだって気持ちはすごく嬉しいんだよ?
それにセフィリアの事だって好きだし、学園長にだって良くしてもらったから感謝してる。
でもやっぱだめだよ。
あたしには、もう心に決めた人がいるもの。
「すん……、仕方ありませんね」
「学園長……」
「私は大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」
学園長は目から零れる大粒の涙を手で拭いながらそう告げた。
この時作った、無理な笑顔を見たあたしの胸が痛んだ。
「ううん。こっちこそごめん。それで、これからどうするの?」
結局、あたしとも結ばれなかった。
当初の計画通り、セフィリアに戻ってくれればいいんだけども。




