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ミカエル視点。
まともに戦って勝てる見込みはない。
ならば……。
「ミレーユさん、質問よろしいでしょうか?」
「何?」
「あなたは気づきましたか?」
「……だから何?」
「ゆきさんとセフィリアさんを取り巻く環境、ひいてはこの世界について」
わたくしが感じた違和感について話してみるしかない。
分かってくれるとは思えないにしろ、せめて作戦を考える時間を稼がねば。
「意味が分からない」
「そう、形容しがたい違和感なのです」
「それが聖百合教の教祖をさらう理由とどう繋がるの?」
「あのまま婚約を迎えてはいけないような、そもそもあの婚約自体が変なのです」
「変なのはあなたよ」
この様子だと、ミレーユさんも気づいていないようですね……。
やはりわたくしの思い違いなだけでしょうか?
その程度で、こんな馬鹿げた事までやるのでしょうか?
「それで、何かいい作戦でも思いついた?」
「……駄目ですね。あなたと戦っても勝てる見込みもありませんし、逃げ切れる自信もありません」
「じゃあ諦めて捕まってくれるのね」
万事休す。
ここまでですか……。
「分かりました。ゆきさんと共に都へ戻りま――」
「ミカエル様!!!」
ん?
この声は……。
「ウィーンさん!」
わたくしとミレーユさんの間に突如割り込んできた。
九死に一生を得た……といいたいところですが。
わたくしとウィーンさんがふたりがかりで戦っても、ミレーユさんに勝てるかどうか……。
「ここは私が! ミカエル様はお逃げください!」
「そんな! 自ら命を捨てると!! それにお父様は?」
「旦那様は遠方へと逃げられました。あとはあなただけ……!」
「いけません! むざむざ死にに行くなんて!」
「ミカエル様!!」
…………。
わたくしに、決断しろと……おっしゃるのですね。
「……私は、あなたが感じているものを理解出来ません。ですが信じております」
「ウィーンさん……」
「あなたの行いが正しい事を」
「……分かりました。お願いします」
「ご武運を」
ウィーンさん、ありがとうございます。
あなたと家族で……良かった。
そう思うとわたくしは、ゆきさんを連れてその場から離れた。
ミレーユさんは流石にウィーンさんがいたせいか、わたくしを追ってくる様子は無かった。
都から離れた場所。
平原のどこかにて。
「はぁっ……、はぁっ……」
家族を危険にさらし……。
自らの身を危険にさらし……。
「はぁっ……、はぁっ……」
家門を捨て……。
地位を捨て……。
「はぁっ……、はぁっ……」
過去を捨て……。
今を捨て……。
わたくしは、何をやっているのでしょうか。
「…………」
こんな非合理的な事、どうして。
自分でも分からない……。
「……ここは?」
森でミレーユさんから離れた後、都から離れるように走ってきたつもりですが……。
周囲は草で覆われているのに、そこだけ茶色の大地がむき出しになっている。
その様子を見て、わたくしは直感した。




