37-9
セフィリア視点
私がゆきさんを治療しようとした時。
「ちょっと出てくわ。すぐ戻ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
エレナさんが部屋から出て行きました。
きっとお花摘みでしょう。
…………。
…………。
そういえば、ハンカチ持っていかれたのかしら。
エレナさんはよく忘れて、手を洗っても服で拭いたりしてましたからね……。
「ゆきさん」
「うん?」
「ちょっとごめんなさいね、すぐ戻ってきます」
「うんー」
百合教の教祖であるゆきさんの旦那様であり、第一巫女としてだらしないのはいけませんね。
私が持って行ってあげましょう。
…………。
…………。
「……に?」
「……よ」
おや、こちらから声が聞こえてきますね。
エレナさんと……、後は誰でしょうか。
「な、なにをするの!」
「いいじゃねえか」
あれは……、ゆきさんと戦ったリゼットさん?
エレナさんが無理矢理手首を掴んで……いったい?
「馬鹿じゃないの? わたしはそういう趣味じゃないから」
「何言ってるんだ? 俺は分かってるんだぞ、ゆきの事が気になってるってな」
まるで理解出来ない。
これはどういう事でしょう……?
「はぁ? あなた頭おかしいでしょ」
「じゃなきゃ、わざわざ負かされた相手の心配なんかしねえからな」
「人の話聞いてないわね」
話を聞く感じ、ただ事ではなさそうですね……。
これは仲裁に入るべきでしょうか。
でも……。
「だいたい、あなたにはゆきがいるでしょう? こんな事して良いと思ってるわけ?」
「関係ねえよ」
もしかして、リゼットさんに無理矢理迫った……?
まさかエレナさんが?
あれだけゆきさん一筋だったのに、何故?
「だいたいあいつは鈍いからな、俺がこんな事してるなんて気づかねえよ」
「ふーん、その物言いだと手当たり次第ってわけね。最低」
「ああそうさ俺は最低だ。貧民街育ちを何だと思ってるんだ?」
えっ……。
そんなまさか。
何かの聞き間違いですよね……?
「それでも分を弁えていると思っていたのに……」
「気に入った奴は襲う、食う、寝る。そうやって生きてきた」
確かに、エレナさんは入学前は貧しい生活を送っていたと聞きました。
ですが、このような事をする人ではない。
そう思ってたのに、どうして……。
「ずっと気になってたんだよ。普段すましてるお前が、ベッドの上じゃどんな顔をするのかってな!」
「い、いやあ!」
「いてぇ、てめえ! あ、こら待て!!」
エレナさんは、ゆきさんの旦那様。
だから、ゆきさんに相応しい人で、ゆきさんもそれを認めていて……。
…………。
…………。
こんなの何かの間違いです……。
きっと、他人の空似だったんでしょう。
そう、間違いです。
私ったら何を考えているのかしら。
ふう、私とした事が取り乱してしまいました。
おっと、エレナさんのそっくりさんに巻き込まれると大変ですし、リゼットさんも無事に逃げたみたいですし、この場から早々に去らねば。
私はそう思い、その場を後にした。




