35-6
セフィリア視点
MA学園、学園長の執務室にて。
「椅子にかけてください。紅茶を用意しますね」
「ありがとうございます」
私は学園長に誘われた。
特に心あたりは思い当たらない。
「あの、用件はなんでしょう?」
「お話をしたかったのですよ」
「お話?」
「ええ、教祖であるゆきさんや、巫女であるエレナさんやセフィリアさんの近況とか、あとは雑談とか?」
「ふむふむ」
「ですが、エレナさんはとてもお話してくれそうになかったので、こうやってセフィリアさんをお招きしました」
一見、ただの世間話をしたいだけなのかと思ってしまう。
でもよくよく考えれば、ゆきさんやエレナさん、私の行動は商人ギルドの方からでも聞けるはず。
「ゆきさんの様子はどうです? 病気とかされてないでしょうか?」
「作品発表前は睡眠不足に悩まされていますが、それ以外は特に元気です」
そうなると……。
このふたりきりの会話の狙いは何でしょうか。
「じゃあ、エレナさんはどうでしょう?」
「聖百合教で預かっている子供達の面倒を見ていますよ」
「おや、聖百合教は孤児院もやるようになったのですね」
「最初は彼女の家族だけでしたが、今ではそれ以外の身寄りの無い子も預かってます」
「なるほど、そうだったのですか」
世間話しかしない。
今の学園長が、そんな事で私を呼ぶなんて考えられません。
「学園長」
「なんでしょう?」
「本題に入って下さい」
「そんなに構えなくても良いですよ。別に何もしませんから」
確かに、何かするならもうしているはず。
特に魔法力も感じない。
なら、本当に話をしたいだけなのかしら?
「なら、本題に入りましょうか」
きましたね。
さて、何を聞いてくるのでしょうか。
「セフィリアさんは、ゆきさんの事をどう思われてますか?」
ゆきさんの事?
何を今更……。
「……良き友人であり、家族のような存在です」
「いい答えですね」
私にとってのゆきさんは、学生時代からの友人であり、同じ聖百合教に属している。
ゆきさんは教祖で、私は巫女のひとり。
そのよしみで、魔法少女ギルドのクエストをご一緒させて貰っている。
それ以外に何もないのに、どうしてそんな事を聞くのでしょう?
「ですが、嘘をついていますね」
「……どういう事ですか?」
「あなたは本当はこう思っているのではありませんか?」
学園長、一体何を……?
「”ゆきに相応しいのエレナさんではなく、私である”と」
「はぁ……」
あまりにも突拍子すぎて理解が出来ない。
ゆきさんはエレナさんと婚約し、夫婦になった。
確かに結婚式のような、儀式的な事は何もしてなさそうですが、そんなのは関係ない。
疑いようのない関係。
なのに、何を言っているのかしら。
「お話はそれだけですか?」
「はい」
「なら失礼させていただきます」
学園長とふたりきりになるくらいだから、何かあると構えていた。
でもまさか、こんな事を言われるためだけに呼ばれたなんて。
馬鹿馬鹿しすぎますね……。
私はそう思いつつ、学園長に少し失望しつつ、執務室を出て行った。




