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「それじゃあ、あたしはどうすればいいんでしょう?」
「分かりません。私は画家ではありませんからね」
ええ、そんなー。
なんか散々言われたのに、分からないって……。
「その答えを明日までに出すのが今回の宿題です」
なんだろう、”この先は自分の目で確かめろ!”って明確な回答を言わず、投げっぱなしな攻略本みたいな感じだよ。
うーん。
生きた絵を描く方法かぁ……。
…………。
…………。
…………。
…………。
だああああ駄目だあああああ!!
そんなの分からないよおおお!!!
あたしは苦悩しながらも絵を描き続けた。
それでも、学園長を満足させる事が出来なかった……。
試験前日。
教室にて。
「ゆき、眠そうだな。大丈夫か?」
「う、うん……」
結局、学園長を納得させられなかった。
答えが気になってずっと寝れなかったし……。
「ねえエレナ、明日試験だけどもどうかな?」
「おう! しかもとっておきも用意したぞ!」
とっておきって何だろう?
エレナの事だから、すんごい魔法とかかもしれない。
「これであのふざけた奴らをボコボコにしてやる……」
ウィーンに大切な杖を折られ、しかも一切謝る事もなしだしなぁ。
あれ、壊れた杖どうしたんだろ。
「杖はどうしたの? 修理したの?」
「いや、ここの工房へ持っていったが駄目だった。だから新しいのを貰った」
なるほど、魔法道具も支給してくれるのかー。
あたしもせめて、強い武器くらいは見繕ってもらうべきなのかなぁ。
「で、ゆきはなんでそんなにボロボロなんだ?」
「うーん。実はね――」
あたしは、学園長の個別授業の事は隠しつつ、イメージトレーニングのために絵の練習をしている事だけを伝えた。
「ゆき、絵描くのか」
「うん」
「ちょっと見せてみろよー」
「う、うん。はい」
思えば、なんか人に見せていい結果だった試しがないや……。
今回もダメだしかなぁ。
「上手いじゃねえか」
「ありがとう……」
意外と高評価だった。
ちょっと嬉しいな!
「でもこれじゃあ駄目なんだ。もっと人を感動させないと……」
学園長も技法に問題はないって言ってくれてた。
人を感動させるのが大事って言ってた。
でも、それが分からない……。
もう明日だし、間に合いそうにないよ……。
「なんだ、そんな事か」
悩んでいるあたしとは逆に、エレナは拍子抜けした表情をしながらそう告げた。
「そんな事って、エレナは分かるの?」
「んなもん簡単だよ。ここだよ、ここで描くんだよ」
そしてエレナはそう言いながら、握りこぶしであたしの胸をトントンと叩いた。
「むね……?」
「そうだ。ゆきは絵を描くだろ? 何のために描く?」
「え? うーん。なんだろう」
あたしの絵を描く理由。
有名になって、チヤホヤされて、あわよくばお金いっぱい稼いで……。
「分からずに描いてるのか?」
「そ、そんな事ないよ! ゆ、有名になりたくて……」
「いやそうじゃなくて。あーそうだなー。なんで絵を始めたんだ?」
あたしが絵を始めたきっかけ。
それはほんの些細な理由だ。
小さい時に見たアニメで、女の子同士がちょっと恥ずかしがりながらも、力を合わせていろんな困難を超えていく。
それがかっこよくって、あたしもそういうのが描きたくって。
元々絵描くのは好きだったし……。
「あたし……、絵描くの好き。女の子カップル好き」
そっか……。
元々は、あたしは絵を描くのが好きだったんだよね。
女の子同士が恥ずかしがりながらも手を繋いだり、優しくしたりされたりするのが好きだったんだよね。
でも好きの延長で始めた同人活動で、全然売れないし作品も広まらなくて。
そのうち好きな絵を描いて楽しいよりも、売れる事が楽しいと思うようになってた。
だからちっぽけの売り上げや評判に一喜一憂したり、同人本売るためにコスプレとかSNSとかで絵を描く以外の活動もするようになったり……。
あたし、いつの間に変わっちゃったんだろうね。
なんか一番大切な事、思い出した気がするよ。
「ならそう思いながら描けばいいんじゃないか?」
「うん。もうちょっと頑張ってみる」
「おう! お互い試験頑張ろうな!」
それに、好きなもの描いて駄目だったら諦めもつくよね。
よーし!
絵を描いたら、もう一度学園長へ見せに行くぞー!




