4-6
学園長の個別授業を受けてから3日が経った。
「ゆき。顔色悪いぞ? 悪い物でも食ったか?」
「だ、だいじょうぶ……。あはは……」
個別授業をするためには、普段の授業はおろそかにしない事と、個別授業は誰にも言わない事という約束を守る事なんだけども。
普段の授業は、歌を歌うとかダンスをするとか時間中ずっと瞑想とか、魔法とはとても関係なさそうでかつそこまできつい内容なものでもなかった。
だけど、個別授業がきつかった。
魔法に関する基礎的な勉強は、まるで何も知らない小学生が突然英単語の勉強をするくらいに未知で意味不明で、暗記だらけだったからだ。
「ゆきさん、そうじゃありませんよ」
「は、はぃい……」
元々勉強は得意じゃなかったし、現世での成績も中の下だった。
だからこういうのはきつくって、逃げ出したいと何度も思った。
だけど不思議と投げ出す事は無かった。
それはきっと、学園長の教え方が上手だったのかもしれない。
その結果、あたしの知識はみるみるついていき……。
個別授業を受けてから7日後。
「よく頑張りましたね、座学に関してはしばらくはこれで問題ないでしょう」
「ぐへえ……」
「次はいよいよ実践訓練ですね」
おお。
ついに魔法を使う時がきたんだね。
今まで暗記した魔法理論……、無駄にしてなるものか!
「舞踏会で使った場所にいきましょうか、今ならだれも居ないはずですし」
「はい!」
あたしは自分の頬をぱんぱんと二度叩いて気合を入れ直すと、学園長の後を追った。
舞踏会が行われていた広間にて。
「さあ、それでは早速ですが魔法を使ってみましょう」
「はい」
おお、いよいよ始まる!
入学した時はさっぱりだったけど、今は上手くいくかな……。
「まずは手から火を出してみてください」
「あの、やり方は……?」
「自分の手から火が出る場面をイメージするのです。その際、少しでも疑ったり迷ったりしてはいけません」
イメージ……?
なんだろう、頭の中で思い浮かべればいいのかな。
うーんうーん。
手から火が出る手から火が出る手から火が出る……。
「やああ!」
いけええ!!
ってあれ、一瞬ボソッと出て消えちゃったよ……?
みんなが使ってるみたいにばんばんどんどこ出ない。
何がいけなかったんだろ?
「うーん、まだまだイメージが弱いですね」
あたしはこの時察した。
今まで無意味だと思っていた普段の授業は、このイメージ力のトレーニングだという事を。
そして、見かけ上は真面目にやっていたけれど、半信半疑で受けてきたせいで全然トレーニング出来ていなかった事を!!
確かにみんな授業はめっちゃ真面目だった。
ダンスの授業とか、エレナは一心不乱に踊ってたし、ミカエルや、ウィーンや、他の人だって真剣そのものだ。
あぁ、あたしは何をやってたんだ……。
ばかばかあたしのばか!
「残り3日はイメージ力の向上を目指しましょう」
「はい……」
それからもずっとイメージトレーニングのための瞑想とか、魔法を実際に使ってみたりした。
だけど大した成果は得られず、残り日数も少ない事から疲労と焦りだけが残った。




