30-3
「ここを見てください」
そう言われてみたのは……。
「なんだ? ただの壁じゃないか」
「何もありませんねえ」
ただの薄汚れた壁だった。
「そう、何もないのです」
いや、そんなこと言われても。
わかるよ、それくらいは、うん。
それで?
何だろう……?
「確かに、おかしいですね」
むむ。
セフィリアは気づいた?
という事は何かあるってこと……?
「……あー、確かにな」
えええっ!
エレナもわかってる!
わからないの、あたしだけ?
やだ、理解力低すぎ……。
うーんうーん。
何も無いのがなんでおかしいの?
うーんうーん……。
だって、壁には扉が等間隔にあって、それぞれ部屋があって。
でもここだけ何もなくって、その先にはまた扉があって、でもその先は行き止まりで。
ん?
ああーーーー!!!!
ピンときた!!
「扉が等間隔でずっと続いているのに、ここだけひとつぶん無い!」
「そうです」
そういうことだったのね!
あー、わかるわかる!
「だから、ここには何かがあると思ったのですがどうでしょう?」
「うんうん、早速あたしが触ってみるね」
いやあ、気づけば露骨に何かある感じでてるよねー!
よしよし、じゃああたしの勇者の力で触れば……。
…………。
…………。
「あ、あれ?」
触っても、何も起きない……?
「うぐぐぐ……」
強く押しても、意識を集中しても……。
「ぷはぁ! なにもおきないよ~」
駄目だ、うんともすんとも言わない。
「ふむ、勇者の力以外が鍵になっているのでしょうか?」
「案外、何もないんじゃないか?」
あたしと入れ替わり、ミカエルがその何もない壁を触ったり、近くで見たりした。
「普通の壁ですね」
「あらあら」
「……申し訳ございません。私の勘違いでした」
「まー、ここには何も無いって事だろ。戻るか、ブランディとパトリシアにも悪いしな」
何も無さそうで、何かがありそうな壁は、結局何も無かったって事だったのね。
うーん、せっかくここまで来たのに。
「ひなの言ってた事、ここに来たら何か分かるかなって思ったんだけどなぁ」
「仕方ない、別の方法を――」
なんかどっと疲れちゃったかも。
でも、即売会の方も大変だし戻らなきゃ。
そう思い、来た道を帰ろうとした時。
「な、なんだ!?」
ゆ、揺れてる!
全体が……!
な、なんで、どうして?




