19-2
「もう出てくのか?」
「うん。エレナは?」
「ゆきが出て行くなら付いていく」
やだ、エレナったらもう!
そうだよね、あたしたち夫婦になっちゃうんだからね。
「そうしないと、俺の飯の種がないからな」
「だ、だよね……」
ですよねー、確かにそうだよね。
「で、心当たりはあるのか? まあ作家やってれば大丈夫か」
「それもそうだけど、ちょっと行きたい場所があるから一緒に行こう」
「おう」
とまぁ、金銭的な面は問題ないと思うけども。
ちょっとやらないといけない事があって……。
たぶん、エレナも必要になってくるから、ちょうどいいね。
そう思いつつ、あたしは荷物をカバンにまとめて部屋を引き払い、学園を出てある場所へ向かった。
王都内にある商人ギルドの商館にて。
「こんにちは。ゆきです」
「あら、ゆきさん。よく来てくれましたね」
「いつもお世話になってます」
「いえいえ! こちらこそ本当にお世話になっていて、ホホホ」
ギルドの商館は、いかにもファンタジー世界っぽい洋館だ。
内装も実にあたしの想像を裏切らない感じになっている。
というか、今はそっちよりもギルドの人が妙にご機嫌なのが気になるね。
何かいい事あったのかな?
「おや、卒業なされたのですよね?」
「はい」
「魔法少女の名前は貰いませんでした?」
「あっ」
しまった!
そうだ、あたしの名前はゆきじゃなくてエステレラだった!
やばっ、セフィリアに学園長の魔法から解放して貰ったのばれちゃう!
どどど、どうしよう。
「も、貰ったんですが、別にゆきのままでもいいかなーって! あははは!」
「普通はみんな魔法少女名を名乗るのですが……、まあゆきさんが良いならいいんでしょう」
ほっ、なんかあまり気にしてなさそうで良かった。
でも、みんな名乗るって事はやっぱり学園長の魔法で名前を奪われたって事なんだよね。
うーん、確かにセフィリアの言う通り何かあるんかな。
「それで何かご用でしょうか? もしかして新作の原稿です?」
「新作はもうちょっと待っててくださいっ……!」
新作は学業の間で進めていて、あともう少しで出来上がるのはいいんだけども。
「いえいえ、そんな急がなくてもいいですよ。教祖としての活動もありますからね」
「あはは……」
そういえばあたし、教祖だったね……。
そっちはあまり乗り気になれないかな……。
でもファンサービスもしないとだよね。
「あの実はお願いがありまして」
「はい、なんでしょう」
ってそんな事をしみじみ思っている場合じゃないや。
本題言わなきゃ。
「実はあたし、首席辞退した上にパトロンカンファレンスも出てなくて、学園で使ってた部屋も引き払っちゃったので住む場所が無くって……」
作家活動で資金はどうにかなると思ってた。
でも、住む場所が無いのに困ってた。
いやー、最初は空き家とか探したんだけども。
これが意外と高くって、安い場所は既に他の魔法少女がおさえてて……。
だから、ギルドの人にお願いして商館の空き部屋でも倉庫でもなんでもいいから、ちょっと泊まる場所を作って欲しいってお願いをする必要があったんだ。
「ああ、そんな事でしたか! ちょうどよかったです。ささ、こちらへ」
おお、なんとかなりそうだね!
よかったよかった。
うん?
ちょうどよかったって……、どういう意味?




