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ぶっちゃけ、50000だろうがそれ以上だろうか、あたしには関係なかった。
「さあ、構えなさい。正々堂々相手をしてあげますわ」
「その前に、これを読んで!!」
「何を言っているの?」
「いいから!! 読んでから勝負だ!」
そう、魔法力の数値なんて関係ない。
さっきと同じ様にあたしの同人本を読ませて、気持ちを揺さぶってやるしかない。
「何の魂胆かは分かりませんが、いいでしょう。ですがわたくしに呪いは通じませんわよ? もっとも、あなたの魔法力では使えませんでしょうが」
いちいち腹立つねこの人……。
というかやっぱり読むんだ……。
いやまぁ、ありがたいけどね……。
と、ともかく、あたしの作戦通りだ。
ふっふっふ。
さあ、あたしの作品を読んで動揺するがいい!
…………。
…………。
…………。
…………。
さっきの女の子みたいに動揺して戦いどころじゃなくなる!
……はずだった。
「ふぅ……」
あれ、なんでそんなに落ち着いているの。
そこは顔真っ赤にして、恥ずかしくなったりするところだよ?
「わたくしは今まで様々な名画や詩を見たり、読んだりしてきました」
「う、うん……」
なんか急に自分語り始めてる……。
そういえば名家だっけか、英才教育ってやつかも。
あたしには関係ないけどね、マウント取りたいだけかな。
「場面ごとに絵を変えていき、それらが時系列になっている。斬新なアイデアだと思いますが……」
あーそっか。
異世界に漫画という概念がないから、そういう見解なんだね。
あれ、意外と好感もててる?
「なんなんですかこれは! 全く以て駄目です!!」
「ええええええ!?」
「ただ婦女子が不埒な行為をするだけ! やまなし! いみなし! オチもなしっ!!!」
がーん……。
まさかのダメだし……。
しかもやおいセットとは……。
「これを読ませてどうするつもりだったのです?」
「いや、その……」
「まさかわたくしを動揺させようと?」
うぐっ、ばれてる。
「はぁ、いろいろと期待外れですわ」
動揺出来なかった衝撃も大きいけれど、純粋に読んでくれた結果の辛辣な感想のほうが、あたしの心に堪えていた。
うう、胸が痛い。
これでも同人歴そこそこあるのに……。
もしかして、さくやとあたしの差はそこなの?
ジャンルとか趣向じゃなくって、内容の差……?
「これを受けてあなたの家へ帰りなさい。 シャドウ・エクスターミネーション!!」
「ひぃいい!!!」
って今は自分の作品を分析している場合じゃない!
めっちゃ杖にエネルギー溜めているし。
はわわわわわわわ、どどどどうしよう!!!!
作戦は失敗だー!
もうおしまいだあああーー!!
「そこまでです」
このまま美人さんの魔法を受けてアウトと思いきや……。
壇上から舞踏会会場全部に響くくらいの大きな声が聞こえてきた。