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あたしは、六花ゆき!
花も恥じらう16歳、高校2年生!
そんなあたしの夢は絵で有名になる事!
だから今日もその夢の為の一歩として、同人本を売りに来た!
……わけだけども。
「本日の即売会は終了になりまーす。参加者は会場からの退場と撤収をお願いしまーす」
会場には無情なアナウンスが流れ出す……。
他の参加者はそそくさと撤収作業に入っていく……。
「だあああ!!! 今日も売れなかった……」
この時、机の上にはまだ同人誌が山ほど綺麗に積まれている。
この状況、この状態。
つまり、ほとんど売れてない!
すなわち爆死。
「うぐぐ……」
机に突っ伏すあたし、本の山がより高く見える……。
な、なぜ!
なんでよ!!
どうしてこうなった!!!
はっ!
さては、この会場が悪いんだね?
そうだきっとそうだよ!
だからみんなも売れて……。
「やっほーゆき~、売り行きどう?」
「さくや……」
「いやぁ大忙しだったね!」
「…………」
「でもやっぱ地方だなー、売れるのに時間いっぱいかかちゃってさー」
「…………」
他の人は売れているじゃん!!!
あ、あたしだけ……だった……。
「んじゃ、私は売り子さんと打ち上げあるから、またね~」
「う、うん」
突如目の前に現れ、あたしを散々死体蹴りして去って行った彼女。
木花さくやは、あたしの同級生であり唯一の友達だ。
元々同人活動はあたしの方が先輩なんだけども。
さくやも絵が描けるので試しに誘ってみたら、僅か1年で売れっ子になってしまった。
今じゃ同人だけじゃなくて一般誌にも出しているみたいで……。
なんかこう、あたしのやりたい事全部颯爽と叶えていってしまって……。
つまり、うらやましい!
けしからん!
むきー!
だいたいずるいよ!
美人のさくやがコスプレして客寄せとか……。
元々家がお金持ちで親戚に雷報堂社員(※大手広告代理店)がいて、そのコネ使って自分売りこんだりとか……。
シャイニーズの足腹君(※自称オタクの超有名アイドル)に、一般誌の作品をステマさせるとかチートすぎる。
いろいろと反則だー!
人生二周目かよおおお……。
「はぁ……、片付けしよ」
あたしの何がいけないんだろ……。
頑張っているはずなんだけどなぁ。
あんまし乗り気じゃなかったけども、さくやと同じ様にコスプレしてみた事もあったよ?
でも、ぱんつ盗撮されただけで売れ行き変わらなかったし。
それに、出版社のコンペにだって送ってるよ?
でも、全部一次落ちだし……。
うぅ……。
はっ、いけないけない。
これ以上考えるとますます暗くなっちゃう!
負けるなあたし、頑張れあたし!!
そう思いつつも、慣れた手つきで撤収作業を終わらせる。
そして、逃げるように早々と会場から出て行った。
「またお小遣いのため直しかぁ」
同人活動もタダじゃない。
本当なら、同人本売れたお金で解決できればいいんだけども。
それが叶わないので、アルバイトで捻出している。
(決してイヤらしいのじゃないよ!普通のファミレス店員だよ!)
「うーん……、やっぱ内容なのかなぁ」
あたしは今日の為に描いた同人誌を、カバンの中から取り出して見つめる。
内容は、今流行っているスマホゲーム「Destiny Sky Order」、略してDSOの中に出ている女の子同士がイチャイチャうふふしている。
所謂、百合モノだ。
構図もコマ割りも変なところはないと思う。
誤字脱字だってだいじょう……、うげ、送りがな間違ってる。
う、売り上げには関係ないよね……?
たぶん。
「…………」
次にあたしはさくやの作品の事を思い出す。
さくやの出す作品はあたしと同じ題材だけども、内容はもっと濃厚というか過激というか行き過ぎているというか。
所謂、レズモノだ。
さくやの作品は宣伝もあるけど、毎回完売してる。
ん?
いやまて。
宣伝も何も無かった初回ですら完売してたような……?
うーん、画力は同じはずだ。
そうなると、もしかして。
……レズの方が需要が高い?
百合需要ない……だと?
なら私も描いてみる……?
いやいやいやいや!
行き過ぎたのはなんか違うよ!!
激しくすればいいってもんじゃないしさ!
それにさ、やっぱこう……。
女の子同士が恥ずかしげにキャッキャして、イチャイチャしてっていうのがいいし……。
そうやって本を持ちながらいろいろと考えている時。
「うひゃあっ! 本が!!」
突然強い風が吹いて、あたしの手元から同人本が飛んで行ってしまった。
同人本はまるで鳥のように表表紙と背表紙をぱたぱたとはためかせながら遠くへ行く。
「ひえええ……、まってよー!」
あたしはちゃんと真面目に描いている。
自分の作品は我が子のように大事だ。
でも普通の人が見たらうわぁ……ってなるのは間違いない。
あたしは花も恥じらう16歳!
それがあたしの物ですなんて言ったら……!!
だからあたしは全力で飛んでいく本を追いかけていき。
「つ、つかまえた……」
どうにか地面に落ちてくれた同人本を捕まえる事に成功した。
とりあえず恥ずかしい目にあう事はこれでなくなったから、このまま家へ帰るとして……。
「えっ……」
本を拾い上げた瞬間、クラクションの音が鳴ると共に目の前に大型のトラックが現れて……。