強がり
「あなた、さすがに何でもかんでも醤油かけ過ぎよ。」
「濃い味が好きなんだから、仕方ないだろ。」
「お酒もタバコも減らないし、そんなに不摂生だと短命になっちゃうわよ。生命保険、1つ上に変えておこうかしら。」
「それがいいな。保険金おりたら、趣味の旅行でも行ってきな。歳から考えても、順番的に俺が先になりそうだから。」
「それも良さそうね。考えておくわ。」
――
「ねぇ、おばあちゃん、おじいちゃんまた庭でタバコ吸ってるよー、いいの?」
「いいのよ、昔よりは随分と減ったから。あんまり厳しく言うと、禁煙なんてしたらストレスで逆に体に良くないって言いかねないから。胃がんの後だって、ついでにタバコ辞めたらってお医者様に言われても頑なに減らさなくてね。」
「え、ドクターストップ?おじいちゃん何してんの。」
「そんなに大層な事じゃなくて、流れでね。入院中に我慢出来たし、そのまま禁煙してみても良いんじゃないかってアドバイスもらったのよ。減らしもしなかったけど。もう20年前の話だから本人は覚えていないでしょうけど。」
「じゃあ、いつから減らしてるの?最近?」
「15年前よ。タバコ臭いって孫に嫌われたら大変ねって冗談言ったら、すぐ減らしたのよ。だから、あなたが生まれてすぐね。それからはずっと今の状態で、慣れると苦じゃ無いみたいよ。それ程、孫に嫌われるのが怖かったのね。あの人、ああ見えて寂しがりだから、」
「婆さん、聞こえてるから。あんまり変なこと吹き込まないで。」
「あら、まだ耳は遠くないのね。」
――
「あのババア、俺を置いていきやがって。本来なら俺が先で、お前は旅行終わってからのはずだっただろ。なに俺を追い越してんだ。こうなるのが嫌だったから、減らしながらも不摂生を続けてきたのに…」
「おじいちゃん、それ本当?」
「そんな訳あるか。いや、聞こえてたとしても、そっとしてきなさいよ。こう言う時は。」
「きっと、おばあちゃんのことだから、ひと足先に最後の旅行に出たんでしょ。旅好きだし、気ままな人だから。」
「あいつ口うるさいだけじゃなくて、ついにせっかちもそこまできたか。いつも旅先で食べ過ぎるから、俺は胃薬持っていってやるか。」
「たぶん1人旅楽しんでるから、まだ来るなって追い返されちゃうね。しばらくは。てか、おじいちゃんって本当に寂しがりだったんだね。」
「あいつに似て、一言増えてきたな。前はただ可愛い孫だったのにな。」
「今は?」
「口うるさくなってきたけど、憎めない可愛い孫かな。」
「あんまり素直だと、心配になる。」
「あのな…いや、いいや。ありがとうな。」
――
「やっぱり、あのババアはせっかち過ぎたな。もう5年待てば、こんなに可愛い曽孫に会えたのに。これはもう胃薬持っていくついでに自慢するしかないな。」
「縁起でもないこと言わないの。もう既に、おばあちゃんの仏壇に向かって連日自慢してるじゃない。さすがのおばあちゃんも耳にタコできちゃう。」
「会えばどうせ、その倍くらい旅の土産話されるんだから、おあいこだろ。それに曽孫の成長を思うと、まだしばらくは会いに行けないな。」
「その間、おばあちゃんの旅の土産話も増えてるだろうから、頑張って。耳もまだ遠く無いでしょ。」
「そうだな、互いに話は尽きないな。」