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絶対に負けたくない笹川となるべく負けたくない俺が二人でボッチ飯するだけの青春ラブコメディが始まらない

おうどん美味しい!

 皆様は、ボッチ飯というものをご存知だろうか? そう、一人で飯を食べるアレである。


 古来から人間は……いや、その祖先である猿でさえ、群れという名のコミュニティを形成し生きてきた。一人の力より複数の力の方が強いのは当たり前であり、強ければ生き残れる弱肉強食の世界では数は正義なのである。


 一方で、僅かながらも群れから弾き出される物は存在する。和や規律を乱す者や、協調性の無い者、何かしらのハンディキャップを抱えている者を介護し続ければコミュニティはいずれ崩壊に向かってしまうからだ。


 そんなコミュニティから弾き出された者、客観的に見て弱者(・・)が行わなければならない行為が、所謂『ボッチ飯』なのである。


 いや、俺自身はそんな風には思っていない。現代社会は個人戦であり、群れを形成せずとも生きていくことができる。一人であろうが生きる楽しみなど無数にある。只、人間が猿から進化した事を考えれば、ボッチは劣っていることであり、恥ずべきことなのではないかと心の何処かで思ってしまうのだ。


 ここまでの話で、皆さんはお気づきであろう。俺はボッチだ。


 独りぼっちのボッチであり、孤独という意味のボッチだ。残念ながら望んでなったわけではないので、孤高という称号は付かない。


 高校に入ってから普通にしていればできると思っていた友達はいつしか幻想のものとなり、どうやら俺の普通(・・・)は皆の普通ではないと気づいたときには既に時遅し。気がつけば冬。俺は昼休みにすごすごと教室から退散し、飯を食べるための人の居ない場所を探し彷徨くゾンビと化していた。一体俺が何をしたっていうんだ? ああなるほど、何もしてなかったんですねクソが。


 さて、ボッチ飯は何処で食べても良いというわけではない。いや、これはボッチを恥ずかしいと思う俺の弱い心が勝手に生み出した俺ルールだが、『ボッチは恥ずかしいことなのだから人に見られるような場所で食べてはいけない』のである。


 空き教室などで食べよう物なら横の廊下を偶々通り過ぎた奴らに『あ……アイツ一人飯してる(可哀想)』などと思われてしまうッ! 被害妄想? そうかもしれん。然し、そうでないかもしれん! 戦ってもないのに何か負けた気分になる俺の心の平穏の為に、今日も人の居ない場所を探すのだ。


 今日はそうだな……屋上はどうだろうか。この学校の屋上はフェンスが張ってあり、あまり見晴らしが良くないので人気が無い。加えて、今日は曇りである。幸い雨雲ではないが、ただでさえ冬場だというのに日の当たらない屋上に出て飯を食う物好きは居ないだろう。昼休みもそれ程長いわけではないしな。


 *


 物好きが居た。


 意気揚々と扉を開けた先で今にも一息着こうと座りかけていた、同クラの直毛ポニテパツキンハイソ女の名前は確か…………そう、笹川(ササカワ) 一美(ヒトミ)。端的に言えば、同類(ボッチ)である。顔は中々に整っているし運動神経もいいのだが、熊をも殺せそうな眼光とキツイ喋り口調で段々と人が寄らなくなっていった後天的ボッチである。後天的ボッチって何だ。


 先客がいるのなら仕方ない、立ち去るとしよう……と、扉を閉めようとした瞬間、笹川と目があった。


「ねえ、」


 うぉおおおお声掛けられた!? 『土に還れ』とか『この聖域から立ち去るがいい』とか言われるんでしょうかね!? ボッチなコミュ障が生きててマジすんませんした足早に退散するんで許してつかあさいっ!


「な、何でしょうか……」


 何でしょうかって何でしょうか!? ていうか「か」の音消え入りそうになってたよ! 最早「何でしょうぁ……」みたいになってたよ!?


「私の事、ボッチ飯してるって思ったでしょう」


「思ってないですッ!!」


 よく秒速で声を張り上げて発音できた俺! 思ってるとか無言回答だったらこれ殺されるやつだ! 首の骨とかへし折られてグッバイ今世になってしまう!


「ホントに?」


 いやあああああ! グングン近づいて来ないでお願いします! 命の危機と女子が近くにいるという相乗効果で俺の心臓がメッチャバクバクしてらぁ! これが吊り橋効果? いいえ、ケフィアです。じゃねぇよ!?


「ほ、ひょんとうです……」


 『ほ』言えてたじゃっん! 何でどもって言い直したの馬鹿野郎!


 ああ腕組んでそんなにジロジロ見ないでください笹川さん、俺シャイなの。嘘。いややっぱ嘘じゃないけどシャイが理由ってのは嘘でああもう死ねよ俺ッ!


「ま、いいけど」


 いいんかいっ! じゃあなんで聞いたの? 俺の事好きでちょっとでも接点持ちたかったの? いや、自意識過剰はマジキモいから止めろや(冷静)(冷静じゃない)


「じゃぁ、俺はこれで……」


「待って」


 もう何!?


「昼御飯、此処で食べるつもりだったんでしょ」


 いやそんなつもりは毛頭ないからもう帰らせてくれ!


 然しそんな嘘を吐こうにも、無情ながら俺の手には母ちゃんのベントゥーがある。畜生フォアグラぐらい入ってろよコノヤロウ?


「あー、まあ……はい。いやでも、お邪魔になるだろうし」


「貴方如きが私に気を使えると思わないで!」


「ヒッ」


 急に大声を上げた笹川につい間抜けな声を出してしまう俺氏。止めて俺虫も殺せない程気が小さいから。鶏印の殺虫剤は散布するけどマジで手で潰せないから。どうでもいいな。


「気を使っていいのは立場が対等か、それ以上の人間だけよ。初対面の貴方にそんなことされるのは何か、負けた気がする(・・・・・・・)わ」


「へ? アッハイ」


 えぇ、何この人面倒くさい……場所を譲るのに勝ち負けが存在するんですか? ソース確かめる為にググっていい? よかったら論文纏めてるPDF送ってくれると助かる。


私が(・・・・)譲ってあげるから、貴方が此処を使えば? それでいいでしょ」


 謎のプライド止めろやっ! 俺が言えた事じゃないけどこの人面倒くせぇな!?


「い、いやぁ、そういう訳には……」


「は?」


「いえ、なんでもないデス……」


 怖ぇー! 人間って本当に殺気放てるんですねー、フィクションの話だと思ってたわー!


 怯える俺を横目に親指を下唇に当て何かを考える素振りした後、笹川は不意に言った。


「じゃあ、私も貴方も此処で食べる。それなら文句はないでしょ?」


 あるよ? 何その地獄。友達でもないコミュ障同士二人の食事とか誰が得するの? 想像力皆無なの?


 断れ俺、今こそ勇気を開放する時だ……! NOと言える日本人であれ!


「黙ってないで、何か言ったら?」


「アッハイ、それでいいです……」


 馬鹿俺ッ! その口に飯入れられなくすんぞコノヤロウッ!


「何で貴方が妥協したみたいな感じ出してるの?」


「御一緒させていただきます笹川さんっ!!」


「あ、そ」


 笹川には勝てなかったよ……


 *


 で、笹川と一緒に飯を食う羽目になったわけだが……え、これどうしよう。話しかけたりした方がいいんでしょうかね。全戦無敗の一発ギャグでもやってみるか……? まあ、試す相手がいないから負けてないだけなんですけどね。ボッチジョーク! はい、ごめんなさい……


 そういや、笹川は何食べるんだろうか。いや、どうでもいいけど……何か他人の弁当って気にならない? 家庭の色が出るっていうかさ。そういうの気になるから友達居ないのか? いや、そんなことはないと思いたい……


 さて、笹川の手元にあるのはっと。某コンビニチェーンのテープが付いてる五百ミリペットのお茶に、水筒に、何って言うんだっけアレ……そうそう、タンブラーだ……いや飲み物ばっかじゃん!?


 何なの? 魚人なの? 私乾燥肌なのーって乾き過ぎにも程があるわボケェッ!


 いやいや、まだだ。あの水筒からデカい太巻きが出てくる可能性もある……あるか? 無いな。


 などと思っている間に笹川がいただきますの儀式を終え、タンブラーを開ける。中には白く太長い、日本人によーく馴染みのある麺が詰まっており、その上には分厚いアブラーゲ様が乗っていた。


 うどん!? あの米に続くジャパニーズソウルフード(俺調べ)のUDON!? 弁当で持ってくるやつ始めてみたぞ……え、俺に友達が居ないから知らないだけで割とポピュラーなの? OLの間で話題だったりする? Can○amとかに載ってる?


 そして笹川は水筒を開け、中の湯気の立った液体をドバドバとうどんに注ぐ。


 あー、そうだね。お汁も一緒に入れると麺が伸びるからね。でもそうまでして家からうどん持ってくる? 一応食堂にもメニューとしてあるよね? いや、確かに美味しそうだけどもさ……


「……何?」


 俺の視線に気がついたのか笹川が此方をギロリと睨む。


「いえ、何でもないでございます!」


「そ。その口調、ダサいから止めたほうがいいわよ」


 うるせぇよ。じゃあ睨んでくんな、条件反射で(へりくだ)っちゃうからっ! こっちは負け犬根性満載なんだぞ!? そういう所直したらちょっとはモテたり友達も出来るんじゃあないでさかね。何、友達なんて必要無い? 残念だったな笹川、それは現代社会に於いて只の負け惜しみにしか聞こえないんだよッ!


 待って、今特大ブーメラン刺さった。心が凄い痛い……俺は一体何と戦ってたんだ? 社会の理不尽か? あーそりゃ大変だ、戦隊ヒーローでも太刀打ち出来ないだろうよ。


 下らない事をあーだこーだと考えている間に、笹川はズルズルとうどんをすすり始める。


 食ってるときぐらい美味そうな顔しろ。眉間のシワを取れ。あーあぁ、何が悲しくてこんな肌寒い沈黙を味合わねばならんのだ。


 俺は笹川にバレないよう小さな溜め息を吐いて、冷え切った出汁巻きを口に詰め込んだ。


 尚、三大珍味の中で一番味の想像がしにくい(俺調べ)フォアグラ様は勿論入っていなかった。


 *


 飛んで次の日、お察しの良い諸君ならもうお分かりだろうが俺はボッチ飯を遂行する場所を探していた。


 昨日は笹川のせいで昼飯タイムがストレスフルだったからな……結局、アレから一言も喋らなかったし。アレは一緒に飯を食ったカウントには確実に入らんな……強いて言うなら、二人でのボッチ飯? 二人でボッチ飯ってなんだ。哲学か。いかん、無駄な事考えてたら腹減ってきた……


 ウチの学校には敷地内に旧校舎が存在する。取り壊しにもお金が掛かるからなのか何なのかは知らないが、まあ兎に角あるものは使わせてもらうとしよう。


 普通教室だけは鍵が普通に空いているのだが、他の一般生徒も立ち寄れるのであまりよろしくない。人目に見られたくないことをしているカップルや不良と遭遇した日にはボッチ飯を見られるより悲惨な末路が待っている……多分。


 そんなこんなで階段を上って三階西、旧多目的会議室。教師しか使わないような面白そうなものが確実に置いてないであろうこの部屋だが、実はここは鍵が壊れており自由に入ることができる。その代わり立て付けが異様に悪いので開くのに少しばかりのコツがいるのだが、まあそんな事をしてまで此処に入ってくる物好きは……


 まあうん、何だ……居ましたよね、物好き。


 そうだよな。流石にお前も二日連続で俺と一緒に飯は食いたくないから別の場所を探すよな……笹川。


 笹川は眉間にシワを寄せると、溜め息を吐きながらも長机を挟んだ左斜め前の席を指差す。座れと?


 恐る恐る俺は、笹川の顔を伺いながらゆっくりと席につく。


「チッ」


 舌打ち!? 座れって指差したのそっちじゃないの!? 理不尽が過ぎるぞ笹川! デレの無いツンデレ属性は只の当たり強い人だぞ!? 愛の無いサドは只の暴力だぞーっ!?


 ていうか笹川、机の上にタンブラー置いてあるけどまさかお前、今日も……?


 笹川が仏頂面をしながら開けた容器には、ぎっしりと白い麺が詰まっておりその上にはカリッカリの天かすが……


 いや、またうどんかよッ! どんだけうどん好きなの? それとも喧嘩して親からうどん弁当しか用意しない刑に処されてるの? 何だその対して辛くない刑は。


「……何?」


「へぁっ!?」


 え、何って何? ……あっ、そりゃあジロジロ見てたらウザいですよねすいませんでした。


 然し、二日連続で飯食うところをジロジロ見てたら流石に「なんでもない」で通すのは厳しいのでは……?


「私の方を気持ちの悪い目でジロジロ見ていたわよね?」


 一言余計だわっ! こうなったら場の空気とかもう知らん、もうあれこれ質問してやれ! ええいままよっ!


「さ、笹川はいつもそんな感じなのか?」


「何が?」


「いや、昨日も同じような弁当だったな……と」


 俺の言葉に笹川はヤレヤレといった風に深く溜め息を吐く。


 え、俺間違った事言った?


「昨日はキツネうどんよ」


「?????」


 知ってるよ? 何『コイツの目は節穴か』みたいな顔してんの? 俺が知らないだけでキツネうどんとタヌキうどんは別カテゴリなの? 料理の中の主食の中の麺類の中のうどんっていう割と小さなカテゴリじゃないのうどんは? 何、うどんはご飯と一緒に食べれるからおかず? うるせぇわ、一つの料理の中で炭水化物の割合が割と多かったら大体主食なんだよ多分。


「アー、ソウナンダ……」


「そうよ。あげないわよ」


 いや要らねぇよ! ……嘘。二日連続で食べれるレベルのうどんの味はちょっと気になる。何処の会社の出汁使ってんの? まさか自家製?


 どうでもいいことを考えている俺を見て会話が終わったと思ったのか、笹川はいただきますを済ませてズルズルと麺をすする。それを見て俺も、恐らく冷食であろうしっとりとした唐揚げに被りついた。


 うん、まあまあ美味い。


 *


 さて、次の日。


 世の中には三度目の正直というありがたーいお言葉があるように、どんなことでも三回ぐらい挑戦したら、まー上手く行くかもしれんらしい。というわけで、笹川と一緒に飯を食べないべく、平穏なボッチ飯を遂行する為に俺は今日も場所を探す。


 今日は逆転の発想で屋上へ行ってみようと思う。原点回帰、初心忘れるべからず、現場百遍……は、違うか。


 兎も角、笹川も俺と飯を食いたくないから昨日は場所を変えたのだ。つまりは今日も場所を変える可能性は十分にある。だからこそ、この俺が、屋上を、独占するッ!


 そして万が一、今日も笹川と場所被りをしてしまった場合の策も考えてある。


 笹川は、俺みたいな奴に場所を譲られる(・・・・・)事に敗北感を味わうのが嫌なのだ……つまりは、笹川より前に俺が先に屋上に居れば、彼女が俺に素直に場所を譲ってくれる。そして俺は場所を確保できてラッキー、彼女は優越感を得れてラッキーという皆ハッピーな大縁談で終わるのではないだろうか。隙を生じぬ二段構え……我ながら完璧な作戦だぜ!


 そんなこんなで昼休みになった瞬間にヌルリと教室を出た俺は、目的の地に誰もいない事を確認するとゆるりと腰を下ろす。


 何となく空をボーっと眺めていると、心の何処かで非日常(笹川)を待っている自分が居ることに気付く。


 ボッチが嫌な訳では無いのだ。一人で考える時間というものは自分との対話、つまりは自己理解に繋がり非常に有意義な時間であるし、他人と居れば自分の好きな事が出来なかったりする。ボッチが可哀想などという風潮が無ければ、俺に人前で格好をつけたい等という下らないプライドが無ければ、恐らく堂々と胸を張って俺は一人を貫いたであろう。


 だが、ボッチは飽きるのだ。


 他者に行動を阻害されない分、外部からの刺激が無い。繰り返される自分だけの時間。好物を毎食たべさせられるが如く続くそれは、人によっては幸福なのであろう。


 然し俺はそうじゃない。恐らく、ボッチも集団行動も向いて居ないのだ。退屈な日常を自分の手で変える努力もせず、かといって人にも頼らず……


 そんな中現れた笹川というイレギュラーに、他力本願にこのルーティーンをブチ壊してくれないものかと期待しながらも、こうして平穏な日常を守らなければと小さな抵抗をして変なプライドを主張する俺は……きっと、笹川と同じ位面倒くさい。


 溜め息を吐くと同時に扉が開く。二度あることは三度ある。何となく来ると思っていた相手、この二日で俺が久し振りにまともに言葉を交わした他人、笹川様の御登場だ。


 俺が先に此処にいたことに目を見開き驚く笹川に、俺の中の醜い心が少しばかりの優越感を覚える。


 どうだ笹川。今この瞬間、此処は既に何人足りとも侵す事の出来ない俺のポジションだぞ。


 え、笹川さん何で真顔で近づいてくるんですかね? 止めて、来ないで。それ以上近づいたら撃つぞ! 銃は持ってないからええと……さっき自販機で買った烏龍茶ぶつけんぞ!? 駄目だわ、そんなこと普通に殺されるな。って、気がついたら目の前何ですが? 何? 死ぬ? 死んだ? 俺の名前と年齢の間に一生消えない『享年』の文字刻まれちゃう? いや一生終わってるんだよその時にはッ!


「ねえ、」


「ハィッ! な、何でしょうか……?」


 怯える俺に、笹川は手に持っていた弁当やその他諸々が入っているであろう保冷バッグを持ち上げ、見せつける。


「良いわよね?」


 何が? 主語を言え主語を! 『今からこの保冷バッグで貴方をぶん殴るけど良いわよね?』って事なら答えはNOだし、『この中に入ってる毒を喜んで食べるわよね?』って事なら答えはNOだし、『此処で御飯を食べたいんけど良いわよね?』って事なら答えはNOだ!! わかったならサッサと去れ!


「場所、良いわよね?」


 返答なく固まった俺に苛立ちを隠せないのか、タンタンと片足で地面を鳴らした笹川がギロリと鋭い目で睨んでくる。


「な、何で……?」


 馬鹿野郎、こういう時は素直にYESで良いんだよ俺ッ! 何で言葉を交わそうと思ったの?

自分の腕力とコミュ力の無さを自覚してくれませんかね俺ェッ!


「無条件に他人に場所を譲るのは、何か負けた気がするからよ」


「は……?」


 お前ホント面倒くせぇな!? 俺が笹川と同レベルと言ったことを深くお詫びし訂正するわ。笹川、お前がナンバーワンだよ!


「そもそも、貴方が御飯を食べている所に私が偶々出くわしただけなのに、何故場所を譲らなければならないの? 訳がわからないわ」


 ついこの間お前が言い出した事なのに急な正論止めろ! 喉に魚の小骨刺さったみたいなどうにもならんもどかしい感情になるから! いーってなるからっ!


「で、どうなの? 良いの? 駄目なの? ま、貴方が嫌と言おうが私は勝手にさせてもらうけど」


 じゃ良いよ聞くなよ勝手にしろよもうッ!


 *


 少し離れた場所で自分の世界を作っている笹川の今日の昼食は肉うどんらしい。三日連続うどんな事を考えると、恐らく毎日そう(・・)なのだろう。ていうか肉うどんとか久し振りに見たけど滅茶苦茶美味そうだな……


 さてと、俺も食べるとしますかね……


 蓋を開けると、俺の二段弁当にはふっくらした白米がぎっしりと詰まっていた。


 正確に言えば、二段共に白米が詰まっていた。


 んー? ホラ、多分アレだよ。偶にボーッと同じ所見てるとさ、二重に見えてくる事あんじゃん? そう、目の錯覚。それだよ多分。うん。よし、目を瞑って、肩と首回して、目頭マッサージして、目を開けるとぉ……白米詰まった箱二つ! ワーオしつこい蜃気楼だぜ全くこんちくしょうめッ!!


 え? こんな漫画みたいな展開現実に起こるの? じゃあ今パパンはおかず二段重ねで発狂してるの? よかったね、苦しいのは俺だけじゃないんだから元気出していこう……って喧しいわ! 他人の不幸は蜜の味かもしれんが俺の苦しみが無くなるわけじゃねえ! 今はこの状況をどう乗り越えるかだけを考えろ俺!


 購買で何か買うか? えっと現在の所持金は……十八円。十八円!? 百八十の間違いじゃなく!? 何でこういう日に限って財布にお茶を買う以上のマネーをセットしとかないんですかね? えっと、他には? ふむ、美容室の一割引券にぃ、パン屋のポイントカードォ、コンビニのレシート、で、七十メキシコ・ペソ。いやペソ! アルゼンチン・ペソと違ってお握り二つ位の価値だけどペソ! ジャパンじゃ役に立たねぇよペソ! 何で入ってんだよペソ!


 うぉんうぉんと呻き声を上げながら頭を抱える俺氏。ふと視線を感じて顔を上げてみれば、冷ややかな目つきで俺を哀れみながらうどんをすする笹川の姿があった。


 騒いで悪かった、謝る。だからその凍てつくような眼差しを止めていただけませんかね?


「そんなにお米が好きなの……?」


 好きじゃねーよ! いや、米は日本のソウルフードだけども米単体をバクバク食えるほどには愛してねぇよ!!?


「いや、別にそういうわけじゃないけれども……」


「あ、そ」


 笹川はそう言うとズルズルと麺をすする。


 ……終わり!? ねえ会話のキャッチボールって知ってる笹川? 確かに話が広がらない返しをしてしまった俺にも非はあるかもしれんが、そっちから話しかけてきたんだからもう少し何かあってもいいんじゃないでしょうかね?


「貴方、アレルギーはある? エビとか一応魚も」


「え、いや、ないですけど」


 アレルギーってあのアレルギーで良いんだよね? よくは知らないけども蕁麻疹(じんましん)とかアナフィラキシーなんとかとか引き起こすアレよね?


「そ。なら、要るかしら?」


 そう言って笹川はシンプルなデザインの水筒を俺に差し出してくる。


 出汁……だよなコレ。


「で、どうなの? 要るの? 要らないの?」


「ぁありがたく頂戴致します……?」


「何故疑問系なのかわからないけど、まあいいわ」


 笹川は俺から視線を外し食事を再開した。


 ……欲を言えば、うどんに乗ってる肉が欲しかったけど文句は言うまい。


 取り敢えず、ねこまんまするか…………旨っ!?


 *


「あ……りがとう。その、旨かった……です」


 と、いうのは笹川に水筒を返しつつの俺の言葉。


 よーし偉いぞ俺、どもってるけどちゃんと言えた! 御礼コメントは大事だからな!


「あ、そ」


 それだけ!? もっとこう、『ならよかったわ』てきなユアウェルカム感ある言葉を交わすのが、コミュニケーションってもんじゃないんですか笹川さん!? いやこっちが期待するのも何かおかしいかもしれんが、こういうのは双方の歩み寄りによってより良い社会形態が気付けるのではないでしょうかね!?


「それはそうと、」


「はあ」


「貴方、友達居ないの?」


「は?」


 ん、え、何、馬鹿にされてる? 友達が居ないのは短所ではないというのが俺の持論な訳だけど、世間一般ではその限りではない訳で……つまり、馬鹿にされてるよね? 喧嘩売られてるよね? おうおうおう、俺は相手が女でも容赦なく怖じ気ずく男だぞわかってんのかコラ?


「いぃ、ませんけども……」


「でしょうね。で、御飯を食べる場所に困っていると」


 いや……そう言えなくもないけど、端的に言えばそうです(端的に言わなくてもそうです)


「今日みたいな、心の準備をしてもないのに貴方の辛気臭い顔を見るようなのは御免なのよね」


 ゴメンて、生きててマジゴメンて。でも、もうちょっと言い方無かった? 確かにネガティブ思考な所あるから顔にそういうの滲み出てるかもしれんが、俺も人だからさ……普通に傷付くのよ? いや、こういうとこか? こういうとこが辛気臭いのか?


「だからというのもおかしいけれども、明日からも此処に来たら?」


「ん?」


 え、何て? ……アシタカラモ、オレ、ココ、クル? いやどんなツンデレ展開だよ。今時のラノベでもそんな言動が一致してないヒロインいる? 俺そんな面倒くさい奴嫌だよ? だって俺より面倒くさいじゃん。


「……何か、致命的な勘違いしてないかしら?」


 放たれるやけに鋭い殺気。察し良すぎない?


「せ、説明をしていただいてよろしいでしょうか?」


 俺の言葉に笹川は凛々しい顔で髪をサラリとかきあげ、答えた。



「顔を見るのが嫌だから自分から避けるというのは、何か負けた気がするからよ」



 ……ああ、わかった。コイツは馬鹿なんだ。


 この笹川という女はただ単に『何かよくわからないけど負けた気がする』という理由だけで人生の中の数少ない休息ポイントである食事という時間を自らの手で苦行に変えてしまえるのだ。それで彼女が得るものは、よくわからない形に肥大化しもう後には引けなくなった醜いプライドの塊だけ。


 笹川、それが将来の役に立つか? 誰かに自慢できるか? 走るのが早くなったりするか? いいや、恐らくお前がその心に抱いているものはこの世で最も価値の無いものだ。


「それに、貴方が予め此処に来るとわかっていれば、顔を合わせるまでに心の準備ができるわ」


 笹川が腕を組んでウンウンと一人で納得しているが、俺の目にはそれがやけに滑稽に映った。


「で、どうなの? 良いの? 駄目なの? ま、貴方が良いと言おうが言わまいが、私が明日此処で御飯を食べる事に変わりはないけれど」


「あー……御一緒させていただきます、笹川さん」


 そう言ったのは、明日飯を食べる場所を探すのが面倒だったからか、もしくは笹川の厳しい瞳にビビったか、はたまたこの奇妙な思考回路を持った女に興味が湧いたからか。或いは、その全てだったのかもしれない。


「あ、そ」


 そんな笹川のセリフは相も変わらず淡白でシンプルでコンパクトで。然し俺は、そんな言葉に妙に惹きつけられていた。


 *


 あれから数日、何も無い平穏な日々が続いている。


 ていうかマジで何も起きねぇ。未だに二人でボッチ飯をするという不可解な状況が続いている。


 え、こういうのって何かもっと会話増えたりするもんじゃないの? 俺人付き合い少ないからよくわかんないけど。ボッチジョーク! はい、すいませんでした……


 何、自分から話しかけろ? 馬鹿野郎、そんなこと出来てたらボッチやってねぇわ。それにもし話しかけたとして、『キモッ』って目の前でキ○リのモノマネでもされたら半日寝込む自信があるぞ俺は。


 恐らく今日も何もないのであろうと思いつつ、いつも通り俺は屋上へと……


「なあ、」


「わひゃっ!?」


 不意に肩を叩かれ思わず飛び上がる。振り返れば、口元を抑えクスクスと笑っている短髪の男が居た。


「わひゃって……わひゃっ……ククッ」


 おうおう喧嘩売ってんのか、生憎ウチでは買取は行っておりません俺の心の平穏の為にサッサとお帰りくださいやがれ。


「いやぁ、スマンスマン! いやでも、あんなに飛び上がるとは思わなくてなぁ。ブフッ」


 目の前のクラスメイト、名前は全く覚えていないが確か陽キャグループに属していたような気がする……やはりというか、絶対に性格が合う気がしねぇな。


「あの、要件は……?」


「あー、それな。ロンリー君、笹川と毎日一緒に昼飯食ってるってマジ?」


 ロンリー君って誰だよ……え、俺そんな風に呼ばれてんの? ストレートにボッチって言われてるじゃん、滅茶苦茶ショックだわ。多分今日クラスメイトに陰口言われてる夢見るわ。


 で、何。俺と、笹川が、一緒に飯を食ってる? どうやら屋上での俺達を目撃されていたらしいが……まあそうだとも言えるし、そうでないとも言えるだろう。何せ食事中一度も喋らないのだ。これが一緒に食べていると言えるだろうか?


 然しながら、客観的な事実だけを見れば、俺達はお互いに同じ場所で昼食を食べることを同意しながら休み時間を過ごしているのだ。ここで『一緒に飯を食べていない』と返答する事は明らかに嘘ではないのか。


 仕方がなく俺は首を縦に振り肯定の意を示す。


「マ!? え、付き合ってたりすんの!?」


 んな訳無いだろう。何言ってんだコイツは。


「すると、思う?」


「思わんっ!」


 陽キャ君は拳を固く握り即答した。


 え、その通りではあるけどそんなハッキリ言わなくても良くない? 気を使う事を司る脳内細胞、家に置いてきたの? もしそうなら今度持ってきた時は笹川に半分分けてやってくれ。アイツは多分おっかさんのお腹に置いてきたタイプだから。


「でもなぁ……あの(・・)笹川がロンリー君と飯を食ってるってのは、今やクラス中が注目してる大スクープなんだぜ? どんな裏があるのか気になんじゃん」


「ああ、そうなんだ……」


 俺は兎も角、笹川に裏も表もねぇよ。アイツはマジのガチで只の愚直馬鹿なんだ。


 数拍の沈黙の後、目の前の短髪陽キャ君はパチリと指を鳴らした。


「そうだロンリー君、俺と友達になろうぜっ!」


 え、嫌なんだが?


「で、ロンリー君は仲良しの笹川に俺を紹介してくれ! 付き合って、ないんだろ?」


 別に仲良くはねぇし! 下心丸見え通り越してカミングアウト止めろ! 友達多い癖に友達作りヘタかっ!?


「そういうのは、ちょっと御遠慮したいな……」


「そっか……じゃあまた今度出直すぜ!」


 そうビシッ、とフランクな敬礼をして陽キャは去って行った。


 出直すなクソ野郎。来るとしても一昨日来やがれ。


 *


 閑話休題、屋上へ到着。


 既に笹川はド真ん中に陣取っており、今まさにうどん汁をタンブラーにブチこもうとしていた。


 俺は無言で彼女から二メートル程離れた地点に腰を下ろすと、巾着から若干使うのが恥ずかしくなってきた国民的キャラクターがプリントされた二段弁当を取り出しながら、今日のうどん(・・・・・・)を確認する。


 白くモチモチな麺の上にデカデカと乗っかっているのは、これまた白くモチモチな存在。ていうか焼餅だった。力うどんとかマイナー過ぎだろ。お腹パンパンにならねぇ?


 湯気と共に注がれる出汁の香りは風下に居る俺の方にまで届き、それだけで細やかな温かみと幸福感を与えてくれる……笹川とは違って。


 それはさておき俺も飯を食おうかと意気揚々と蓋に手を掛けた時、うどんを咀嚼する笹川が此方をじっと見つめていることに気づいた。


「な、何でしょうか……」


「別に、何でもないわ」


 別に何でもない奴は別に何でもないって言わねぇんだ笹川。じゃあ本当に何でもないときはどういうのかは知らんが多分そうなんだ。


 ていうか何でもないって言う割にはまだコッチガン見してくるんですね。メチャ怖いんだが。またオレ何かやっちゃいました?(定型句)


「ねえ、」


 やっぱり何かあるんじゃねぇか! 直ぐに言わなかったのはお得意の、ベストタイミングで聞かれた直後に答えるのは『何か負けた気がするから』か? 面倒くさいの極みかお前はっ!


「な、何でしょうか」


 俺がおずおずといった風に笹川に応答すると、彼女は更に淡々と言葉を続ける。


「今日、クラスメイトのショートボブの女の子に、私と貴方が付き合っているのかと聞かれたのだけれど……アレは貴方の友人かしら?」


 へー、お前も聞かれてたのか。てかクラスメイトをアレとか言うんじゃありません笹川さん。


 ショートボブ……ショートボブってどんな髪型だ……? ま、知り合いな訳がないから考えても無駄か。


「いや、俺友達いないから……」


 …………あ、言っちゃった。


 言っちまったぁーー!!!! ボッチ痛恨のカミングアウト! 教師以外で唯一学園生活に於いて交流(?)のある笹川に友達がいない社会的に可哀想な人間であることをバラしてしまったァ! もう明日から学校行けない! 休む! 今から学校に行くとストレスと疎外感で量子分解されちゃう病になったから!!!!


「そうよね」


 何だその語尾に『知ってたけど』が付きそうな顔は! コッチは断腸の思いでボッチやってんだぞ! ……ボッチやってるって何だッ!?


 会話を終え、再び麺をすすりだす笹川。


 何故そんな事を聞いてきたんだ笹川。唐突に会話を終えるなマイペースか笹川。


「あー、迷惑に思ってるなら、もう此処で一緒に食べるのを止めるというのは……ヒッ!」


 気を使って言った言葉。無駄に誰も傷付く事がない平和的解決法の提示は、笹川の一睨みに断ち切られた。


「もしそう思われていたのだとしたらとても屈辱的なのだけれど、貴方は私と一緒に食べるのが嫌なのかしら」


 どちらかと言えば嫌だよ! 全然喋らねぇし、眼めっちゃ怖えし、俺の事辛気臭いとか思ってるしっ! でもまあ、最近は慣れてきたからそんなには気にならんのだが、それでも一度芽生えた苦手意識は中々に消えないものであってだな……


「そんな事は、ないですけども……」


「なら問題は無いわね」


「いや、でも」


「何?」


 最近気づいた事なのだが、笹川は素で顔が怖い。その口数の少なさ故に言葉一つ一つが怒気がこもっているように感じられなくもないが、しかしそれは大きな間違いである。先程の様に睨んでいたり機嫌が悪い際の癖として、彼女の奥二重が強調されるかの様に目を細めるという事を発見した。


 もう少し何か言っても大丈夫そうだな……と思い言葉を続けてしまった俺の行動が不正解であると、一体誰が思うのであろうか。


「その、ありもしない事実が周りに広まっていくのは……何か、負けた気がしないか?」


 その瞬間、笹川はすうっと目を細め、ペットボトルの緑茶を喉奥に捨てるかのようにゴクゴクと流し込み、そしてやがて空になった容器を激しく地面へ突き立てた。


 え、やっぱ口癖真似するのは不味かったですかね!? ゴメンて何でもするから許してくださ……



「そうね。なら、付き合いましょうか私達」



「………………えっと、聞き間違えた可能性が大いにある為にもう一度言っていただけると助かります」


 俺の言葉に、笹川は再度あっけらかんといった表情で答えた。


「私と、貴方が、付き合えば……何の問題も無いわ」


 ッゥー……?????


 スマン、人間は度重なる進化の末にバベルの塔レベルの建物をもう一度作ってしまって神の怒りに触れた為、今この瞬間言語が通じなくなったらしい。そうでもなければ笹川はこんな支離滅裂で意味不明な告白紛いの発言をする訳がない。おお、神は我らに何と残酷な試練を与え給うたのか……


「貴方は、他人に誤解をされるのが嫌なのよね? なら、私と貴方が付き合えばありもしない事実(・・・・・・・・・)なんてものは無くなるわ」


 残念ながら夢でも幻聴でも神の仕業でもないらしい。どうやらこの大馬鹿野郎はマジのマジでマジマジに言っている様だ。全くもって理解出来ん……


「何で、そこまで……」


「あら、そんな事は決まってるじゃない」


 いや、本当はわかっている。理解したくなかっただけなのだ。彼女の行動原理などこの世に恐らくたった一つしか無いという事を、実に馬鹿げた理由だという事を、実に……


「他人に冷やかされたからと言う理由でよそよそしい関係性になるのは、何か負けた気がするからよ」


 実に、本当に、全くもって、ひたすら眩しく、そして羨ましい程に、彼女が愚直な人間である事を、俺とは違い孤高(・・)という称号を持ったボッチだということを、思い知らされたくなかったのだ。


「で、どうなの? 良いの? 駄目なの? 断るの? そして尻尾巻いて逃げに逃げて一生周りの目を伺って生きていくの? 私は、そんなよくわからない物に負けるのは断じて御免だわ」


 そう言った笹川の表情は、いつもと同じ様に表情筋が死んだような物であるにも関わらず、やけに綺麗で、凛々しくて、眩しくて。


「ご、御一緒させていただきます、笹川さん」


 思わずそう言ってしまうぐらいには、好きだと思ったのだ。


「あ、そ。それじゃあ、これからよろしく」


『絶対に負けたくない笹川となるべく負けたくない俺が二人でボッチ飯するだけの青春ラブコメディが…………












 *


 始まらないんだなぁこれがッ!


 普通男女がお付き合いを始めたら、手繋いだり、一緒に帰ったり、家行ったり、デートしたり、イチャコラしたり、そうでなくても何かしらの交流はあるよな!?


 あれから数日経ったのに、何で! 今までと同じく! 屋上で二人で飯食ってるだけの関係で! しかもまともな会話すらしてないんですかねぇえええええ!?


 そりゃあ俺も受け身でコミュ障な人間だからさ、ちょっとは至らぬ点もあるかもしれないよ? それを加味しても笹川は酷いと思うんだ俺は。さっき俺が屋上に着いて話しかけた時なんか……


「ど、ども」


「…………どうも、こんにちは」


「……い、いやぁー、やっぱ最近より冷え込んできたなぁー」


「そうね……所で、私は今食事に集中したいのだけれど、良いわよね?」


「え、あ……はい。サーセン……」


 これだよッ! え、俺君の彼氏だよね? 優先順位うどんに負けるの? 負けるよな、そりゃ人間の三大欲求とも言われるぐらいだしな。睡眠欲、食欲、そしてうどん欲、って食ってばっかだなお前の人生ッ!


 いや、そんな話じゃないんだよ。付き合おうって言ってきたのはそっちだよな笹川? 確かに俺は同意したし、何なら笹川の事好きになっちゃってるチョロインだけども、こういうのは言い出しっぺが積極的に行動するもんだよな? 違う? 違うのか。恋愛って難しいなぁッ! ボッチ脱却の方が簡単なんじゃねぇの? あ、彼女居るからボッチじゃねぇわーハッハッハ……いや、これはボッチだよ! 紛れもなくボッチだよ! 倦怠期でもないのにこれ程に関わらない恋人は最早居ないのと同義だよ!!


 どうすんの? もうすぐ冬休み来ちまうよ? 明けたら自然消滅してるパターンじゃないよねコレ。ヤダヤダヤダー! 俺の人生初めてで恐らく最後のメチャクソ美人な彼女がこんな形で失われるなんてこんな世界滅べばいいのにッ!


「ねえ、」


 何だよ今笹川の事で頭一杯なんだよ! いや笹川の事大好きか!? 大好きだわッ!!!!(告白)


 って、笹川?


「ちょっと聞きたい事があるのだけれど、良いかしら?」


 見ると笹川は箸を止め、此方に身体を向けてピチリと凛々しい表情をしていた。いや、表情はいつもと変わらないのだが……


「な、何でしょうか……」


 何でしょうかって何でしょうか!? ていうか「か」の音消え入りそうになってたよ! 最早「何でしょうぁ……」みたいになってたよ!? ……アレ、デジャヴュかな?


「十二月の二十四日に、駅前のカフェでカップル割引というものがあるとチラシで見たのだけれども、一緒に来てくれるかしら」


 明らかなデートのお誘い。


 然しながら、これまで付き合ってから放置されている現状と、割引というわかりやすい如何にも女子が食いつきそうなエサ、そして、笹川の性格の事を考えると、俺は素直に喜ぶ事が出来なかった。


「それも……何か負けた気がするから、とか?」


 気がつけば、そんな事を口走っていた。


 しまったと口を閉じてももう遅い。言ってしまった事実は変わらず、過去には戻れない。口は災いの元とはよく言ったものだが、こんな形で笹川と別れる事になるなら自然消滅の方がマシだった……などと俺が思っていると、笹川は微かに首を傾げ言った。


「何を言っているのかしら。私と、貴方が、付き合っているからに決まっているじゃない」


「へ……?」


 自分の胸に手を当てた後、此方に指を向けた笹川の表情は『当たり前だろう』と言わんばかりの表情をしていた。


 だがしかし、これは今知った事なのだが、笹川は勇気を出す時に握った左手をモニュモニュと揉み動かす癖がある上、恋愛感情を抱いていない相手と勢いで付き合える割には……デートに誘うのは緊張するらしい。


「あー、そうなんですね、そうなんだ、そうなのか、いや、そうだったな……ハハハ……」


「何を言っているのよ……で、どうなの? 良いの? 駄目なの?」


 そう言った笹川の表情は、やはりいつもと変わらないはずなのに……凄く可愛くて、


「あーっと……御一緒させていただきます、笹川さん」


「……あ、そ」


 俺は何か負けた気がするので、スマホで近隣のデートスポットを検索する事にした。


 *


『絶対に負けたくない笹川となるべく負けたくない俺が二人でボッチ飯するだけの青春ラブコメディが始まらない』


 完?

 ども、はじめましての方ははじめまして。そうでない方もはじめまして。残機1LIFE0と申します!


 ボッチのラブコメはよくありますが、ガチコミュ障を題材にしたラブコメって話進まないからあんまり無いんですよね。なので書きました(?????)

 いや、ギャルゲ風のノベルゲームをやってたらですね、「負けず嫌いの子って良いなー」って急に思い立ちましてですね? まあヒロインに負けず嫌いの子なんて居なかったんですが!(?????)

 そんなこんなで勢いで書きました! もし貴方の心に少しでも刺さるものがあったのなら、ページ下部の星マークによる評価、感想などを戴けると読者様には何の利益もありませんが作者のモチベが上がって筆を折る可能性が減りますッ!!


 ではでは、またいつか貴方の時間を無駄にできる事を願って……(ゲス顔)

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[気になる点] ラブコメ…1年後くらいには始まるかな…?
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