一話
読んで頂きありがとうございます。
「ハアッ、ハアッ、何で毎回毎回こんなにきつい階段を登らないといけないんだよ……」
俺こと圓城寺未明は重い通学鞄を持って古い階段を登りながら思わずそう呟いた。
何故俺がそんな目に遭っているのかって?
それは俺が所属する生物部の所為だ。
この鉄山高校の誇る生物部は、築五十年のオンボロな校舎の五階にある。仮にも生物を飼育する以上、五階という立地は大変よろしくないのだが他の強豪な運動部や文化部に押されてこんな悪環境になってしまったのだ。
生物部で頑張る俺達に対してあまりにも酷い仕打ち。
先生方は俺達生物部員に恨みでもあるんだろうか。
「こんな事になるんならあの時何がなんでも断っておくんだったぜ……くそう……」
俺は古くからの幼馴染である里見やまめに生物部に誘われた時の事を思い出す。
あれは俺達がまだ入学したの頃で、新入生向けに部活動説明会なんかが行われていた。でも俺は特に興味を引かれる部活も無かったので部活に入らず気楽に過ごしていた。
そんな時、やまめが教室で友達と喋っていた俺に話しかけてきたのだ。
「ねえ未明」
「ん? どうしたやまめ?」
俺は勘違いされるからと教室ではあまり話し掛けてこないやまめに若干嫌な予感を感じつつも聞き返す。
するとやまめはこんな事を言ってきた。
「ちょっとこっち来てくれる?」
「え? まあいいけどよ……ごめんちょっと行ってくるわ」
「ああ」
「……告白かな(ヒソヒソ)」
「……いつも一緒に帰ってるし、もう付き合ってんだろ(ヒソヒソ)」
「うるせえぞお前ら! 違うからな!」
とんでもない事を言う悪友に叫びつつも俺はやまめに連れられるまま廊下に出た。そしてやまめは俺の前に立ってこう言った。
「わざわざ呼び出してごめんね。それで話なんだけど……未明、あんたどうせ入ろうと思ってる部活無いでしょ?」
「まあ、そうだけど……」
やまめの問い掛けに俺はそう答えた。
更に俺はやまめが俺を呼び出した理由を大体察した。
「なら未明、私と一緒に生物部に入らない? 一人だとちょっと心細くて……」
「嫌だね。面倒臭いし」
やはり俺の思った通りやまめは部活に誘ってきた。その時の俺は部活に入る気なんて一つも無かったので即座に断ったのだけれど……
「ちょっと未明! 私が魚好きなのは知ってるでしょ! ねえお願い……」
やまめは少しも引き下がる様子を見せない。
「駄目だっつの。俺も色々と忙しいんだよ……」
俺はそんなやまめに負けじと断り続ける。が、やまめは俺のこの鋼の意思をも打ち砕くとてつもない事を言ってきやがったんだ!
「そう……じゃああんたの部屋の布団の下にあったアレの事を未明のお母さんとかクラスの子に言ってもいいの? 確かタイトルは真夏の夜の……」
「おいやめろ何で知ってる! しかも題名まで! 分かった、わかったから勘弁してくれ! 入部してやるから! だからスキップしながら教室に戻ろうとするんじゃねー!」
そうして俺はいとも簡単にやまめに鋼の意思を打ち砕かれ生物部に入部する事を余儀なく決めた。
今思えば元から選択肢なんて無かったのだ。
しかも俺が入った時にやまめ以外の他の部員も居る始末。やまめの付き添いで入った意味は何だったのだろう。入部届を先に出してしまった以上辞めるに辞められないし。
俺はやるせない気分になった。
「その他の部員もカオスだしよ……畜生……」
俺は今から遭うことになるやまめ含む三人の部員を頭に浮かべて溜息をついた。
と、そんな風にセンチメンタルな気持で階段を登っているとようやく五階にたどり着いた。放課後なので生徒はもう既に部活に行っていてまばらだ。
息が切れてしまったので呼吸を整えながらも俺は生物部へと向かう。
そうして歩いているとすぐに生物部の扉が見えた。階段の近くにある事が生物部の唯一の救いだろう。
この時の俺は呑気にそんな事を考えていた。今から目にするものが全ての始まりだというのに。
俺は生物部の扉の近くまで行き、それを見てしまった。
いつもは『ようこそ生物部へ』と描かれたポスターが張られている生物部の扉には、”それ”すなわち別のポスターが掲示されている。そのポスターには、落ち着いたデコレーションと共にこう書かれていた。
『ようこそ、静仏部へ!』
俺はその奇怪な単語を見た瞬間、生物部の扉をがむしゃらに開けて言い放った。
「おいやまめ、あの変なポスターは何なんだ!!」
これが、非日常の始まりだった。
十話完結です。
かなり短めの話ですので最後までお付き合い頂けると嬉しいです!
タイトルは某伝説のギャルゲのパロです。申し訳御座いません。