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第四話 修羅場

「スーちゃん?」

「い、いや……あはははは!! そのまぁ色々あって、期間限定でそ、そこにいるエリーザの騎士になったんだよ! こ、ここに来たのもその一環で……」


 慌てて取り繕うに俺は言葉を連ねる。


 マズい……!! リンゼの目からどんどん光が失われていっているぅ!!


 そう思い、体中から冷や汗が流れでるが、当のリンゼは意外にも冷静さを保っていた。


「分かる……分かるよ。スーちゃんはきっと仕方の無い事情でそうしてるって。嫌々その女と一緒にいるって。だってスーちゃんの一番は私だもんね。そんな女に心が行くわけないもんね」


 リンゼは俺の目的を知っている。だから俺の今のこの状況と先に放った言葉が、それを達成するために必要なものだと理解してくれてはいるのは間違いない。

 今のリンゼの発言が、それを裏付けていた。しかし、


「でもね? それでも、そうやって新しい女の子を侍らすのは、良くないよ? ね?」

「……」


 彼女がそれを理解しても、納得はしない。

 俺に対し愛情と執着心を抱いているリンゼからすれば、今目の前に存在する光景は到底許容できるものでは無いだろう。

 その声音の低さが、それを表していた。

 

「し、仕方なかったんだって!! 頼む、分かってくれ……!!」


 何故俺は付き合ってもいない女にここまで謝罪のようなことをしなければならないのだろう。


 考えてはいけないその疑問が脳裏をぎるが、そんなことは些細なことだ。

 今大事なのはこの局面を乗り切ること、リンゼの機嫌を元に戻すことである。


「な!? この通り!! 埋め合わせはその内すっから!!」


 俺は手を合わせ、その場限りの口約束を出まかせのように噴出した。


「……むぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


 生気を失った眼のまま、リンゼは頬を膨らませる。そして、やがて不満げな様子で溜息を漏らす。


「……全くもう……分かった、いいよ。スーちゃんのその行動を正式に許可します!」


 リンゼは俺の身体から離れると、ビシッと俺を指差しそう告げた。その目には再度光が灯っており、彼女が俺の行動を許容したことを示している。


 何故リンゼの行動の許可を得なければならないのかという疑問も先程同様、脳内に浮上したがツッコまない。そんなところに干渉していてはキリが無いからだ。

 リンゼとゼノの扱いを覚えた俺は非常に懸命な判断をしたと、自分を褒めた。


「ごめんねスーちゃん。さっきは少し口調が強くなっちゃった。でもしょうがないの。スーちゃん成分が足りなかったから」

「万能だな俺の成分。カルシウムの代わりにもなるのかよ」


 一秒前の誉れを捨て、俺はリンゼの発言にツッコんでしまう。


「あらあら、全く……何を勝手に話を締めようとしているのかしら?」

「っ!?」


 しまった……!! コイツの存在を忘れていた!!


 エリーザの声が耳に入り、思わず彼女の顔を見る。


「初めまして、リンゼ。私は『三大貴族』のエリーザ・ヴァロナント。そして今は騎士であるスパーダが忠誠を誓う主その人よ」

「……」

 

 丁寧なエリーザの自己紹介に、リンゼは面白くなさそうな表情をする。

 

「『三大貴族』、もちろん知ってるよ。王都で王族の次に力を持つ貴族……汚職や不正を何とも思わない面の皮が厚い人たちの一人でしょ?」

「……」


 おいぃ!? 何を、何を言ってんだコイツはァ!?


 あまりにもなリンゼの挑発に俺の心臓の鼓動は爆発的に加速した。

 エリーザはこういった事態に直面した際、基本的に歯牙にも掛けない人間であることを俺は知っている。だがそれにしても『三大貴族』相手にここまで言い放つのはどう考えても賢い選択とは言えない。


「あなたみたいな人はスーちゃんと不釣り合いだよ。スーちゃんは自由気ままに私と冒険するのが一番似合ってる」

「ちょいちょいちょいちょいちょぉぉぉい!? リンゼちょい!!」

「うわぁっぷ!?」


 これ以上はマズい!! そう思った俺は慌ててリンゼの口を塞いだ。


「バカお前何言ってんだよ!? さっき許しますとか言っただろ!!」

「はっ!? ごめん、スーちゃんに付き纏う女だと思ったらムカついてきて思わず本音が…‥」

「出しちゃダメ!! ダメなの本音出しちゃ!!」


 言い訳すらも綺麗に地雷を踏み抜くリンゼに最早芸術のような美しさを感じながら、俺はおかしな口調で彼女に必死で言い聞かせる。


「ふふ、うふふふふふふ……」

「……えーっと」


 背後から、怒気を含んだ不気味な笑い声が聞こえる。その声の主は当然ながらエリーザ。俺は恐る恐る首を曲げ、そちらを見た。


「まさか初対面の女にそんな風に言われるとはね。新鮮な気分よ」

「エリーザさん……?」


 思わず敬語になる俺。エリーザは冷徹な笑みを向けながらこちらへ……リンゼに向かって歩き出した。


「スパーダ。その女から離れなさい」

「え、で、でも」

「命令よ」


 酷く、威圧感のある声。その意味を、俺は即座に理解した。


「……分かった」

「え!? ちょ、ちょっとスーちゃん!! 何その女の言葉に従ってるの!!」


 俺の行動に対し、リンゼは動揺する。


「当たり前じゃない。例え期間限定だとしても今の彼は私の騎士、私のモノ。私の命令は絶対よ」


 仕方の無いことである。騎士とは主に絶対の忠誠を誓うもの。主の本気の命令に対し、俺は全力を尽くす義務があるのだ。


「さぁて、今度は何を命じようかしら……」

「い!?」


 エリーザが妖艶な目つきで俺を見る。まるでリンゼに見せつけるように。

 それがどういった意図を含んだ言葉なのか、当然リンゼは即座に理解する。


「そ、そんな風に命令しないとスーちゃんの気を引けないなんて可哀そうだね。その点私はスーちゃんと相思相愛! お互いに相手のことを思い合ってるもん!!」


 対抗意識を燃やすようにリンゼが言う。

 相思相愛とか、思い合ってるとか、あまりにも虚言と誇張表現が多いのはご愛嬌だ。


「ふふ、騎士と主の関係をただの契約形態でしか見ていないからそう思うのよ。主は真に心を許した者にしか騎士にしない。私はそれだけの信頼と愛情をスパーダに置いているわ。そしてスパーダはそれに応えた」

「あなたは無理やりスーちゃんを騎士にしたんでしょ!! 何にも相思相愛じゃないよ!」


 リンゼ、お前が言えたことじゃないぞ。


 そう思うが最早どうでもいい。

 ――――この言い争い、どちらが勝ってもいいから早く終わってくれ。


 それが俺の切なる願いと化していた。


「確かに、私の思いはまだ一方通行かもしれない。けどそれはこの後ゆっくり深めていけばいいのよ。私は必ず、スパーダが私無しでは生きられないようにしてみせる」


 とんでもないこと言ってるけどスルーさせてもらう。


「ふふん! それは無理だよ。スーちゃんの気持ちは既に私のものだもん。だって、私たち『幼馴染』なんだから! 育んだ思いの質も大きさもあなたじゃ遠く及ばないよ!」


 えっへんと、得意げに言うリンゼ。

 

「あら、なら問題無いわね。私もスパーダの『幼馴染』だから」

「へ……?」


 エリーザの発言にリンゼはポカンと口を開く。


 まぁ、そりゃそうなるよな。


「ちょ、ど、どういうこと!? 何であなたが……!? 嘘だよねスーちゃん!?」


 リンゼはそう言って俺を見る。


「……いや、どうやら本当らしい」


 最初にエリーザが告げられた時はまさかと思ったが、この前エリーザから話を聞かされ、朧気ながら思い出した。


「お前が王都に引っ越した後、短い間だったけど、エリーザと遊んでた時期があってだな……」

「……」


 俺が言ったことで、それが事実であると認識したのか、リンゼは酷くショックを受けたように呆然とする。


「これで分かったかしら。私もあなたもスパーダの『幼馴染』、そして互いに幼い頃、彼に好意を抱いた。思いの質も大きさも、負けていないわ」


 堂々と、酷く恥ずかしいことを何のためらいも無く言い放つエリーザ。


「……」

「……」


 リンゼとエリーザが、互いの鋭い視線がぶつけ合い、交錯する。

 まるで戦う戦士のまなこだ。


 理由や目的が俺でなければ、なんと崇高なモノだったろう。


 視線の間で飛び散る火花を眺めながら、俺は他人事のようにそう思った。


「……絶対、負けない」

「こっちの台詞よ」


 どうやらこの勝負、勝者と敗者は決定せず、引き分けのようである。


「何じゃこれ」

「俺が聞きたい」


 そして、ここまでのやり取りを眺めていたゼノが発した最もな言葉に、俺は激しく同調した。


 

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◇◇◇

小話:

リンゼとエリーザは分かり合えない星の元に生まれてます。

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