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第三話 予期せぬ邂逅

 部屋割の話し合いは続いた。俺は先程の自分本位な意見のせいであれ以降話し合いに参加することを許されず、ただ黙って結論の成り行きを見守ることしかできなかった。


 そして難航した話し合いの中、遂に部屋割が決まった。

 というかそもそも、俺は予感していた。俺の意見が通らなかった時点でこうなることは。


「仕方がない。この部屋に儂、スパーダ、お前の三人で泊まる。それでいいな?」

「非常に癪だけれど、どちらも一歩も引かない以上仕方が無いわね」


 真剣な面持ちで、ゼノとエリーザは阿呆な会話を重ねていた。

 三人でこの部屋に泊まる。あまりにも結論が予定調和すぎてお前ら示し合わせてたんじゃないかと思わず疑いそうになる。

 もう俺に介入の余地はない。俺はゼノ、エリーザと同じ部屋に宿泊することを余儀なくされた。


「さてと、それじゃあ荷物も荷物も置いたことだし、都市内を見て回りましょう」

「あぁ……そうだな」


 俺は項垂れながら返事をして、立ち上がる。



 都市内の観光に行くのは俺とゼノ、エリーザ、サイカさん、バーガンディさんだ。ここ最近はこのメンツが固定になっている気がする。

 そんなことを考えながら、俺はエレベーターという名の昇降機でロビーへ向かった。


「サイカ、ここは何か名物のような物は無いのか?」

「はい。それでしたら……」


 といった風に、ゼノは既に観光気分だ。相変わらずの能天気ぶりである。

 エレベーターによる浮遊感を味わう中、そうして周りの様子を確認していると、エレベーターが「チーン」という音を立てる。

 すなわち、この昇降機が一階へと到着した合図だ。


 機械的な扉が低めの重音を奏で開く。見えるのは、先程も目にした広めのホテルロビー。

 俺たちはエレベーターから降りると、ロビーを通過するようにホテルの入口へ向かうべく歩き出す。

 しかし、


「スーちゃん……」

「……え?」


 あまりにも聞き慣れたその声に、俺は振り返る。疑問の付いた言葉を俺に発したのは、約十メートル以上先にいる少女。

 その姿は、見間違えることが無い。二週間以上離れていたが……懐かしさすら感じてしまう。


「スーちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

「がほぁ!?」


 十メートルという距離を、一瞬にして詰めてきたリンゼによる、勢いの乗った抱擁に俺は堪らず声を上げた。


「スーちゃんスーちゃんスーちゃんスーちゃんスーちゃん!!!」


 リンゼはその両手両足を俺の上半身にがっちりと絡ませながら、俺の胸に顔面を埋める。


「と、とりあえず落ち着け!! こんなところでくっつくな!? 恥ずかしいから!!」

「無理!!」

「即否定!?」


 気品のあるホテルのロビー、こんな人の目につく場所で抱き着かれるなど堪ったものではない。

 だがそれは二週間と少し振りに再開したリンゼの気持ちの良いくらいの拒否によってあっさりと否決された。


「リンゼ様。お元気そうで何よりです」

「サイカさん! スーちゃんは元気でしたか?」

「えぇ。大変に健康で健全な生活を心がけていましたよ」

「それは良かったです!」

「おぉリンゼ。久しぶりじゃの、死んだのかと思ったぞ」

「そんなワケないでしょーゼノ? スーちゃんのお嫁さんになってないのに死ねないよ!」

「ぐえぇ…‥!?」


 リンゼはそう言いながら俺を抱きしめる腕の力を増加させる。肋骨を通り内臓にまで伝わる圧迫感が俺を苦しめた。


 死ぬ……!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ……!! 


 心臓を握りしめられるかのような生命の危機に瀕する俺は慌てて口を開こうとするが、内臓があまりにも圧迫されているため呼吸もままならず、当然言葉を発することなど不可能な状態に陥っていた。


「そこまでよ」


 するとそこに、意外な救世主が現れる。


「……誰?」


 エリーザに肩を叩かれたリンゼは訝し気な目で彼女を見た。


「スパーダが苦しんでいるわ」

「ん? 大丈夫だよ、スーちゃんだって私と二週間以上会えなかったんだもん! もっとこうしていたいってさっき言ってたよ!」


 俺さっきくっつくなって言ったよな!?


 凄まじく都合の良い思い込みと改竄された俺の発言に俺は驚愕する。


「まぁでも確かに久しぶりだからテンションが上がっちゃった。少し緩めるねスーちゃん」


 そう言ってリンゼは俺に絡めていた腕と足の力を少し弱めた。それにより、何とか呼吸ができる程度には俺の内臓は回復する。


「えへへ~スーちゃーん……」


 恍惚とした表情でリンゼは俺に対する抱擁を続ける。


「うぅぅぅぅぅぅ!!! 二週間以上離れてたからいっぱいすっかりスーちゃん成分欠如してもう少しで廃人になるところだったよ~!!」

 

 そんなにか……。


「ごめんねスーちゃん……寂しかっただろうけど、連絡しようにもできなくて……」


 リンゼの言う通り、俺たちはこの二週間弱何一つ連絡を取っていない。エリーザから借りた魔水晶片には当然リンゼを通信先として登録されていないし、家にある魔水晶はギルド本局との通信だけが可能な代物だからだ。


「私のいないこの期間……ゼノに嫌なことされたでしょ?」

「はぁ!? お前何抜かしとるんじゃ!!」

「けど安心して!! こうして再会できたのは運命!! 神様がスーちゃんをゼノから守れというお達しだよ!!」

「い、いやあのな……?」


 一人自分の世界に入り、俺にまくし立てるように言葉を連ねるリンゼ。

 どうやら彼女に今俺がどういう状況に置かれていて、何故ここにいるのかといった最もな疑問は完全に頭になく、ただ純粋に俺と再会できた喜びを享受しているようだ。


「はぁ……いい加減にしなさい。私のにそれ以上接触することは許さないわよ」

「……は?」


 エリーザがそう言った瞬間、リンゼは唖然とした表情で彼女を見る。


「ど、どういうこと? スーちゃん」

「え、い、いやまぁ……その……」


 ポリポリと頬を掻き、冷静な表情を保つ俺。だが内心は……。


 やっべぇぇぇぇぇぇぇ……!!!!


 圧倒的な窮地に、精神が壊れそうになるほど動揺していた。

ここまで読んでくださってありがとうございます!


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◇◇◇

小話:

スーちゃん成分(リンゼ談)が足りなくなったリンゼはゾンビのような形相でクエストに取り組んでいたようです。

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