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第二話 ホテルへGO

本日2話目!

今回で25万字突破しました!

 十五分後、俺たち一行は商業都市『ブルーノ』へと入った。そこで俺たちを待ち受けていたのは、賑やかな雰囲気と、それに伴う凄まじい人の喧騒だった。


「すごい人だな……」


 馬車で街道を進みながら、俺は周囲を見渡す。


「ここは常に人が多いけれど、『大オークション』が近いこともあって更に活気づいているわね」


 俺と同じように、周囲の喧騒に目を向けたエリーザはそう述べた。


「それになんか、王都よりも……色々発展してるような……」


 見れば、所々王都のような民家や店があるが、それは半分程度であり残りの半分は何というか、近代的な建築物が多く建ち並んでいた。


「知っての通り、ここは国で一番商業が盛んな都市。だから当然、新しいモノや考え方が横行する。これはその表れね」

「へー、王都もああいう建物とか建てりゃあいいのに」

「無理ね。伝統を重んじる、あの懐古主義の王族が支配する都市じゃ」


 そんな会話を連ねていると、


「はっはっはっはっは!! こうして馬車に乗り、端を歩く下々共を見ていると気分が良いわ!!」


 声高らかにゼノが笑う。


「大声でそんなこと言うな! 外に聞こえてたらどうすんだ!?」

「むぐうぅぅぅぅぅ!?」


 俺は慌ててゼノの口を手で塞いだ。


「なぁ、エリーザ。これからどうするんだ。『大オークション』は二日後だろ?」

「そうね。だから今日はオークション会場の下見を兼ねた都市観光しましょう。そのためにまずは荷物を降ろさないといけないからホテルに向かうわ。予約は既に済ませているから」

「ホ、ホテル……」


 意味合い的には宿。しかしホテルというと個人的に高いイメージがある。

 そんなところに泊まれるという事実に、俺の心は少し……いや、かなり高揚していた。



「ここよ」


 暫くし、馬車は目的地に到着した。

 降車した俺たちに、エリーザは指で目の前の建物を指し示す。


『スマートパレス』、この所謂最高級ホテルという奴でありこの都市の宿泊施設では最高品質のサービスを誇る……らしい。

 らしいというのは、当然俺が宿泊したことも無ければ聞いたことも無いから。

 だが、今目の前にそびえ立つ巨大な建物は……それが一流の最高級ホテルであることをこれでもかという程示していた。


「おぉデカいのぅ!! 儂が宿泊するに相応しい宿じゃ!! あの部屋全部儂が使っていいんじゃよな?」

「いいわけわねぇだろ。一部屋だ一部屋」

「何!? あんなにデカいのだからもう少し占領してもいいじゃろ!?」

「泊まる部屋なんて複数借りても意味ねぇだろうが!! 何するんだよ!?」

「今日寝る用、明日寝る用、明後日寝る用じゃ!!」

「アホかぁ!?」


 俺は思わず、頭の悪いゼノの発言に頭の悪いツッコミをしてしまう。


「さ、行きましょう」


 そんな俺たちのやり取りを横目にエリーザはホテルへと足を運んでいく。

 俺のような貧乏人はこんな所、彼女のような貴族の近くにいないと全く勝手が分からない。ゼノとの応酬を切り上げ、俺は彼女の背中を追った。



「「おぉぉぉぉぉぉ!!!」」


 ホテルマンに案内された部屋を目にした俺とゼノの声がハモる。

 巨大なベッドを含め、豪華だろうがしっかりと洒落のある家具の数々。風呂や洗面台は金で彩られており、三十階の窓から見える景色はこの商業都市を一望できる。


「わははははははは!! フカフカじゃぞこのベッド!!」

「おぉ本当だぁ!! 跳ねる、跳ねるぞ!!」


 初めて高級ホテルのスイートルームに貧乏生活が長かった俺とゼノはベッドの上を跳びながら、とてつもなくはしゃいでいた。


「いやぁ大義じゃエリーザ!! 儂とスパーダのためにこのような部屋を用意するとは!! スパーダ、これだけベッドが広ければ一緒に寝ても問題無かろう!! 儂と一緒に寝ることを光栄に思え!!」

「はっはっは!! いつも勝手に俺のベッドに入ってくる奴が何を言ってんだ!!」

「わはははは!! それもそうじゃのう!!」


 気分が非常に高揚していた俺たちはそんな軽口を叩き合う。


「何を勘違いしているの残念幼女」

「ん?」


 だがそんな俺たちに、水を挟むようにエリーザは声を発する。


「ここは私とスパーダの部屋よ。あなたはそこのメイドと同室」


 そう言ってエリーザはサイカさんを指差した。


「はぁ!? おいおいおいおい何をぬかすエリーザ!! この部屋は儂とスパーダのためのモノじゃろう!?」

「そんなこと一言も言っていないわ。今言った通り、ここは私とスパーダの部屋。あなたの部屋は隣よ」

「ふざけるなよお前!! お前とスパーダが同室になったら、スパーダが何されるか分かったものではない!! スパーダと同じ部屋になるのはパートナーである儂じゃ!!」

「あら、期間限定だけれどスパーダは私の騎士よ? 騎士ならば、主のために限りなく近くで護衛する必要がある。私とスパーダが同室なのは当然なのだけれど」

「そんな理屈が通るか!!」

「その言葉、そっくりそのままお返しするわ」


 あれ、何だ。さっきまで高級な部屋にテンションが上がっていたのに、暗雲がたちこめてきた。

 バチバチと静かな火花を飛ばす二人を横目に、俺はベッドのスプリングを生かして飛び跳ねるのを止める。


「お、お前ら落ち着けって……」


 俺は宥めようと二人の間に入ろうとするが、


「スパーダは黙っとれ!!」

「スパーダは黙っていなさい」


 ゼノとエリーザはそう言って俺の介入を許さない。

 だがそれだけで引き下がれるワケが無い。俺の今日の安眠が懸かっているのだ。口を挟まないわけにはいかない。


「黙っていろと言われて黙っていられるわけにはいかない!! これは俺の問題でもあるんだ!!」


 俺は強く出る。二人に威圧感に負けないように。


「だから俺からも言わせてくれ!!」


 そう言って、俺は頭を回転させる。今日の夜を優雅に過ごし、安眠するための最適解を導き出すために。

 そして、いとも容易くソレは出た。


「俺はここに一人で泊まる!! お前らは別室で寝てくれ!!」

「「……」」


 瞬間、ゼノとエリーザから半眼で睨み付けられる。


 はっ!? しまった……!!


 そこで俺は自分の過ちに気が付いた。

 ――――導き出した答え。それが俺の欲望を前面に押し出した、あまりにも最適解過ぎたことに。



 同時刻、一人の少女がスパーダの気配を感じ取った。


「おいどうした?」


 少女と同じ集団で先頭を歩いていた、恐らくリーダー格の男が、突然足を止めた彼女に対し疑問を投げる。


「……」


 その疑問に対し、少女は何も答えなかった。いや、聞こえていなかったというのが正しいか。


「先行ってて」


 二秒後、少女は自身が共に行動していた集団に短くそう告げた。


「は? 急に何言ってんだよ?」


 リーダー格の男とは違うもう一人の男が、そんな少女を訝し気に見る。


「いいから行ってて。後で行く」

「お、おいだから何なんだよ?」


 追及を掛けようとする男を、リーダー格の男が腕で制止した。


「分かった、先に行く。だが今日のサボりは許さない。必ず来るんだ、いいな?」

「うん」


 彼女の様子に、何かを察した素振りを見せるリーダー格の男。そんな彼の言葉に少女は上の空で返事をした。



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◇◇◇

小話:

ホテルの宿泊代は一泊数十万ネイスです。

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