幕間 魔王幹部
今回一気に新キャラが登場します!! 今後重要になりますが今はあまり頭に入れなくていいです!
そこは判然としない場所だった。
周囲は暗闇に囲まれており、中央には白い楕円形の巨大な机と、その周りに背もたれが異様に長い椅子が並べられていた。
「ふぁーあー……」
暗闇の中から、欠伸をする一人の女が、まるで彫刻が形作られるかのように現れる。そしてそんな彼女は最も近くにある椅子に腰かけた。
それに同調するように、他の者も同様に現れた。そして彼らもまた、自身に最も近い椅子に狙いを定め、それに腰かけた。
現れた人数は合計で七人。ほとんどは人間の形をしているが、中にはそうではない……異形を為している者もいた。
「全員、揃ったか?」
「……揃うわけない」
「そうそう。寧ろ三人しか欠席してないことを喜ぶべきだよ。他の奴が招集を掛けても……多分二、三人しか集まらない。十人中七人、この結果は君の人望によるものだ。誇れオーガム」
「……」
オーガムと呼ばれた男は、その発言になんとも言えぬ顔を作る。
「……まぁいい。それでは、一応ここにいる者たちを確認する。席順に名乗れ」
オーガムはそう促すと、
「イタンシン」
「……ナハト」
「ズィーナ」
「バク!」
「レイクルード」
「ベズラー」
時計回りの席順にこの場に集まった者たちは、口々に自身の名を名乗り始める。
「いないのはゲルヘナ、マリュガイズ、クアンタか」
「アイツらは魔王様の命令しか聞かねぇからな。お前が招集かけても無理だ」
とオーガムに言葉を発するのは、机に両足を乗せるベズラーである。オールバックの黒髪、極悪人のような目つきに異様に発達した犬歯、加えて所作から伝わってくる横暴さは相当なものだ。だが見た目とは裏腹に、この中で一番協調性があったりする。
今この場にいない三人は、この場にいる者たちよりも遥かに性格に難がある。それは魔王にのみ絶対的な忠誠を誓い、魔王のためだけに行動する。それがあまりにも極端であり、同じ幹部すらも彼ら彼女らは煩わしく思っているのだ。
同じ魔王幹部であるオーガムも、それは重々承知していた。
だが、オーガムがこうして定期的に招集を掛け、情報を共有するのは全てその魔王のため。
四百年前……【勇者パーティー】との戦いで敗れ死んだ魔王を復活させるためなのだ。せめてこういった招集くらいは足並みをそろえてほしいというのがオーガムの本音だった。
だがいないものはしょうがない。オーガムは話を進めることにした。
「仕方がない。いつも通り、奴らには俺が別で話をしておく。今回お前たちを呼んだ理由は一つ……ルオードが死んだ件についてだ」
「え、死んだのアイツ?」
その報告に、紫色の短髪で活発そうな少年の見た目をしているバクは、大して興味も無いかのような反応を示した。
「俺の回した連絡にしっかり目を通せバク」
「ごめんなさーい!」
ニシシと笑うバクは、何一つ悪気が無いような、無邪気な子供のようだ。
「……けど、バクの気持ちも分かる。こんな報告、意味がない……」
そう言ってバクを擁護するのは、この中で数少ない女性の一人、ナハト。
猫背に加え、陰鬱そうな表情と目の下のクマが特徴的だが、顔立ちは非常に整っており、先に挙げた特徴がそれを強調してすらいた。
「ま、確かにそうであるな。奴は実力も伴わないのに独断専行が過ぎることで追放された。既に魔王幹部ではない。そんな奴の死亡報告など、聞くだけ無駄というものだ」
ナハトに同調するのは、レイクルード。
その特徴は、体に刻まれている縫合痕だ。まるで他の肉体と肉体を無理やり接合したような容姿と、三メートルは超えるであろう体躯が彼の威圧感に拍車を掛ける。
「そうそう! それで、空いた席に俺が座ることになったんだから!」
バクはそう言って、自分を指差した。
「そう言わずに聞け。問題はその死の原因だ……どうやら、魔剣によって殺害された」
「はは! 何だよ魔剣所有者に殺されたのか? なるほどな、それならルオード程度じゃ勝てねぇよ。けど、それの何が問題なんだ? 魔剣は全部後回しだろ?」
ベズラーの言う通り、魔剣所有者についてや、場所の分からない魔剣に関してはオーガムたち魔王幹部は後回しという方向性を取っている。
「話は最後まで聞け。問題はそこではない」
「あぁ? ならどこだよ」
「ルオードの死体から、微かだがゼノ様の魔力を感じた」
『……』
――――オーガムの言葉に、机を囲む幹部たちの空気が一変する。
「……どういうこと? 魔剣の所有者が行使できるのはその権能だけ。ゼノ様の魔力まで使えるのはどう考えてもおかしい……」
「あぁ、その通りだ。ゼノ様の魔力を使う……そんな奴がゼノ様以外に存在するなど、有り得はしない。だが、現実にそれが起きている」
ナハトの当然の疑問にオーガムは答えた。
「てことは、ゼノ様は既に復活してるってことか? なら、何で俺たちの前に姿を見せない? というか、そもそも……」
「そうだ。ゼノ様が復活していたとしても、その疑問が残る……」
「あーそうだ。それなら俺からも一つ、言っときたいことがあった」
そう言って手を挙げたのは、先程オーガムの人望の高さを評価した男、ズィーナだ。
飄々とした雰囲気を醸し出すイケメン男、ニコニコとした笑い顔がデフォルトだが、その笑顔はどこか作り物臭く、めくれば剥がれるのではないかという程に薄ら寒かった。
「なんだズィーナ」
「王都の地下に幽閉されてた悪魔の反応が消えた。多分殺されたんだろうけど、アレって確かルオードより強いはずなんだよね。だから早々殺せるはずないんだけど」
ズィーナは自身が融合させた対象が消滅したり死亡した際、それを感じることができる。あの時、ジオルドとゲオルドの兄弟が死んだ瞬間、彼はそれを感じたのだ。
「何が言いたい?」
「つまり、ルオードとその悪魔を殺した奴は……同一人物の可能性がある。魔剣だけじゃあ多分あの悪魔は殺せない。けど……ゼノ様の魔力があるのなら、話は変わってくるからね」
『……』
ズィーナの発言に、またもや皆は沈黙。
自分たちが圧倒的忠誠を誓う魔王が、元幹部や悪魔を殺している。その事実をどう受け止めればいいのか、誰もがそれを決めあぐねていた。
しかし、何時までもこのような状態でいるわけにはいかない。
招集をかけ、進行役でもあるオーガムは冷静に現状を分析し、すべきことを打ち出した。
「ともかく……今回の件で俺たちは魔剣の回収、これを優先すべきであることは明白だ。アレはゼノ様が復活した後に全て回収すれば良いと思っていたが、ゼノ様が既に復活しているのか、第三者がゼノ様の魔力を行使しているのか判然としない現状を考えれば……復活に向けた活動と並行し、そちらも行うべきだろう」
「……うん、賛成」
「俺もー! 早くゼノ様に会いたいもん!」
「そうだね。俺も早くゼノ様にグチャグチャニしてもらいたいから賛成」
ナハト、バク、ズィーナが言葉で賛成の意を示す。他の者は口には出さなかったが、その沈黙は賛成を示していた。
「つってもなぁ、魔剣ってどこにあるんだよ?」
そして次の問題は魔剣の在り処だ。ベズラーは当然の疑問を口にした。
「それに関して、一つは既に目星が付いている」
そう言ってオーガムは指を鳴らすと、机上に一枚の画が表示された。
「商業都市『ブルーノ』、近い内……ここで『大オークション』なるものが開催される。人間たちが出品された品を金で競り落とす催しだ」
「それに魔剣が出品されるってか? はは、人間共も面白いことするもんだな」
「いや、恐らく奴らはそれが魔剣とは分かっていない。ただの古い骨董品程度だと思っているだろう」
「ほーん、で……誰が行く? それとも全員で一気に奪うか?」
「確かに、俺たち全員で行けば確実だろうが……今俺たちの存在に関する情報をできるだけ明かしたくはない。だからこの件を任せるのは一人だ」
「俺が行く」
そう言って名乗りを挙げたのは、これまた今まで一言も発していなかった男、イタンシン。
両頬に謎の文様が彫られており、髪の毛を腰辺りまで伸ばしている。
立ち上がった彼は、エメラルドのような翠色の瞳で魔王幹部たちを見渡した。
「そうだな。この中なら、お前が適任だろう」
「え、そうなの?」
理解を示すオーガムの発言に、バクはあっけにとられたような顔をする。
「この中なら、俺が一番『大オークション』のことを知っている」
「そりゃまたなんでだ?」
「俺の趣味は蒐集だ。蒐集家の間で、このオークションについて知らない者はいない」
「蒐集って、コレクターって奴か。お前そんなことしてたっけ?」
「五十年ほど前からな、中々面白いぞ。だが勘違いするなよ、別にゼノ様復活のための活動をおろそかにしていたわけじゃない。並行してこれまで上手くやってきた。気付けば盗賊団の長になっていたがな」
「えぇ!? イタンシン、そんなことになってたの!?」
「しかもコレクターって金で集めてるんじゃなくて盗んでるのかよ!!」
イタンシンのカミングアウトに、バクとベズラーは目を見開いた。
「今の奴の言葉通り、この中でイタンシンは最も『大オークション』に対する理解が深い。加えて、コイツが率いる盗賊団はかなり使い勝手が良い。今回の件はイタンシンに任せようと思うが……反対意見はあるか?」
『……』
オーガムはそう問い、それに対し誰も口を開くことは無い。
――――つまり、肯定である。
「『大オークション』はイタンシン……お前に任せる」
「了解だ。魔剣を回収できれば、それ以外は何をしてもいいんだな……?」
「俺に聞いてどうする。お前の好きにすればいい。蒐集家としての欲望を叶えたければ、好きにしろ」
「はは、それもそうだな」
オーガムの返答に、イタンシンはほくそ笑んだ。
◇
「ふぁー……行ってしまいましたかスパーダさんとゼノさん」
シュラインガー魔法学園内にあるグラゴリエス書庫で、相も変わらずビクは本を読みふけっていた。
彼が読んでいるのは、最後の一冊。
この書庫内にある膨大な本を、彼はこの一冊を除き全て読み漁ったのだ。
――――そして、最後の一冊を読み終わった。
「さて、と……」
本を閉じ、彼は立ち上がった。
次の瞬間……彼の姿は、変容した。
真面目で不健康そうな文学青年の容姿は……紳士服に身を包み、礼節を弁えた美麗な好青年へと変化する。
「やはり私の考えは間違いでは無かった。あの方は、紛れも無く魔王……!!」
追い求めていた人が、待ち望んでいた人を頭の中で反芻し、歓喜の感情にビクは体を震わせた。
「はは、はははははは!! だがしかし、だがしかし……!! まだだ、まだあの方の前に私がこの姿で出る訳にはいかない……!! 今私ができるのは、陰ながら支援することのみ……!!」
つい数日前、スパーダの頼みを快く承諾したビクはさらに恍惚とした顔を見せる。
「あぁ……。まさか私が魔王様のために働くことができるとは……!! 一体なん百年ぶりだっただろう……!! あの時はにやけそうになる顔を正常に保つのが大変だった……!!」
そう言ってビクは体をクルリと回転させた。
「あぁ魔王様!! このクアンタ、必ずあなた様を完全体にしてみせます!! そして、そうなった暁には……あぁ!! 想像しただけで滾る、滾ってしまうぅぅぅぅぅ!!!!!」
想像だけで快楽に溺れそうになったビク……いや、魔王幹部の一人であるクアンタは、床を転がりながら書庫中に響き渡る声で叫んだ。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
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◇◇◇
小話:
遂に魔王幹部が(ほぼ)全員登場しました! 内部でも色々な者がいるので、エリーザの言う通り一丸となっているわけではありません。一癖も二癖もある奴らばかりです。
次回は第二章のキャラクター紹介です!!




