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第三十四話 弱点

「二重人格……? どういうことだスパーダ!!」

「最初の違和感は、アイツが言った「カエタダケダ」という言葉だ。その前後で、アイツは何でもないかのように言葉を発し始めた。そして言葉を話し始めた奴の魔力圧は急激に増大し、強力な魔法を使い始め、おまけに身体能力も向上した。それまでは、ただあえて言葉を発していなかっただけと思い込んでたが……違う。話さなかったんじゃなくて、話せなかったんだ。その時は、今の奴の人格じゃなかったからな」

「何ですって……?」

「言葉を話し、魔力や身体能力が高いのが……今の人格。そして言葉を話さずに、俺たちの攻撃を全て防ぎ、回避しているのがもう片方の人格だ。今までのことから……そうとしか考えられない」

「ククク……!! ハハハハハ!!! 正解ダ!! 四ツの魔力特性ヲ持チ、凄マジイ魔力……加エテ身体能力ヲつかさどルのがコノ俺、【ジオルド】。ソシテ俺ヨリ知能ガ低ク言葉ガ話セナイガ、完璧ナカウンターヲ為ス防御魔法……『捌きノ手ハンドル・リフレクター』を司ルノガ……俺ノ弟、【ゲオルド】ダ」


 弟……?


「ハハハハハ、元々ハ俺タチハ二人トシテ存在シテイタ。ダガアル日、俺タチハ無謀ニモ挑ンジマッタノサ。【魔王】様二」

「っ!?」


 ジオルドの言葉に動揺する。


「ダガ、俺タチ兄弟ハ負ケタ。今思エバ、勝テルワケガ無カッタ。シカシ、死ニカケタ俺タチニ、魔王様ハ慈悲ヲ下サッタ。アノ方ノ幹部ノ一人、【ズィーナ】様ニ働キカケ……俺ト【ゲオルド】ヲ、一ツニシテクダサッタ。アァ……最高最高最高ダ!!!」

「……」


 ――――どうかしている。

 

 率直な俺の感想だった。何を以て、慈悲と言っているのか。【ゲオルド】という名の弟と肉体的に一つになったことの何が最高なのか……理解できない。


「攻ノ俺、防ノおとうと!! 俺タチハ最高のコンビダゼ!! ナァ【ゲオルド】!! アァイヤ、俺ガ出テルカラ答エラレナインダッタ!!」

「……」


 意気揚々と、口調までもが高揚するジオルドを、無言で見詰める。


「ヨォット!」


 そして、切断された腕を拾い上げ傷口へと押し付けると、痕も残らない程に接合を成し遂げた。

 ここで……俺は確信した。


 アイツは気にしていない、いや認識していない……悪魔ゆえの、それとも【ジオルド】の人格の時限定の能力なのかは知らないが……攻撃を受けてもあぁやって回復、再生するためだろう。


 ――――だが、とにかくそれは僥倖だった。

 

「コノ結界……魔剣ニヨルモノトハ異ナリ相当ニ脆イ。セイゼイ、後四分デ解ケルダロ。ハハハ!! ソノ前ニ、殺ス。ソシテココカラ出テ、王都ヲ潰ス!!」

  

 俺たちが想定している最悪のシナリオをなぞるように、ジオルドは言葉を発する。


「ソロソロ話ハ終ワリダ。殺ルゼ……?」

「「「っ!!」」」


 瞬間、再びジオルドの魔力圧が発散した。それはヒシヒシと俺たちの肌に伝わる。

 それは……今までは奴が本気では無かったことを、如実に示していた。


「フライト、カレン」

「何だ?」

「何?」


 俺はジオルドが聞こえない程度の小声で、二人に伝えた。


「……なるほどな」

「了解よ」


 奴の弱点、そしてそこから繋がる打開点。短く、簡潔な言葉だが……二人は理解を示す。


「シネ!!」


四重装フォーシクルアーム』、加えて『暴走する火炎(バーン)』を周囲へと発しながらの単調な突進。

 しかし、その単調な突進が何よりも恐ろしい。

 小細工の無い、裏が有るわけでも無い。だがあの体躯と無慈悲に備わる魔力を持つ奴にとってそれが最も有用だと、無意識に奴は知っている。

 最適解を自ずと選択していた。 


 ――――行くしかない!!


 あの突進に対し、散開するという手法は先程も行った。

 だがそれでは駄目だ。その場合、ジオルドに対応する人間が一人になる。そしてその一人は逃げることができない。

 今の状態の奴に対し、逃げられないというのはすなわち、死を意味している。


 だから俺たち三人で迎え撃つ。


 死を回避するために、奴の弱点を突くために、反撃に転じ時間を稼ぐために。


「『雷電疾走』!!」

「『氷円卓』!!」

「サッキト同ジカ!! 芸ノ無イ……!! 無駄ダ……!!」


 ジオルドは『氷円卓』によって氷結された足を無理やり動かして走り出す。先ほどまで通じていた魔法が通用しない。

 だが、そんなことは元より承知。

 それでも行く。俺たちの目的はそこでは無いのだから。


「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 美しい青を描くカレンの一閃、先程よりもキレが有り速度が段違いであろうことは見て取れる……いや、正確には目で捉えられる速度では無いのだが。


「ムダダ!! 【ゲオルド】!!」


 ――――来た。


 弟の名を呼んだ。つまり、交代した。ジオルドからゲオルドへと。

 それはすなわち、絶対の防御魔法『捌きノ手ハンドル・リフレクター』の発動を示している。


「アアァァァァァァァァ!!!」


 学も無く、獣のように吠えるのはゲオルド。倒さなければならない敵にも関わらず、見事に先程よりも昇華されたカレンの魔法を片腕で防いだ。


 やはりゲオルドの状態で防いだ……!! そして……!!


「死ネ!!!」


 人格をジオルドに戻し、再度攻撃を放とうとする。


「フライト!!」

「あぁ……!!」


 俺たちのすべきことは変わらない……!! さっきと同様に、このタイミングで攻撃を繰り出すだけだ!!


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「『氷双晶解アイス・ブレイク』!!」

「フン!!」


『魔王斬對慟』をジオルドは防ぐ。だが、


「グゥ……!?」


 フライトの攻撃は防ぐことができなかった。左腕全体を完全氷結し、そして斬り刻まれた。まるで崩れ落ちるように、内部に肉を有した氷塊が地面へと落下する。


 ――――やはり、そうだ。


 コイツは防ぎ切れない攻撃を防ぐ時、避ける時、必ずゲオルドに交代する。そうなればジオルドの身体能力、魔力は使えなくなるがあの絶対防御、『捌きノ手ハンドル・リフレクター』により全ての攻撃を防ぐことができる。


 弟が防ぎ、人格交代により兄に戻る。そして兄がカウンターとして攻撃を繰り出す。

 それが奴の常套じょうとう手段、戦法だ。


 だが、万能ではない。


 弟から兄へと人格交代が行われた直後、奴は防御ができない。正確には、防御しようと再び人格交代を行おうとしても、次の人格交代まで……一瞬のラグがあるのだ。


 だから雷の魔力特性を持つカレンの苦し紛れの攻撃はジオルドの手を破損させ魔剣を奪い返すことができたし、先程と今回、俺とフライトの同時攻撃は片方だけだが攻撃が通った。


「ククク、コノママイケバ倒セル。トデモ思ッテイルノカ?」

「っ!!」

「【ゲオルド】カラ俺ヘノ人格交代ノ直後ヲ狙ウノハ、悪クナイ。ダガ、ソレダケダ。ソレヲシタトコロデ、オ前タチハ俺ヲ殺セナイ」


 その通りだ。人格交代のラグは一瞬……その間際に殺し切るなどという芸当は俺たち三人の中の誰もできない。

 だがそれでいい。こうして体の部位を破損させ敵の行動を遅らせる。時間を稼ぐのが俺たちの目的なのだから。


「愚ノ骨頂。ソノ行為ハ、オ前タチノ命ヲ更ニ縮メルコトニ他ナラナイ!!」

「……うるせぇ!!」


 言いながら、俺たち三人の誰もがそれを理解していた。

 逃げること無く、自ら悪魔に立ち向かう……その行為に対するメリットはあるが、当然デメリットもある。

 それは、奴の攻撃射程内に自ら身を投げ打つということだ。

 加えて……奴が少しでも戦闘パターンを変えれば危険は更に跳ね上がるだろう。


 俺たちの行動は、一歩でもたがえればこちらの命が刈り取られる。そんな危険を孕んだ凶行。


 しかしそれをしなければ、俺たちは時間を稼ぐこともできずに……殺させる。

 だからやるしかない。どれだけ愚行であろうと、突き進むのみなのだ。


「ダガ、ソノ愚カナ懸命サニ免ジテ……乗ッテヤロウ。サァ、オ前タチハ……イツマデ耐エラレルカナ?」


 またもや僥倖だ。

 どうやらジオルドは、乗ってくれる。この戦いに、戦闘パターンを変更することなく、俺たちの命が尽きるまで……!!


「覚悟はいいな!! お前ら!!」

「当たり前だ!!」

「ここまできたら、やるしかないでしょ!!」


 ゼノが所有権を書き換えるまで後一分三十秒……耐えてみせる。絶対に……!!


 俺たちは剣を握る力に再度力を籠め、悪魔目掛けて走り出した。

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◇◇◇

小話:

分かりやすく言うとゲオルドからジオルドに戻った直後、人格交代によるラグ(一〜二秒)が生じて攻撃が通りやすくなります(すぐにゲオルドに戻るのもラグによって無理)。

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