第二十七話 束の間の時間
「なぁ、サラーサ。改めて聞くけど……本当にいいのか?」
「いいって、何がですか?」
「……俺に協力することだよ。悪魔は王族しか知らない機密情報だ。それを知ったことがバレれば……」
仮に知っていても心の中に留めておくだけなれば確実にバレはしないだろう。
だがサラーサは俺に協力をする……それはすなわち機密情報に触れたことがバレてしまうということだ。
そしてそうなれば、もう騎士として……。
「なんだそんなことですか!」
「そんなことってな……」
「それなら心配しないで下さい! 私、冒険者になるので!!」
「えぇ!?」
あまりにも唐突な彼女のカミングアウトに俺は驚いた。
「実は私、元々冒険者になりたかったんです! だから良い機会だと思います!」
「そ、そうか……ならまぁ……」
いいのか?
俺は首を傾げた。
◇
「それじゃあスパーダさん。また」
「あぁ、またな」
学園の校舎から出た俺とサラーサは、短く挨拶を交わす。
帰る方向が違う彼女は異なる門から出る。そのため、互いに背を向けて歩き出した。
「……」
歩き始めて十数秒後、ふと俺は足を止めた。
そして顔を上げ……シュラインガー魔法学院の校舎を見た。
「この学園に来て、もう一週間が経ったのか……」
そびえ立つ建物を目にし、しみじみとした気分になる。
この一週間のことが俺の頭の中で走馬灯のように流れ出した。
良し悪し問わず、ここでしか出来ないような経験がたくさんできた。
「短い間だったけど……楽しかったな」
体験入学生の期間は二週間……あと一週間ある。
だが悪魔を倒し、魔剣を手に入れるのが俺の目的……その時点で俺の学園生活は終了だ。
「……帰るか」
短く呟き、俺は再び歩き出した。
「スパーダ!」
「ん?」
改めて学園を後にしようとした俺に声を掛けてきたのは、
「フライト……」
この学園生活で友となったフライトだ。
「どうしているんだよフライト。帰ったんじゃないのか?」
「はは、訓練場で鍛錬に励んでいたのさ。今日の君の決闘で、僕もまだまだ強くならなければいけないと思ってね。それに主に相応しい騎士として、更に実力を高めるためる必要もあるし」
「なるほど」
言われて、納得した。
任命式で騎士としての一歩を踏み出したのだ。さらに自分を追い込むのも理解できる。
「ちなみにだが、いるのは僕だけでは無いよ」
「え?」
「こんにちわスパーダ」
フライトは後方に親指を差し、こちらに向かって歩くカレンを示した。
「こんにちわスパーダ……っていうか時間的にはそろそろ「こんばんは」か」
「カレン。お前も自主訓練か?」
「そう。まぁフライトに誘われた口だけど、これから本格的に騎士になるんだし……悪くないとと思ってね」
「……あぁ、いいと思う」
カレンの考えに俺は同意する。
「それで、スパーダはどうしてここにいるんだい? 授業はとっくに終わったはずだが」
「俺はいつも通り書庫にいた。今日も大した収穫は得られなかったけどな」
肩をすくませ虚偽を述べると、フライトは短く「そうか」とだけ言った。
そして何か思い至ったかのように俺の顔を見る。
「そうだスパーダ。今日この後付き合ってくれないかい?」
「付き合う……?」
「あぁ、君がここに来て一週間が経ったがまだ歓迎会をしていないのに気が付いてね。今日は僕の行きつけの店で料理を振る舞おうじゃないか!」
高らかなフライトの誘いに俺は少し苦笑した。
「はは、気にすんなよ。心遣いだけもらっとくぜ。それに、俺はどうせあと一週間でここを出るんだからな」
「何を言っているんだ。君はあのエリーザ様の騎士としての確固たる地位を得たんだぞ?」
……あぁそうか。
フライトやカレンにとっては、俺がアイツの騎士になってこのまま学園の正式な生徒になるっていう認識なのか。
「いや……俺は、エリーザの騎士にはならない」
「なっ!?」
俺の返答に、フライトは目を見開く。
「け、決闘に勝ったのだぞ? いくら君が冒険者だとしても、それではみすみす大きなチャンスを逃すようなものだ!」
「いいんだよ、それで。俺は自分がなりたいものになる。そしてそれは上流階級貴族の騎士じゃない」
「だ、だが!」
フライトの顔はどこか納得がいっていないようだった。
そしてそんな彼の肩をカレンが叩く。
「ったく、フライト。そんなに食い下がらないの。スパーダにはスパーダの思いがあるんだから」
どうやらカレンの方は俺の考えに異を唱えるといったことは無いようだ。
まぁ彼女の性格を考えれば、そんなことはしないだろうというのは容易に想像がつく。
「……分かった。スパーダ、君の意思を……尊重しよう」
そう言うフライトの表情は、非常に残念そうだった。
――――正直、心が痛む。
「スパーダ」
「?」
カレンが俺の名を呼ぶ。
「エリーザ様の騎士にならないってことは、あと一週間で……この学園からいなくなるってことでしょ?」
「……あぁ」
的確な彼女の指摘に、俺は首肯する。
「だったらコイツの誘い、乗ってくれないかしら? 歓迎会と、送別会を合わせて」
「……」
そうきたか。
カレンの提案に、俺は思わず首を縦に振りそうになった。
――――しかし。
「悪いな。それも無理だ」
「ど、どうしてだ!? 僕は君を友として!!」
「うるせぇよ」
「……何?」
これ以上、俺と関われば……フライトやカレンにまで悪魔の情報を知られてしまうかもしれない。
もしそんなことになれば、二人の騎士としての道が閉ざされてしまう可能性がある。
サラーサと違い、二人は自分の誇りに従って騎士になろうとしている……そんな彼らの邪魔を、これ以上俺がするわけにはいかない。
心にもない暴言を吐きながら、俺は考えた。
「フライト、てめぇは最初から俺にグイグイきてたなぁ? 正直、最高にうざかったぜ! もう限界なんだ……だからもう、俺に関わんなって言ってんだよ!!」
「……」
悪辣な笑みをしながら、フライトの顔を見る。
奴の表情は……徐々に曇り、俺に対する目つきは鋭くなっていった。
それでもめげることなく、俺は罵詈雑言を飛ばし続ける。そうして全てを言い終わった時、
「そうか……分かった」
彼の顔は完全に他人を見るものに変貌していた。
――――もう十分だ。
これでフライトは俺に関わることは無い。
そして彼の幼馴染のカレンも、俺に近づくことは無いだろう。
「っ……」
踵を返し、俺は二人に背を向け歩き出す。
――――俺とフライトの関係は、完全に崩壊した。
「くっ……」
友として認めてくれた男の思いを踏みにじった罪悪感が胸を締め付ける。
最悪の気持ちで、俺は帰宅した。
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◇◇◇
小話:
学園内に訓練場は五つあります。




