第二十三話 少女の意気地
「悪魔はこの学園の地下に幽閉されているわ」
「内部構造は?」
「悪魔が管理されている場所は通称『大堂円』、その昔金とマンパワーにものを言わせて造り上げた大体五百×五百メートルの空間よ」
「随分広いな……んで、魔剣は何処にあるんだよ……?」
俺が聞くと、エリーザは一拍置いて口を開いた。
「スパーダ、ここで問題」
「は?」
「悪魔がこの学園にいる経緯から今の話までで疑問に感じないといけない点はどこでしょう?」
疑問に感じないといけない点?
言われて、俺はこれまでの会話から必要な情報の抽出を試みる。
――――そして、恐らく彼女が望んでいるソレに辿り着いた。
「……王族が、どうやって悪魔の動きを封じる結界なんての張れたのか……ってことか?」
「正解」
俺の答えに、エリーザは満足げに微笑んだ。
考えてみれば確かにそうだ。最初は弱体化されていて結界に閉じ込めるのが容易だとしても、聞けば悪魔は年々その力が強まっているという話である。
にも関わらずその悪魔の抑え込めるだけの結界を維持できるというのは明らかに異常である。
しかも結界と言うからには恐らく特別な魔具か、結界を張れる特殊型魔法だろう。
後者は術者が死ねば結界が解除されるだろうから考えられるのは前者……。
ん……魔具……?
「おいまさか……!?」
「その通り。悪魔を抑え込んでいる結界……それは、魔剣の力によるものよ」
「っ……」
当たってほしくなかった予想が、当たってしまったことに俺は苦虫を噛み潰したような表情になった。
「あと悪魔を拘束……って体の良い言い方をしたけれど実際は少し違う。悪魔は魔剣によって発動した結界内で暴れているの。内部からの咆哮や攻撃は外部に一切漏れてないわ」
「つまり、俺が魔剣を手にすれば……その時点で結界が解かれ、悪魔が自由になるってわけか。けど、それなら悪魔を倒した後に魔剣を抜けばいいだけじゃないか」
「どうかしらね。正直、今のあなたたちも相当強いけれど……あの悪魔に対抗できるかどうかは怪しい所よ。結界として役割を果たしているあの魔剣を使わなければ勝てないと、私は思っているわ」
「つまり、戦う前に魔剣を抜いて結界を解かなきゃいけないってことか……」
「えぇ。だから、スパーダ……あなたが目指す最善のゴールは、『大堂円』で悪魔を倒すことよ」
「でないと……王都の人たちに被害が及んで、最悪死ぬ……だろ?」
「正直、私にとっては王都の民の命はどうでもいいのだけれど……スパーダはそれじゃ駄目なんでしょ?」
「……」
倫理観の外れたエリーザの発言に、俺は言葉を返す気ならなかった。
◇
その後も俺はエリーザから話を聞き、『大堂円』の詳細な内部構造とそこまでの道のり、そして決行日時と当日の動きの把握、確認を行った。
「……」
話し合いが終わり、俺は重苦しい足取りで学園の廊下を歩いていた。
「スパーダさん!」
そんな時、背後から俺を呼ぶ少女の声が聞こえたのだ。
「……サラーサさん」
「サラーサでいいですよ! それよりもどうしたんですか? 顔色、悪そうですけど……」
彼女はそう言って俺の顔を覗き込む。
「い、いや……何でもない。大丈夫だ……」
誤魔化すように言葉を並べる。
「ほ、本当ですか……?」
彼女の表情は、とても心配そうだった。
だが彼女に言えるわけがない。
――――この学園、ひいては王都がこの長い間危険に晒されているなど。
「サラーサさん……」
「は、はい。何でしょう?」
「……この前はありがとう。協力するって言ってくれて、心強かったよ」
偽るように、全てを誤魔化すように口を開いた。
「けど、やっぱり……君の協力は必要無い」
「ど、どうしてですか……?」
「……具体的には言えないけど、どうにかなりそうな目途が立ってんだ。だから……」
下手くそな言い訳だ……だが、関係ない。
必要なのは体裁、あとは無理にでも彼女を跳ね除ける。
――――悪魔と戦うのは、俺一人で良い。
会ったばかりの彼女を、危険な目に合わせるわけにはいかない。
そう考えた俺は、口から出た出まかせとして成立しているかも怪しい出まかせを吐き散らした。
「……スパーダさん!」
しかし、やはりと言うべきか。
俺が何かを隠しているのを察した彼女は俺の言葉を遮るように名を呼んだ。
「嘘は、止めてください。何があったんですか……?」
「嘘なんて言ってない……俺は……」
「本当のことを言ってください! 急にそんなこと言われても、納得できません!」
サラーサさんは俺の腕を掴む。
「っ!!」
予想以上にサラーサさんが食い下がる。
だがここは心を鬼にするんだ。
「だから、何も無いって言ってんだろ……!!」
「きゃっ!」
彼女の腕を振りほどくように、俺は腕を動かした。
微かな罪悪感が俺を襲う。だがそれを堪え、俺は前進した。
尻もちをついた彼女を振り返り見ることなく、前に。
「スパーダさん!」
だが、彼女は諦め無かった。
俺の前に立ちふさがり両手を広げ、ここから先には行かせないと言わんばかりの抵抗を見せる。
「どけ」
「嫌です!」
あぁ、もう……。
「……いい加減にしてくれよ……!! さっき言ったので話は終わった!! お前に協力してもらう必要は無い!! だからもう俺に関わらないでくれ!!」
「嫌です!」
「だから……!!」
罪悪感と煩わしさを怒りへと変換する。
そして俺が怒号を飛ばそうとしたその時だった。
「なら、どうしてスパーダさんは……そんな悲しそうな顔をしてるんですか……?」
「……は?」
その言葉に、俺の思考は一旦停止した。
「な、何を……」
次に辛うじて出た言葉は、動揺を示すものだった。
「私はまだ、あなたとの関りは浅いです。けど……それでも、分かります。そんな顔をしてたら……誰だって」
「違う……俺は……!!」
言われて、自覚する。
涙が頬を伝う、その感触を……。
言葉で誤魔化そうとしても、それは覆ようのない事実であった。
「だから、話してみませんか? わ、私なんかじゃ役不足かもしれませんけど……」
あはは、とはにかむようにサラーサさんは笑う。
「……」
ここで話すのは……果たして正しい選択なのだろうか。
思わず開きそうになった唇に力を入れ、俺は思考する。
「スパーダさん」
「っ……」
俺の名を、再び呼ぶ彼女。
その雰囲気にやられるように……選択の余地も無く、俺は口を開いてしまった。
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◇◇◇
小話:
この部分は本来ちょっと書いて次に行く予定だったんですがしっかりと説得力を持たせるためにここまで書かせていただきました。




