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第十三話 ヴァロナント侯爵家の邸宅 その2

「は、はぁ!? な、何だよ急に!!」

「急じゃないわ。任命式の時から、私はあなたにそう言っているはずよ」

「そ、それはそうだけど……あの時もう話は終わっただろ!!」

「いいえ。私は保留にすると言っただけ。あなたを騎士にするのを諦めるなんて一言も言っていないわ」

「っ!!」


 そうだ、コイツは一言もそんなことを言っていない。

 ていうか……、


「お前、初めからこれが目的で……!!」

「あら、ようやく気付いた?」


 ニッコリと笑うエリーザに俺は口を曲げる。


 やられた……コイツは初めから俺をこの状況に追いやるために……!! 


『指名の返事、すぐに返さなくて良いわ』

『知っていることを話してあげる』


 指名の保留。

 知っていることを「全て」話すとは言っていない。


 このことが完全に頭から抜けていたわけではない。都合の良い言い回しによってコイツの口車、誘いに乗ってしまったのだ。


「ここは私の邸宅……さっきと違って周囲に邪魔者は居ない。じっくりと考えて、まぁ……もう答えは出ているでしょうけど」

「……」


 思わず、俺は唾を飲み込む。

 

「もう知っているでしょう? 魔王や魔剣に関する情報は国によって情報規制が掛けられている。グラゴリエス書庫にも無いわ。あなたに、選択の余地は無いの」


 コイツ……どこまで……。


 目の前に座る底の見えぬ少女、凡そ同じ年齢とは思えぬ雰囲気を纏う彼女に対し、俺の脳みそのリソースは割かれていった。

 どうすれば状況を打開できるか、どうすれば穏便にことを収めることができるのか。

 それを軸に思考を続ける。

 だが、その最中……俺は直面した。

 沸き上がる――――疑念、疑問に。


「……何なんだよ……お前……」

「何って?」


 わざとらしく首を傾げるエリーザに、俺は拳を震わせた。


「てめぇの目的は、何なんだって聞いてんだよ!!」


 語調を荒くして、彼女に聞く。


「言ったでしょう? あなたを私の騎士にすること、それが目的よ」

「違う!! 俺が聞きたいのはそこじゃねぇ!!」


 エリーザを指差す。


「俺を騎士にして、何をするつもりだ……?」


 彼女の目的には、何か裏がある――――俺はそう確信した。

 俺を体験入学生として魔法学園に招き入れたこと、冒険者である俺をあのような場で大胆に騎士にすると宣言したこと。

 やることがあまりにも大仰すぎる。

 何故そうまでして俺にこだわるのか、俺が知りたいのはそこだ。


 だが、大方予想はついていた。


「あら、そんなこと? ふふ、覚えていてほしかったけれど……無理もないわね。だけど安心しなさい。これから幾らでも私という存在を刻み付けてあげるから」

「はぐらかすなよ。俺の質問に答えろ……それとも、俺が答えてやろうか?」

「……いいわ。言ってみなさい」


 他の冒険者では無く、わざわざ俺を騎士として指名しようとしている理由。

 考えてみれば、その理由は一つしかない。


「ゼノと魔剣を利用して……何かを企んでいるんだろ?」


 真剣な口調で、問い詰めるように、俺は眼差しをエリーザに向ける。


「……」


 だが、俺の言葉に何故か彼女はポカンとした表情を浮かべた。

 そして次の瞬間、噴き出すように笑い出したのだ。

 

「ふっ……ふふ、あはははははは!」

「な、何がおかしいんだよ!! どう考えてもそうだろうが!!」


 あまりに予想外の反応に、呆気にとられた俺は何とか平静さを保つ。


「はははは! あぁお腹が痛いわ! まさかそんな頓珍漢な答えが聞けるなんて……!」

「はぁ!?」

 

 分からない。一体何を言ってるんだコイツは!?


 目に涙を浮かべながら、本気で大笑いをしているエリーザ。

 そのあまりの態度の急変ぶりに動揺を隠せなかった。

 やがて、笑いをなんとか抑えることに成功する。


「あなたの持つ力なんて、興味無いわ」

「な、ならどうして……!」


 それ以外に理由が見当たらない俺の混乱は加速する。

 それを見かねたように、エリーザは言った。


「単純、至極単純な話よ」

「……っ」


 少し間を置く彼女の喋りに、慎重に耳を傾け心臓の鼓動を減少させた。

 ――――真の目的が明らかになる。

 緊張感と緊迫感がせめぎ合う中、彼女は言葉を発した。

  

「私は、あなたが……ほしい。だから私の騎士にして、傍に置いておきたいの」

「……」


 ……。


「……」

「……」


 ……。


「……」

「……ん?」


 沈黙を破ったのは、俺だった。


「あら、聞こえなかったかしら?」

「いや、聞こえてたけど……」


 当然聞こえていた。

 そして言葉の意味が理解できなかった訳でも無い。


 ――――予測していたモノとはあまりにも乖離した、荒唐無稽な返答に……思考が停止したのだ。


「えーーーーーーーー……と」

「ん?」


 全身に『?』が広がる俺に、エリーザは柔和な笑みを見せる。


「つまり……どゆこと?」

「鈍感ね、まぁいいわ。もそうだったもの。間接的じゃなく、はっきりと言わないと……あなたは分からないものね」

「おい待てお前! 嫌な予感がする! おいスパーダ耳を塞げ!!」


 すると、何かを察したゼノが俺にそんなことを言い始める。

 だが……そんな行動を取る暇も無く、彼女の声ははっきりと俺の耳へと流れ込んできた。


「あなたを愛しているわスパーダ……だから私のモノになって。これは、命令よ」

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◇◇◇

小話:

エリーザとスパーダの過去については第二章の最終話(幕間)で明らかになります。

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