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第十二話 ヴァロナント侯爵家の邸宅 その1

 任命式の後、俺はエリーザとバーガンディさんと共に馬車に乗り巨大な邸宅の前にまで移動した。

 夕食を用意してくれているであろうサイカさんには連絡ができず申し訳ない気持ちでいっぱいである。

 後でしっかりと謝罪しよう……そう俺は強く心に誓った。



「ここよ」

「……」


 目の前の広がる邸宅を見た俺は開いた口が塞がらなかった。 

 任命式で用いた会館も相当な広さだったが、ここはそれとは比べ物にならない。

 

 これが上流貴族の家か……デカすぎて最早家と呼んでいいのか分からないぞ……。


「さ、行きましょう」


 俺が邸宅の大きさに唖然としていると、エリーザとバーガンディさんはそそくさと馬車から降りる。

 動揺を抑え込み、つられるように俺も馬車から降りた。


『お帰りなさいませ』


 家のドア……というより門が開くと、規則正しく整列しているメイドたちが声を揃えて出迎えた。


『おぉ!! 儂のためにご苦労な従僕共じゃ!! はははははは!!』

「あのメイドさんたちはお前のためにここにいるわけじゃねぇよ」


 自分の前で従者が頭を下げることに気持ちを良くしたゼノの気分を壊しなが俺はエリーザの後を歩く。


「ここがホール、食事をする場所よ。すぐに用意させるからそこに座りなさい」

「え、あぁ……」


 エリーザが指定した席に俺は着席し、机の淵に魔剣を立て掛ける。

 すると、俺の動作を見たエリーザが諭すように言った。


「もう構わないでしょう?」

「あ?」

 

 言葉の意味が理解できなかったが、それは次に彼女が発した言葉で理解に及んだ。


「そこにいるのは知っているわ。出てきなさい」

「……」


 なるほどな……名前を知っていたんだ。そりゃあ知ってるか……。


「ゼノ。出て来い」


 観念するように、俺は相棒の名前を呼んだ。

 直後、魔剣は輝きを放ち……


「ふむ、どうやらタダモノでは無いらしいな。お前」


 ゼノは姿を現した。


「初めまして魔王。エリーザ・ヴァロナントよ」

「ははっ!! この儂に対しなんと不遜な態度じゃ!! 去勢するぞ!!」


 ギャーギャーと叫ぶゼノにエリーザは何一つ臆さない。

 それどころか両肘を机の上に置き、手の甲に顎を乗せて煽るような視線を向けた。


「落ち着けゼノ」

「落ち着けるワケないじゃろ!! この儂が舐められとるんだぞ!!」

 

 俺が宥めようとするもゼノは聞く耳を持た無い。

 自分よりも弱い者にコケにされたコイツは非常に面倒だ。


 ……仕方ない。


「ほれ」

「む」


 そこで俺はゼノをこちらに引き寄せ、その頭を撫でた。


「よーしよしよしよし……」

「ふ、ふん! 儂がこの程度でおとなしくなるとふぅわぁ~~~……」


 俺は一瞬でゼノをおとなしくさせた。

 頭を撫でえるというのは、この二週間で俺が見出したゼノを落ち着かせる処世術である。


 だけどまぁ、こうやって撫でてると魔王の威厳は微塵も無いな……。


「ほれほれほれー、もう暴れようとしないかー?」

「うへへへへ~分かった~」


 いやぁチョロい。魔王様なのにチョロすぎる……!!


「……」

「な、何だ……?」


 ゼノのあまりの扱いやすさに感動を覚えていた時、鋭い視線が俺に突き刺さった。

 視線の主は巨大なテーブルを挟み、俺の正面に座っているエリーザのものだ。


「いえ、何でもないわ。それよりも食事にしましょう。来たわよ」

「え、おぉ!」


 執事たちが大量の料理を机の上に並べる。

 どれもこれも香ばしい匂いを放ち、俺の食欲が全力で掻き立てられた。


「あなたたちのためにこれだけ用意させたの。さ、召し上がれ」

「ま、マジかよ! じゃあ遠慮なく……いただきます!!」

「儂も食べる!!」


 そう言って俺とゼノは出された食事にありついた。



「ふぅ~」

「美味かった!!」


 三十分後、俺とゼノは机の上に出された大量の食事を全て平らげた。


「どう? 我が家の食事は?」

「あぁ、最高だった」

 

 サイカさんの食事と甲乙つけがたい。それが俺の正直な感想だ。


「それで、何を聞きたいのかしら?」

「え……?」


 満腹感に浸っていた俺に、エリーザはそう言葉を掛ける。


 ――――そうだ……俺がここに来た目的、それは。


「ゼノと魔剣……それについて知っていることを話してくれ」

「ふふ、分かったわ」


 エリーザは優しく微笑んだ。


「まずはゼノについて。四百年ほど前、魔王と【勇者パーティー】が戦って魔王が敗れたのは知っているわよね?」

「あ、あぁ」


 それは子供でも知っている。そしてなにより、ゼノ本人から直接聞いたことだった。


「魔王は死の間際、その力を自身が使っていた七本の魔剣に籠めて各地へと放った。そして同時に、魔王に仕えていた幹部たちも世界中に散らばった。あなたがこの前戦った魔人もその一人」


 言われて、俺は先日命を懸けて戦った魔人の顔を思い出す。


「魔人は長命、散らばった奴らは全員生きているわ。世界の裏側で暗躍してね……」

「目的は……魔王の復活、だろ?」


 俺の問いに、エリーザはコクリと頷いた。


「けど、魔王幹部の内部でも色々派閥があるみたい。目的が一緒でも、全員が一丸となっているって訳じゃないわ」

「目的が一緒なのに……争ってる……?」


 意味が分からない。下手な争いをすれば冒険者や騎士が嗅ぎ付ける……一体何のために……。


「私が知っているのはこんな所ね」

「えっ?」

「あら、提供された情報の少なさに不満でもあるの?」

「い、いや……それは」


 無い、と言えば嘘になる。

 ゼノが力を魔剣に籠めて各地へと放ったこと、同じくしてゼノに仕えていた幹部たちも各地へと散らばり現在も世界の裏で暗躍していること。そして彼らの内部に軋轢あつれきがあること。

  

 重要な情報だ。だが一獲千金のものではない。

 今の程度の情報ならば、予測を立てた段階で可能性として挙がる。

 内部での軋轢に関しても、知ったからどうだという情報に過ぎない。


「分かってるわよ。あなたがピンポイントで知りたいのは、『魔剣の在り処』でしょ?」

「……!!」


 その通り。

 ゼノは『七魔剣』と言っていた。そして先ほどのエリーザの話からしても魔剣が七本あるのは間違いない。

 それを見つけることができれば、ゼノのことを更に知ることにも繋がるし、力の新たな可能性が見えてくるかもしれない。


「知ってるわよ」

「ほ、本当か!?」

 

 エリーザの発言に俺は思わず席から立ち上がる。


「そして、教えてあげてもいい」

 

 マジかよ……!! まさかコイツの誘いに乗っただけでこんなにとんとん拍子で話が進むとは……!!


 俺は思考の末に選択したこの行動に自ら感謝した。


「けど、条件があるわ」


 しかし、俺はこの時すっかりと忘れていた。


「条件? 何だよ?」


 今日の任命式で、エリーザが俺に何を要求したのか。

 そして、俺がどう言いくるめられてここに来訪したのか。


「私の騎士になりなさい。スパーダ」


 こうして……話はふりだしに戻った。

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◇◇◇

小話:

本作の世界は様々なモンスターがおり、いろいろな食材がありますが調理や料理に関しては大体現実世界と同じものが出されます。

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