第十一話 任命式 その3
「俺ぇ!?」
「そうよ。いらっしゃい、スパーダ」
思わず自分を指差す俺に、彼女はそう言い放つ。
何これどういう状況……!? ていうか何でアイツ俺の名前知ってるんだ……!?
そんなことを考えていると、
「お迎えに上がりましたスパーダ様」
「っ!?」
音も無く、俺の隣に黒い紳士服を纏った男が現れる。
「だ、誰!?」
「バーガンディ・フクトル、ヴァロナント家に仕える執事でございます。あなた様を壇上までお連れするためにここに馳せ参じました」
「い、いや俺は別に騎士候補生じゃ……ってぇ!?」
俺がそう言い切る間もなく、バーガンディと名乗った執事は俺をお姫様抱っこの要領で抱えるとそのまま勢いよく跳躍し、一気に俺を壇上へと運んだ。
「さぁ、着きました」
「えぇ……」
バーガンディさんはそう言って俺を降ろした。
「えーっと……」
俺は客席の方に目をやる。
壇上に立ったことで、騎士と客全員の視線が先ほどよりもはっきりと伝わって来た。
「こ、この方が……」
「えぇ、私が選んだ騎士よ。スパーダ、今日から私の騎士になりなさい」
「いやいやいやいやいやいや!!」
とんとん拍子で話を進めようとする令嬢に俺は口を挟まずにはいられなかった。
「何勝手なこと言ってんだよ!? 俺は騎士候補生じゃなくて冒険者だ!! それに、魔法学園に通ってるって言っても体験入学生だぞ!!」
「関係ないわ。冒険者が騎士になってはいけないという規定は無い、ここにいる騎士から選べと言う規定も無い、会館に入る際に騎士候補生が渡されたプレートは彼らを番号呼びにするための指針に過ぎない。それに……私が決めたことは絶対よ」
「はぁ!? 言ってることメチャクチャすぎるだろ……!?」
あまりの傍若無人ぶりに俺は口調を荒くする。
だが上流貴族に対してそんな言葉を吐いてしまったため周囲から向けられる視線は鋭いモノへと変貌した。
くそ……!! 何だよコイツ……!! 一体何がしたいんだ……?
目の前の令嬢の目的が、俺には判然としなかった。
けど、はっきりと断言できることがある。こんな奴には絶対好き勝手させねぇってことだ。
「いいか!! 俺が目指してんのは最高の冒険者だ!! てめぇの騎士になんて死んでもならねぇよ!!」
「な、なんと不敬な……!!」
「命が惜しくないのかあの男!!」
周囲からそんな言葉が聞こえる。
けど知ったことではない。
俺はもう、自分を捻じ曲げることは止めたのだから。
「あら、いいのかしら?」
しかし、俺のその威勢は次にエリーザから発された言葉に圧し潰される。
「ゼノ」
「っ!?」
『む?』
彼女の口から出たソレは、極限られた者しか知らない単語だった。
『おいスパーダ、今そこの小娘儂の名を言わんかったか?』
「な、何で……お前が、その名前を!!」
「知りたい? なら私の指名を受け入れることね」
「!? お前は……一体……」
そこまで言い掛けて、俺は一つの心当たりを見出す。
「まさか、お前が俺を……?」
「ふふ」
抽象的な俺の問いかけに、エリーザは薄っすらと微笑んだ。
声無き回答――――だがそれが全てを物語っていた。
エリーザ・ヴァロナント……コイツが俺を学園に招待した人物だ。
「お前の誘いに乗ったところで、俺には何のメリットも無い……」
「いいえ、あるわ……あなたが今調べていることについて、こちらが知っている情報を全て話しましょう」
「っ!!」
エリーザの発言。
それはつまり、ゼノは魔剣について知ることができるということに他ならない。
「……」
ここでコイツの要求を拒めば、俺は求めていた情報を得ることができる。
――――いや、待て。たまたまゼノの名を知っていただけで、何か重大な情報をコイツが知っている確証なんて無い……仮に知っていたとしても、コイツが俺に教える保証もない。
それに何より、コイツは俺を学園に招き入れた張本人だ。その目的が不明瞭な現段階で、下手に誘いに乗るのは得策じゃない……!!
まだ書庫での調査も終わってないんだ。ここでリスクの高い選択肢を取る必要性は……。
そう考え、俺が口を開こうとしたその時――――
「保留でも構わないわよ」
「え……?」
「指名の返事、すぐに返さなくても良いわ。けど、一先ずあなたとは懇意にしたい。今夜一緒に食事でもどう? そうすれば、私の知っていることを話してあげる」
あまりにも好条件を、向こうから叩きつけてきた。
「……」
どうする……俺。
騎士としての指名は免れる。奴の誘いに乗ることにはなるが、何か画期的な情報が得られるかもしれない。
「早くして。私を待たせるなんて許さないわ」
「……」
頬から一筋の汗が流れ出る。
切迫した状況と時間、そして頭の中での損得勘定。
「……分かった。食事くらい、なら」
「ふふ、いい子」
苦渋の決断。
俺はエリーザの誘いに乗る決断をした。
「司会。もういいわ。進めて」
「えっ、いや……あの、ですが……」
「進めて」
「は、はいぃ!! そ、それではこれで第五百九十七回任命式を終了します!!」
エリーザは自分の騎士が決まっていないにも関わらず、司会に圧を掛け強引に式を終わらせる。
ざわざわとしたどよめきが会場内で響き続けた。
混乱と動揺が渦巻き蠢く。
恐らくだが、こんな任命式はそうそうないだろう。
『何!? メシか!! やったぁ!!』
ちなみにそんな中、ゼノはメシを食えることに喜んでいた。
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◇◇◇
小話:
スパーダは一応頭を使う人ですが、まだまだ足りません。




