第九話 任命式 その1
学園生活五日目、今日は何やらフライトとカレンにとって大事な日らしい。
というのもどうやら「任命式」というのに出席するからだという。
聞いた話によれば、「任命式」とはシュラインガー魔法学園で騎士を目指す下級貴族と、系列は同じだが別の学園である「フルラビル学院」という上流貴族専用の学び舎に通う生徒が一堂に会して行われる式らしい。
フルラビル学院の生徒がシュラインガー魔法学園の騎士候補生から自分に仕える騎士を選定する。
選定された生徒はその者が学院を卒業するまで騎士として付き従うという制度なんだとか。
「ふっふ! このいよいよこの僕も騎士としてのスタートラインに立つわけだ! さぁ一体僕はどの御方に選ばれるのだろか!」
「浮かれすぎフライト」
カレンの話では騎士を目指すシュラインガー魔法学園の生徒はこの式で二種類に分類されるらしい。
一つは家同士での繋がりがあり、騎士として仕える主が確定している者。
そしてもう一つは任命式で繋がりは無いが、騎士として指名される者。
フライトやカレンは後者らしく、前者はよっぽどの実力がある者か格式の高い騎士の家系の者に限られるのだそうだ。
「はっはっは! 無理を言うなカレン! 今日は僕にとって運命の日だ! それに、お前にとってもそうだろう?」
「まぁね」
フライトの言葉を、カレンは肯定した。
「この任命式で主として仕えたらもう生涯その人に仕えることになるのか?」
「ううん、そうじゃない場合もあるわ。主が卒業するまでの期間は、あくまで私たちの試験運用期間。その間にこちら側が何か粗相を起こせば主と騎士の関係を破棄される可能性もあるの」
「へー……」
なら、そいつの機嫌を損ねないようにし続けないといけないってことか。
難儀な職業だな……。
そんなことを考えながら俺はフライトとカレンと共にある場所に向かう。
まぁここまできたらもう俺がどこに向かっているのか分かるだろう。
「着いたぞ! ここが今日の任命式が行われる『スチュラクト会館』さ!」
「あーここか……」
高さはギルド本局には及ばない。
けど、こうして正門前に立つと分かる。建物の幅や奥行きはギルド本局よりもあるだろう。
リンゼに王都を案内され、この建物が視界に入った時の感想を思い出す。
「うわぁー、嫌だ急に緊張してきた」
「ははは、ここまで来て何を言っているカレン。俺たちは騎士になるんだぞ? もっと大きく構えていなければ!」
「こういう時だけはあんたのその図太さが心底羨ましいわ……」
カレンはフライトに半眼を向けて溜息を吐く。
「ま、まぁまぁ……とりあえず中に入ろうぜ。ここで立ち止まってったら迷惑になる」
「そ、そうね……」
俺たち三人は足早に会館の敷地をまたいだ。
「……」
騎士でも無く、騎士を目指しているわけでもない俺がここに来た理由。
それは俺をここに招待した人間を探すためだ。
その意味で、上流階級と下流階級の貴族が一堂に会すこのイベントは都合が良い。
そして俺のような一般人でも任命式の様子を観客として見学することができるというのも魅力的だった。
いくら俺を学園に招き入れた人間について詮索する必要が無かったとしても、この機会を逃すのはナンセンスだ。加えて、煮詰まっていた現状を何とか打開したいという考えも少しあった。
そうして、俺は今日フライトたちに同行しここまで来たのである。
◇
会場はとても広かった。
どうやらステージにフルラビル学院の上流貴族たちが座り、客席側にフライトたち騎士候補生が座るという構図らしい。
俺のような完全な観客はフライトたちの座る下段では無く上段の観客席に案内され、上から任命式を見物するという形になった。
「どうだゼノ。誰か怪しい奴いるか?」
席に座り、俺はゼノに聞いた。
もしここに俺を学園に招待した人物がいるのなら、俺に特殊な視線を向けるはずだ。
ゼノにはその検知を頼んでいる。
思念体のため誰に悟られることも無く、三百六十度全てを見渡せるゼノならば俺が下手な動きをする必要が無いからだ。
『うーむ。そうじゃのう、正直どいつもこいつも金に目が眩んだ目をしていて区別がつかん』
「……真面目にやれ」
貴族を見た感想があまりにも悲惨なゼノに対し、俺はぐったりと項垂れた。
「皆さまお待たせしました!!」
すると、会場が暗くなりステージだけが明るく照らされた。
巨大なステージの上に立つ司会の男が声高らかに言葉を発する。
「これより、第三百七十二回任命式を行います!!」
司会の発言に観客席から拍手が起こる。
俺も流れに乗って、手を叩いた。
「それでは、今回騎士を選定する貴族の方々にご登場いただきましょう!!」
「……あれが、上流貴族か」
ステージの袖からぞろぞろと歩いてくる人を見ながら俺は呟く。
「さぁ、一名ずつご紹介いたしましょう!」
そうして、上流貴族たちの紹介が始まった。
◇
紹介は特に問題も無く、滞りなく進んだ。
そして、いよいよ残り三名となる。
「お待たせしました皆様。今年はなんと『三大貴族』の御三家全てのご子息、ご息女様が登壇しております!! なんと運命的な出来事でしょうか!!」
『おおぉぉぉぉぉぉ!!』
司会の言葉に、会場が沸き立つ。
さ、三大貴族……? なんだそりゃ……。
「『三大貴族』の三名をご紹介させていただく前に、『三大貴族』のご子息、ご息女様がここに登壇された際の通例として、『三大貴族』についての説明をさせていただきます!!」
どうやら説明してくれるらしい。
「『三大貴族』、それは王都の中で王族の次に力を持つ三家の総称です!! それぞれの家は多大な功績を上げ、国王よりその爵位を賜りました!!」
つまり、過去にすごいことをした貴族で……地位は他の上流貴族と比べても遥かに上ってことか。
頭の中で簡単に情報をまとめる。
「それではご紹介いたしましょう!! まず一人目!! 人類の魔法学と科学を三百年は早めたと言われている偉大なる学者の家系、オパール侯爵家の長男!! フェルノート・オパール様!!」
「……」
眼鏡を掛けた冷静で、博識そうな男が一歩前に出る。
「二人目! 大陸を跨ぐほどの影響力を持つ【クレパス大商会】の一人娘!! イルミ・A・クレパス様!!」
「あははー、皆こんにちわー」
朗らかな表情でイルミと言う名の少女は騎士や客席に手を振る。
「そして最後です!! 五百年前よりその家名を轟かせ、古くよりその活躍は多岐に渡ります!! 由緒ある侯爵家現当主、エリーザ・ヴァロナント様!!」
「……」
「……おぉ」
すっげぇ美人だ。
肩に触れる程度の長さのふわりとした金髪に、綺麗な碧眼。
顔立ちは非常に整っており、少し吊り上がった目じりが特徴的だった。
そして極めつけは、あの凛とした佇まい……威風堂々を体現していた。
『ほう、良い面じゃ。まぁ儂の方が美しいが!!』
ゼノですら彼女の容姿を褒める始末である。
あれ、待てよ……なんか既視感が……。
その時、俺は何故かそんな感情を抱く。
「さぁ、皆様出揃いました!! それではこれより任命騎士の発表に移りたいと思います!!」
俺とゼノがエリーザと呼ばれた少女を見ていると、いよいよ任命式は佳境へと向かっていった。
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小話:
貴族には全員家名がありますが、スパーダのような平民には無いことが多いです(例外もあります)




