第四十三話 査問会の決議
タイトル少し変えました(少しとは)
「俺たちの……処遇?」
「あぁ。てめぇらが世界に害を与える存在なのか、そうじゃないのかを……ここで見極める。俺達三人の多数決でな。三人必要ってのはそういうこった。奇数人じゃねぇと確実な多数決はできねぇからな。後、分かってるとは思うがこの決議に先延ばしや中止は存在しねぇ。ここで結論を出す……拒否権がねぇのは、分かるよな?」
「……」
ライガの言う通り、俺たちに拒否権は無いことは先程のやり取りで理解した。
今の俺たちに強硬手段を取ることが不可能。
切迫した事態に、俺は固唾を飲む。
「さっさと終わらせよう。面倒くさい」
「へいへい……ったく趣が無いねぇお前は」
マフィンの発言に分かった分かったと言わんばかりの所作を交えながら、ライガは話を進める。
「スパーダ、ゼノ。お前らには二つの未来がある。一つはこのまま俺たちに拘束されて余生を過ごす未来。もう一つは、今まで通りこのまま冒険者活動を続ける未来だ」
二本の指を立てた彼は、それを俺とゼノに向けた。
「前者を簡単に拘束派、後者を自由派と言うことにして……俺たちの多数決でどちらになるかを決める。ちなみに、俺は後者だ。理由は面白そうだから。そんな力があるのに一生拘束されるなんて勿体ねぇだろ?」
「……」
ライガが自由派、つまりこの時点で後一人自由派になれば、俺たちの自由が保障されるってことか。
「じゃあ僕は、拘束派」
「っ……」
しかしそう都合よくはいかない。
マフィンが拘束派になったことで一気に緊張感が増大した。
「うぇー、おいおいマジかよマフィン。折角これからもっと面白れぇもんが見れるってのによぉ」
「ライガと違って、俺は面白いものに興味はない。それよりも、アレをそのまま野放しにして、暴走されたら……仕事が増えて厄介。ていうか拘束も面倒、殺して全部終わらせたい」
「楽したいだけじゃねぇかお前!」
「うん」
即答するマフィン。
マズいことになった……このままじゃ……!
「では……最後は私ですね」
変わらぬ穏やかな口調で、ユメラは言う。
彼女がどちらに賛同するかで……俺とゼノの運命が決定してしまう。
「……うーん、これは……困りましたね」
……困る? 一体何を言ってるんだ……?
口元に手を当てるユメラに対し、俺はそんな疑問を抱く。
「どうしたユメラ?」
「ライガさん。こんなこと初めてですよ。この私が正確に視ることができない」
「マジかよ。百発百中、百戦錬磨のお前がか?」
「はい。これだけ近ければ視れると思ったのですが……」
意味不明な会話を繰り広げるライガとユメラ。
「えぇと、どうしましょう? スパーダさん」
「え……?」
何故か、ユメラは俺に意見を求めて来た。
「何言ってる、ユメラ」
「あら別にいいでしょう? それに、決議において相手側の意見を組むことも大事ですよ」
半眼で視線を向けるマフィンに対し、ユメラはそう答える。
「というわけです。スパーダさん、あなたの意見をお聞かせいただけないでしょうか?」
「俺の、意見……」
「正解が分からない以上……自分の気のままに選択しようと思ったのですが、正直……私はどちらでもいいのです。ですから、あなたの言葉を聞きたいです。その上で、私は判断しようと思います」
目元は見えないが、その口元から柔和な笑みを浮かべているであろうユメラ。
彼女の問いに対し、何が正解なのかは分からない。
だが、俺がしなければならないことは決まっている。
彼女を自由派に付かせることだ。
しかし……一体、何を言えばいいのだろうか。
頭を回し、思考を重ねるが、良い言葉は思いつかない。
それどころか、どういった態度で話せばいいのかも分からない。
いや、そもそも俺が言えるのは彼女が自由派に賛同する発言だけ……。だが下手な発言はただの媚び諂いになる!! そうなれば印象は下がり、俺は不利になるんじゃないのか……?
正解は……正解は何だ……!!
考えろ、考えろ俺……!!
「むぐぅー!! むぐぅー!!」
「ってぇ!? 何すんだゼノ!!」
そんな時、ゼノに手を噛まれたことで俺の思考は中断された。
「それはこっちの台詞じゃ!! ずっと儂の口を抑えていたから息ができんではないか!!」
「あ、あぁそうだったのか。悪い…‥ていうかもう泣き止んだのか?」
「泣いとらんが?」
「いや泣いてたろ」
「泣いとらんが?」
「あぁ……うん、分かった」
よっぽど屈辱だったのだろう。まるで頭の記憶から泣いた記憶を抹消したような清々しさだ。
これ以上は何を言っても無駄、そう考えた俺は追及することを諦めた。
まぁ泣いて機嫌が元に戻ったのならそれでいい……ていうか、泣いて元に戻るって本当に子供だな。
とても数百年歳とは思えない。
「分かれば良いのじゃ! それよりもスパーダ」
「何だよ」
「何故何も言わん?」
ゼノもまた俺とユメラのやり取りを見ており、俺が言葉を発さないことに疑問を呈したのだ。
相変わらず、ずかずかと人の心に踏み込むその様は傍若無人に相応しい。
「そ、それは……」
こちらの一挙手一投足が決まる。
だから動けずにいる。
「言うべきことなど決まっておろうが! おい、お前ら!!」
俺の前に立ち、ゼノはユメラに向かい指さした。
「儂らの道は儂らで決める!! 意見も糞も無い!! お前の匙加減で決められてたまるか!!」
そしてただ率直に、ただ簡潔に完結に、思いを告げる。
ゼノの言葉を聞いたライガは、ニヤリと笑った。
「ほぉう。威勢はさっき潰したと思ったんだけどなぁ?」
「「っ!!」」
再び発されたライガのオーラ。
先ほどよりも、比べ物にならない密度と量に俺とゼノは顔を歪ませる。
……ヤバい、何だよこれ……!! オーラだけで、体が圧し潰されそうだ……!!
こんな奴、今まで見たことが無い……!! これが、【慟哭の宴】の冒険者……!!
オーラに触れた俺は、恐怖と畏怖……そして圧倒的絶望を覚えた。
あれだけのオーラを纏った者に反抗的な意思を示すなど自殺行為も良いところだ。
「……!!」
「ゼノ……?」
ゼノが俺の手を握りしめた。
温もりのあるその手は、微かに震えていた。
そうか……コイツも怖いんだ。
実体化したことで初めて伝わるその感触に、俺は何処か安心感を覚える。
「……」
俺は彼女の手を握り返す。
もう、一人じゃない……そう自覚したのだから。
ここで意思を見せなきゃ、これから先……俺が最高の冒険者になるなんてことは絶対にない!!
踏み出す勇気!! 一歩前に出る覚悟!! 絞り出せ、かき集めろ!! 俺はもう、二度と夢を諦めない!
「ゼノの言う通りだ。俺たちの道は、俺たちが決める!! アンタらにとやかく言われる筋合いはねぇ!!」
はっきりと言った。
流れる沈黙、その間【慟哭の宴】の三名は俺とゼノを見詰めた。
「……ふふ」
そして数秒後、笑い声が聞こえる。それはユメラのものだった。
「すみません。少しイジワルしちゃいましたね」
クスクスと笑い声を漏らしながら、ユメラは言う。
「イジワル……?」
彼女の言葉の意味が分からなかった俺は、思わず聞き返した。
「はい。スパーダさん、あなたに意見を促し、ライガにオーラを出させるよう指示したのは私の指示です。全ては、あなたの意思の強さを見たかったから」
「意思の、強さ……」
「はい。力を持つ者にとって、重要なのは力そのものではありません。必要なのは、その力とどう向き合うか……力に応じた意思です。それが無ければ、力に飲まれてしまいます。ですが、どうやらあなたなら……いや、あなたたち二人なら大丈夫そうですね」
ユメラの可笑しいといった風な笑いは、穏やかな微笑みに変化した。
「そ、それじゃあ……!!」
「はい、私は自由派に付きます。これで、こちらが多数ですね」
彼女がライガとマフィンを見る。
「ははっ、決まりだな。スパーダ、ゼノ。てめぇらの拘束は無しだ。これからも……いや、これまで以上に冒険者を楽しめ」
「あ、あぁ!!」
「けど……流石に魔人やら魔王やら……こっちとしてもただ野放しにしとくわけにはいかねぇ。てなわけで、少し保険を掛けさせてもらう」
「保険……?」
ライガが指を鳴らす。
すると、どこからともなく一人のメイドが目の前に現れた。
「初めまして。【慟哭の宴】よりあなた方の監視の命を承りました。サイカ・クローバルと申します」
丁寧にお辞儀をするサイカと名乗る女性。
平坦な眼尻に碧眼、無表情ではあるがその容貌は間違いなく美女の部類に入る。
加えて特徴的なのは褐色な肌と白髪で、彼女の外見的な魅力を一層際立たせていた。
「サイカにはこれからメイド兼監視役としてお前らと同居してもらう」
「冒険者活動に支障をきたさない程度と申し付けられていますので、ご安心ください」
「は、はぁ」
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
「うん。どうした?」
「監視だったらスーちゃんと一緒に住んでる私でいいじゃないですか!! それに一緒のパーティーに入ってますし!!」
「お前じゃあ公正に見られねぇからサイカに頼むんだよ!!」
「そ、そんなぁ……。それじゃあ私とスーちゃんの愛の巣がぁ!!」
「おい何が愛の巣じゃ!! しかも勝手に儂を抜くでない!!」
「かー、女に取り合いされるとは幸せモンだなぁスパーダ」
「呑気なこと言ってないで助けてくれ……!!」
苦悶の表情を浮かべる俺をニヤニヤした表情で見るライガに俺は堪らず叫びを上げた。
確かにどっちも美少女だ。
しかし、性格に難がありすぎて全くと言っていいほど幸福感が無い。
「ダメだよゼノ!! スーちゃんは私の!! 放して!」
「放すかぁ!! スパーダは儂のパートナーじゃ!! お前如きに渡すかぁ!!」
「いてててててててて!!!??? お前らやめろぉぉぉぉぉ!!」
「まぁいいや、それじゃあ査問会はここで終わり。それじゃあな。また会おうぜ」
ゼノとリンゼが暴れている。
その最中、ライガがそう言うと空間が光り輝き歪み始めた。
「うっ……!?」
目が眩み、思わず目を瞑る。
「……ここ、は」
一瞬の閃光を体験し、次に目を開けた時には、俺たちは全員元の場所……開いた扉の前へと戻っていた。
思い返せば一瞬……走馬灯のような感覚さえ覚える体験はこうして幕を閉じた。
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◇◇◇
小話:
ゼノは自分より弱い相手には大きく出て、自分より強い相手には虚勢を張ります。
ですがライガに関しては虚勢を張ったところで意味の無い強さがありました。




