第四十話 仲間との和解
ここら辺もちゃんと書きたかった話です。
「さぁてと、どうなったかなぁ?」
「勝手に抜け出して……本当にリンゼには困る。後でしっかりお仕置き」
リュード達Aランクパーティーとシェイズ達【竜牙の息吹】はスパーダとリンゼを除き、無事に洞窟から脱出し可能な限りの速度で下山、山の麓付近まで戻ってきていた。
ある程度の距離を離れたシェイズたち、彼らには二つの選択肢があった。
一つ、すぐにこの場から発ちギルドに報告に行く。
一つ、スパーダたちが戻ってくると信じ、この場に残る。
後者に関しては合理的ではないため本来ならば否決される選択肢。
いつ魔人がスパーダたちを殺し、追いかけてくるか分からない。
急ぎ王都に戻り、魔人に対抗できる人数と人材を準備することが脱出した彼らが取るべき行動だった。
だが、シェイズはここで両方の選択肢を取った。
王都に戻りギルドに報告する組と、この場に残りスパーダたちを待つ組の二つに分けたのだ。
報告組はミラン、レナ、ウーリャ、ロイド。
残る組はドミノとエル……そして、
「何で、ここに残る……?」
「その言葉、そのまま返そう」
リュードとシェイズだった。
「俺、は……」
リュードは言葉に詰まる。
この組み分けをするには、単純に言って強い者を残し、弱い者を王都に向かわせるのが最善だ。
特に洞窟から抜け出した今、ここは機動性の高い動きが可能になり戦闘の幅が広がる。ミランたちが王都に向かうまでの時間を稼ぐことすら容易だろう。
だがSランクパーティーでないリュードはここに残った。
自ら進言し、選択したのだ。
彼の意見を尊重したシェイズは、ウーリャと入れ替わる形でリュードをここに残した。
先ほどいの一番に逃げる提案をした彼にとって、これは自己矛盾に満ちている。
「……」
リュードが思い浮かべるのは、あの時のスパーダの背中だった。
皆を守る――――その覚悟が現れた背中。
自分よりも弱くて、情けないはずの男の背中が……あの時、とてつもなく巨大に見える錯覚を彼は味わった。
洞窟内で囮となったスパーダに、表現できないような感情。
それが彼を突き動かし、この場に留まらせていた。
だが、言葉で表現できるものではない。
今はただ……沈黙することしかできなかった。
「おい!!」
沈黙を破ったのはドミノだ。
彼がリュードとシェイズに呼び掛けるように、ある方向を指さした。
そこには、ゆっくりと歩く人影が見える。
見覚えのある人影に、その場の全員が駆けだした。
「みんなー!」
シェイズたちは歩く者たちの姿を正確に捉えることのできる距離まで近づくと、そんな声が聞こえる。
その声は紛れもなく、リンゼのものだった。
◇
「リンゼ!」
「わぁっ!? エル?」
「本当に、心配した」
「あははー、ごめんね?」
「許さない」
「えぇ!? もぉ、最近私エルに許されないこと多くない?」
「そっちが悪い」
「ま、まぁそう言われるとそうなんだけど……」
ポリポリと頬を掻くリンゼ。
そんな彼女に対し、エルは言った。
「でも……無事でよかった。本当に」
それは仲間として、リンゼのことを大切に思っていなければ出ない言葉だ。
「スパーダ……」
「お、おうリュード」
俺の名を呼ぶリュードに、少しバツの悪そうな顔を見せる。
「……」
「……」
何と言っていいのか、互いに分からない。
しかしどちらかが会話を切り出さねばならない。
「すまん!!」
先に口火を切ったのは俺だった。
謝罪の言葉を、リュードに述べた。
「なっ」
それにはリュード本人も驚く。
謝られるなど、毛頭も思ってなかったのだろう。
「俺は今まで、お前たちの足を引っ張ってるだけだった。その癖功績だけは一丁前に掠め取って、最低以外の何物でもなかったと思う!! 本当にすまなかった!! 今までもらってた報酬金は全額必ず返す!!」
ただただ淡々と自分の非を謝罪する。
言い訳の余地はなく、俺の怠慢と自己嫌悪による愚かな行為について頭を下げる。
「……」
頭を下げたまま、返答を待つ。
周囲の者たちも気を遣っているのか、言葉を発することは無かった。
「倒してきたのか……あの化け物共を」
発されたリュードの声音は、冷淡で感情の機微を感じられるものでは無かった。
「……あぁ」
だがそんなことは関係ない。
俺は真摯に、事実を答える。
「……!!」
「っ」
答えたコンマ数秒後、リュードに胸倉を掴まれた。
胸倉を掴むその手は震えており、目は俺を真っすぐに睨んでいる。
「何でだ……!! そんな力があったのに……何でだよ!! わざと雑魚を演じて、俺たちのことを嘲笑いたかったのか!?」
違う……。
俺は内心で、即座に否定した。
魔剣の力を使えば暴走し、危害を加えてしまうから。
パーティーに寄生していたのはゼノと俺が生き永らえるため。
口で説明しようと思えばできる。
今までと違い、今回はキングゴブリンの群れと魔人を倒したという状況証拠がある。
だが、
「……あぁ」
俺は真実の言及を自ら拒んだ。
真実を隠し、リュードの怒りの拳を受け入れることが、俺のせめてもの償いだと思ったから。
「……!!!」
胸倉を掴み、プルプルと拳を震わせるリュード。
怒りは臨界点に達し、あと少し……何か契機があればそれが俺に降りかかる。
これでいい。俺には、これしかできない。
目を瞑る。ただ黙って、リュードの拳を受け入れるように。
しかし、いつまで経っても俺の顔面に想定した衝撃がくることはなかった。
「……?」
恐る恐る、目を開ける。
そこには……先ほどまでと同じ状態で拳を固く握りしめるリュードの姿があった。
「リュード……?」
思わず名前を呼ぶ。
その様子から、怒りが消えたわけでは無いことは分かった。
だが、だからこそ分からない。
――――何故俺に怒りをぶつけないのかが。
「……!!」
「っ!?」
最終的に彼は俺を殴らなかった。
掴んだ胸倉を勢いよく手放されたことでバランスを崩した俺は、思わず尻もちを搗きそうになったが、何とか二本の足でふらつきながらも何とかそれを免れる。
「何で、だよ……」
殴らない理由を、俺は問う。
その問いに、リュードは静かな怒りを言葉に乗せて言った。
「ここで殴っても……意味がねぇ」
「……え?」
「……てめぇが力を隠してたことは気に食わねぇ。力を持ってても何もせず俺たちのパーティーに引っ付いてたその性根も気に食わねぇ」
「だ、だったら……」
「だけど!! それと、お前が今回助けてくれたのは……別だ」
「は……?」
「だから今までのと、今回ので……チャラだ」
「ま、待てよ!! そんなんじゃあ全然釣り合わない!! 俺は今までお前に……いや、お前たちパーティーに……!!」
「それ以上言うな!!」
「っ!?」
「これ以上……俺を、惨めに……するな……」
惨め……? 何を言ってるんだ? お前が惨めなんて……そんな……。
――――あ。
そこで、俺は気付いた。
自分には才能があって、どこまでも上を目指せるという充足感……それが周囲の力を目の当たりにして挫折する。
追いかけられていたはずだったのに、気付いたらそいつの背中を見ている。
俺が、嫌というほど経験したことだ。
そうか……。
全てを悟り、口を噤む。
気にする必要は無いという言葉すら、今は雑音にしかならない。
それを俺は……よく知っている。
けど――――いいのか……それで。
噤んだ唇が微かに胎動するように動く。
今のリュードの気持ちが痛いほど理解できるからこそ、同じ思いをしてほしくない。
なら、俺のすべき行動は……。
「くっくくくくく!!」
決まっていた。
「あ……?」
笑い声をあげる俺に、リュードは訝し気な視線を送る。
「はは、はははははは!!」
「何、笑ってんだよ……お前」
「いやぁ……随分とバカな勘違いしてるなって思ってよぉ!!」
「何だと!? もう一回言ってみろ!!」
「だってそうだろ! てめぇの方が、俺の何歩も先に行ってる!! それなのに何負けみたいな雰囲気出してんだ!」
「っ!?」
俺の言葉に、リュードは目を見開いた。
そうだ……停滞していた俺と違い、リュードは常に前に前にと進んでいた。
冒険者の道を、俺よりも何歩も、何歩も先へと進んでいたのだ。
背中を見ているのは、俺だ。
だから……、
「追うのは俺だ!! そして俺は絶対、お前に追いつく!! だから、首洗って待っとけ!!」
指をさして、宣言する。
これが俺の選択。
精一杯の鼓舞であり、精一杯の俺の強がり。
「……」
リュードは唖然とする。
まぁ突然開き直るようにこんなこと言われればそうなる。
けど、俺は知っていた。
「……てめぇ……!! くそが……!! 舐めやがって!! いいか、俺はぜってぇてめぇより強くなる!! それまで、首洗って待っとけ!!」
リュードが、昔の俺のように……前に進む気概を持つ人間だということを。
「あぁ、待ってるぜ!!」
挑発するように笑みを作る俺。
パーティー発足当時のような関係には、もう戻れない。
修復しようのない溝。
だが、これでいい。
むしろこれは……今までよりも、良い関係とすら思えた。
互いに上を目指すライバルとして、これからは競い合えるのだから。
◇
言葉は軽くなってしまうが、これにて一件落着。
そう思った矢先、
「ところで、スパーダ」
「ん? どうしたシェイズ?」
シェイズが俺に話し掛ける。
「アレは……何だ?」
そう言ってシェイズが指さす方向を見るとそこには、
「おぉー! これが虫か! よく見たが触るのは初めてじゃ!! っておいこら逃げるな!! 何と不敬なやつじゃ!! 直々に触れてやっとるのじゃから寧ろ感激して儂に体を任せろ!!」
虫と戯れる幼女の姿があった。
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◇◇◇
小話:
実体化したゼノの身長は134cm前後です。




