第二十九話 ゼノ解放
「魔王幹部……!?」
「魔人って……!」
「ま、まさか……!」
リュードとミラン、レナは驚愕する。
「数百年前の魔王討伐で幹部もまた死んだと伝え聞いていたがな」
シェイズの言う通りだ。
そんなことは子供ですら知っている。
「はは。人類種は都合の悪い情報は改変するか、隠匿するかのどちらかですからね。仕方のないことです」
ルオードは苦笑し、頬を掻いた。
「まぁいいです。あなたが何を聞いていたかどうかなど……どうでもいい。重要なのは、これから。そのために私はあなた方をここにおびき寄せたのですから」
「おびき……寄せた……?」
「おかしいとは思いませんでしたか? 一年前から起こっていたゴブリンによる人攫いはこの巣までの痕跡を一切残さなかった。ですが突如として、あなた方がこの場所を突き止められたという事実に」
俺は調査班の尽力が実ったと考えていた。
だからその尻尾を掴めたのだと思っていた。
「……尻尾を掴めたのではなく、尻尾を掴まされた……ということか」
同じ結論に達したシェイズはルオードに対し目を細める。
「その通り。痕跡を残させたのはあえてこの場所を特定させるため……そしてあなた方冒険者をここへ来させるためです」
「おい!! てめぇの目的はなんだ!! ゴブリンに村を襲わせて、俺たちをここにおびき寄せて、何がしてぇんだ!!」
ドミノは怒号を上げ、ルオードを指さす。
「さっき言いましたよ? 私の目的は魔王様の復活。人間を攫ったのも、こうしてあなた方をここに呼んだのも……全てそのための過程に過ぎません」
「何ィ……?」
「さ、御託はもう良いでしょう」
「待て……」
「ん、何でしょう?」
俺の制止の言葉に、ルオードは首を傾げた。
「攫った人たちは……どうした……?」
最も重要な質問。
その問いに、奴は笑顔でこう言った。
「あぁ、全員死にましたよ。ですが安心して下さい。彼ら彼女らは、崇高な使命の柱となってくれたのです。むしろ誇るべきことです。勿論、これから死にゆくあなた方も……胸を張って逝くと良い」
「……」
瞬間、俺の中で堪えていた感情が火を噴くように全身に蔓延した。
「これだけのキングゴブリン……Sランクモンスターがいれば、いくらあなた方が最高ランクの冒険者だとしても死は免れないでしょう。さぁ、その命……魔王様のために捧げるのです」
「おいやばいぞ……!! これだけのSランクモンスター、どう考えても手に負えない!!」
「そうよ!! 早く逃げないと……!!」
リュードとミランは取り乱し、シェイズたちを見る。
「確かに、こりゃどう考えてもまずいぜシェイズ。こいつらの言う通り早く脱出した方がいい」
「分かっている。だが、これだけの数のキングゴブリンを相手に逃げ切ることが出来るかどうか……それに、魔王の幹部と称しているあの男……間違いなく、強い」
「大量のキングゴブリンに魔王幹部と名乗る男……私たちが頑張れば、何とかなる……相打ちだろうけど」
「それで脱出できる確率はどれくらいだ。エル」
「Sランク冒険者が死ぬこと確定で足止めするのを前提として……ここから脱出成功する人がいるかどうかは……五分五分」
シェイズとドミノ、エルが事態の危機に顔を歪める。
現状最も現実的で可能性のある選択肢はシェイズたちSランク冒険者が命を懸けてキングゴブリンたちを足止め。俺とリュード、ミラン、レナ内誰かが洞窟を脱出することだ。
それ以外の選択肢は……無い。
「……」
だがそれは……本来ならばだ。
『はっ、魔王の幹部とは大きく出たのう。どうやら儂に殺されたいらしい!』
相棒の準備は万全。
俺が覚悟を決めれば、全ては変わる。
そして覚悟は……決まっていた。
何の罪も無い人を殺された怒りが、リンゼたちを守らなければという思いが……俺に決意をさせた。
「スーちゃん……?」
一歩前に出た俺に、リンゼは不安そうな声を漏らす。
軽く息を吐き、俺は言った。
「……選択肢はもう一つある」
「は、はぁ!? 何言ってんだてめぇ!?」
リュードはまくし立てるように唾を吐く。
「シェイズ、皆を連れてここから脱出してくれ……時間は、俺が稼ぐ」
『っ!?』
俺の言葉に、その場の全員が目を見開いた。
「ふ、ふざけんなよスパーダ!! 何言ってやがる!! 【無能】のてめぇに何が出来んだ!!」
「そうよ!! ここはSランク冒険者でしか対処できないわ!!」
「スパーダさんじゃどう考えても無理です!」
流石俺の元パーティーメンバー、当然の反応だ。
信頼とは積み重ねの上にある。
何も積み上げていない俺の言葉に従えというのは、酷というものだ。
分かっている。
どれだけ言葉を吐こうが、奴らにとってそれは紙切れ程度の価値も持たないことは。
だから、こうするしかない。
「頼むぞ。ゼノ」
『はぁ、仕方がないのう……」
ゼノが面倒くさそうに言った瞬間、
『っ!?』
俺の体から発されたオーラに全員が目を見開く。
オーラ、別名魔力圧。
体内の魔力を体外へ放出した際に起こる放出魔法というよりかは現象と呼ぶに相応しい事象。
魔力の強さを如実に表すそれはその者の強さを示す一つの指針である。
「な、何だよ……それ……」
「あ、あり得ないわ……! こ、こんな……!!」
「そ、そうです!! スパーダさんに、魔力は無いはず……!!」
俺の身体から発されたオーラに、リュードたちは口々に驚愕の声を出す。
論より証拠……こうすれば、嫌でも信じざるを得ない。
「……分かったか……?」
「「「……」」」
俺の問いに、リュードたちは押し黙る。
肯定と受け取った俺は次いで、シェイズたちを見る。
「……魔力が無いにも関わらず、リンゼとの決闘を制した……なにかあるとは思っていたが、まさかこんな力を隠し持っているとはな」
「……へっ、面白れぇじゃねぇか!!」
「それなら、何とかなるかもしれない」
こちらも肯定と受け取って良いようだ。
ただ、あまりにも呆気ない肯定と承諾……微かな違和感を抱くが、それは俺の視界に映る光景に掻き消された。
「……」
リンゼが無言なのである。
正直……一番俺のこの選択を止めるだろうと警戒していたのだが……杞憂だったか……?
まぁ……アイツの真意を追及している暇はない。
時は一刻を争う。
「いいかお前ら。俺が合図したら……出口に向かって真っすぐ走れ」
俺の言葉に誰も返事をしなかったが、その無言が了承の意であることは即座に理解した。
シェイズたちは渋々の承諾……だがそれでも構わない。
「スパーダ。最後に、一つだけ言っておく」
合図をしようとした直後、シェイズが言う。
「何だ……?」
「絶対に生き残れ。これは【竜牙の息吹】リーダーとしての命令だ」
「……了解……」
正直五分五分だけどな……。
裏腹な思いを抱えながら、俺は答えた。
◇
「走れ!!」
俺が合図した瞬間、シェイズたちは一斉に後方へと走り出した。
「はは、逃がしませんよ。いって下さい」
『グォォォォォォォォォォォォ!!!!』
ルオードの声に反応し、全てのキングゴブリンが雄たけびを上げ、走り出した。
絶対に、行かせるか……!!
向かってくるキングゴブリンを睨み付け俺は背中の剣に手を掛けた。
「ゼノ……!!」
『ははははは! 待っておったぞスパーダ!! 魔王の幹部などとほざいているあの魔人に天誅を食らわせ
てやる!!』
背中の剣を鞘から抜く。
そしてその最中……思い出した。
……自分のこれまでのくだらない軌跡を。
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◇◇◇
小話:
【竜牙の息吹】ではまだ無理ですが、この戦況をどうにかできるレベルの戦闘力を持つSランクパーティーは存在します。




