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幕間 魔王様の誕生日 後

「本日はパーティーに来てくれて感謝するわ」


 エリーザが壇上に立ち、司会として挨拶をしている。


「さぁ、それじゃあ本日の主役の登場よ。皆拍手で迎えなさい」

 

 ――パチパチパチパチパチ。


 っし、行くか……。


 拍手の音にいざなわれるように、俺は舞台袖から壇上へと歩き出した。

 そしてエリーザからマイクを受け取り、客席に目をやる。


 そこに広がるのはものすごい数の人だ。

 エリーザが言うには、招待状は俺が知り合った人と、その知り合いに送ったらしい。

 それを表すかのように、客席には見知った顔が多くいた。


 王都に来る前、俺が活動拠点にしていた町の酒場で店主をしていたラド。

 リンゼと決闘をしたあとに俺を治療してくれた医者のジョンリィ。

 鍛冶屋のクルシュ。

 ギルド局員のヴァルス。

 シュラインガー魔法学園で研鑽を重ねているフライト、カレン、サラーサ。それに加え療養が終了したイゾル学園長。

 Sランク冒険者の夫婦であるグラコスとラエル。

『大オークション』の一件でエリーザに雇われたユナ。

【竜牙の息吹】のシェイズ、ドミノ、エル、ウーリャ。

 そしてそれぞれの知人たち。


 ――更には、


「ははははは!! おめっとさぁん!!」

「行儀が悪いですよライガ」


【慟哭の宴】のメンバーであるライガとユメラまでもが一堂にこの場に介していた。

 彼らが【慟哭の宴】だと知らない者たちは、珍妙なものを見る目で彼らを見ている。


「えぇ……と」


 言葉に詰まる。

 別にありきたりなことを言えばいいはずだが、俺に向けられる大量の視線が、俺を襲った。


「おいアイツがスパーダか?」

「らしいな。噂じゃ最近【竜牙の息吹】に入って、その頭角を現し始めてるらしい」


 客席にいる見ず知らずの冒険者からそんな声が聞こえる。


「にしてもなんでこんなパーティー開かれてんだ? いくらなんでも大袈裟すぎるだろ。エリーザ様は何を考えてるんだ」

「あぁ、タダで高級料理が食えるってヴァルスちゃんが言うから来てはみたがな」


 どうやら大量にいる俺の知らない冒険者たちはヴァルスの誘いによって連れてこられたらしい。


 ……安心しろお前ら。俺が一番このパーティーの存在意義が理解できてないからな。


 考えるのもバカらしい。

 観念するように、俺はゆっくりと口を開く。


「えー、皆さん。今日は俺なんかの誕生日パーティーに来てくれてありがとうございます。正直、この状況に一番戸惑ってるのは俺ですし、さっきまで逃亡したい衝動に駆られてたのも事実です」


 本心を全く偽ることなく曝け出した俺のスピーチ。

 客席から、笑い声が漏れた。


「でもまぁ、そこのエリーザ様の計らいでタダ飯が食えて、タダ酒か飲める。しかも全部最高級ときた。だから……楽しもうぜ!! 俺も全力で楽しむからよぉ!!」


 最早ヤケクソ。自身で空回るような感覚に陥りながらも、俺はマイクを持った腕を高く掲げた。


『……』


 が、いきなり俺のテンションが上がったのについていけなかったのだろう。

 沈黙が、会場に走る。


 ――しかしそれは、一瞬の出来事だった。


「おぉ!!!」


 そんな野太い声が、静寂を破壊する。

 声の主はシェイズ、変わらぬいかつい顔で、彼は俺と同じように腕を掲げていた。

 

 俺は少し、面食らう。

 最初に言葉を発するのは、リンゼだと思っていたからだ。


「カッコいいよぉスーちゃん!!」

「いいぞぉスパーダァ!!」

「流石、今日の主役」

「う、ぉぉぉぉぉぉ……! うぅ、は、恥ずかしいでぅ……」


 気付けば、【竜牙の息吹】の全員が……シェイズに乗るように、声を上げる。

 そして、それは伝播した。


 俺の友人が、知り合いが、声を上げる。

 それに釣られるように、俺のことを知らない奴らも、テンションに任せた叫びを上げた。

 こうして会場のボルテージは上昇し、無事に俺の誕生日パーティーが開かれたのだ。



 パーティーは、飲めや歌えのドンチャン騒ぎ。

 更にエリーザが用意していた劇団や楽団によるパフォーマンスによって大いに盛り上がった。

 サイカさんが料理長を務めた料理の数々も、美味しかった。

 王都に戻って来てから会えていなかったフライトたちと、久しぶりにこうして会えて、楽しく過ごせた。

 ラドとも久しぶりにさかずきを交わせて、嬉しかった。


「ふぅ……」


 少し外の空気を吸ってくると言った俺は、テラスに足を運んでいた。

 中ではまだ、参加者たちの笑い声が絶えなかった。


「ガハハハハハハ!」


 そんな時、俺の背後から慣れ親しんだ笑い声がした。


「よぉゼノ。どうした?」

「どうしたもこうしたもない! パーティーのもう一人の主役であるお前がいなくなっとったから、この儂が飯を切り上げて探しに来てやったのじゃ! ありがたく思うが良い!」

「……そうか」


 ゼノの返答に、俺はテラスの柵に肘を付き、再び外を見る。


 そして思い出した。停滞していた頃を。

 たった数か月前のことだが、もう遠く昔のことのように感じてしまう。

 思い返すだけで、懐かしさが込み上げる。


 自分の無力さと、借り物の力に対する劣等感にやさぐれていただけの俺が、ここまで来れた。

 全部、大切な仲間との出会いのおかげだ。


 ――俺は、恵まれてる。


「なーに変な顔しとるんじゃ」


 すると、いつの間に柵の上に立っていたゼノに顔を覗き込まれていた。


「うるせぇ。色々あんだよ」

「ほーん。まぁどうでも良い! さっさと戻るぞ! 儂ら主役がおらんとパーティーが盛り上がらんからな!」


 いや、もう十分に盛り上がっていると思うが……。


 最早誕生日パーティーは完全な宴会状態。エリーザやリンゼの言っていた『盛大に祝う』が明後日の方向に力を働かせてしまっている。

 それにそもそも……。


「今日の主役は一応俺だ。お前じゃないだろ」

「? 何を言っとるんじゃお前は?」

「お前な……」


 開会前にも思ったが、やっぱりコイツの思考はどうかしてる。

 そう思う俺だが、


「今日はとお前の誕生日パーティーじゃろ!」

「……ゼノ、お前……自分の誕生日思い出したのか?」

「いんや。けど儂はお前のパートナー! ならば誕生日も一緒じゃろうて!!」

「……」

 

 全くコイツは……。


「はは……ははははは!」


 気付けば俺は、腹の底から笑っていた。


「おぉ! よーやくちゃんと笑ったな!」

「お前といると色々考えるのがバカみてぇに感じるよ」


 笑い涙を指で拭う。


「っし、じゃあさっさと戻ろうぜ。会場のメシ全部俺たちで食い尽くすぞ相棒!」

「おう!!」


 そうして、俺たちは会場に向けて走り出した。


 ――今はただ、この時間を楽しもう。


 俺は心の底から、そう思った。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

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◇◇◇

小話:

リュードたちはパーティーはエリーザが招待状を送っても来ませんでした。


これにて番外編終了!

第三章についての活動報告を書きますので気が向きましたら読んでくださると嬉しいです!


また、次回から第四章です!!

短編や公募作品を執筆することもあり開始が一ヶ月ほど先になってしまうと思いますが、それまで待っていてくださると嬉しいです!

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