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幕間 魔王様の誕生日 前

番外編です!

時系列は第三章から約二ヶ月後です!

「ふんふんふ~ん♪」

「どうした? なんか機嫌良さそうだな」


 いつもの朝、同じ食卓で朝飯を食べているリンゼが今日はいつにもまして上機嫌に見えた。


「えっへへ~! 当たり前だよスーちゃん! だって今週末は……!!」

「今週末は……?」

「スーちゃんのぉ……!!」

「スーちゃんのぉ……?」

 

 無駄に溜めるリンゼに、寝起きで頭が回っていない俺は付き合いながら、次の言葉を待つ。

 そうしてリンゼから放たれたのは……。


「たーんじょうびぃ!!」

「……」

「あれ? スーちゃん反応薄いよ?」

「いや、薄いって言われてもな……」


 今まで意識したことも無いモノにどう反応すればいいのか分からなかった俺は、ポカンと口を開けることしかできなかった。

 

「つーか誕生日なんて俺すら忘れてたのによく覚えてるな」

「えへへ! スーちゃんのことなら身長から体重、スリーサイズまで何でも分かるよ!」

「得意げに言うな。鳥肌立ったぞ」


 何故か駄々洩れしている個人情報に俺は軽く恐怖する。


「とにかく!! 今までの分まとめて盛大にお祝いしちゃうから!! 楽しみにしててねスーちゃん!!」

「あ、あぁ……」


 ビシッと指を差すリンゼ、有無を言わさぬ圧に俺はコクリと頷くことしかできなかった。

 ――その時だった。


「なぁ、なんじゃその『たんじょうび』って」


 俺の相棒が、そんなことを言ったのは。


「誕生日とは、その人が生まれた日のことですゼノ様」


 サイカさんが空になっていた俺のカップにお茶を注ぎながら、ゼノに説明をする。



「ほぉん。生まれた日か。そんなものを祝うなど理解できんな。あむ」


 そう言って、ゼノは巨大な骨付き肉にかぶりつく。


 まぁ正直言って、俺もゼノに同意だ。

 誕生日を祝うなんてのは階級の高い貴族や王族がやるものであって、平民の俺たちとは無縁と言っていい。


 が、それはそれとして俺は一つ気になった。


「そういや、ゼノって自分の誕生日とか分かるのか?」

「ガハハハハハ!! ンなもの分かるワケないじゃろ!! 儂を何歳だと思うとる?」

「ま、だよな」

「全く、人間とはくだらんことに執着するものじゃのう!! 愚かじゃ愚かじゃ!!」


 数百歳で、しかし記憶喪失。

 更に豪胆なゼノのことだ。誕生日などどうでもいいのだろう。

 こういう所は、コイツの魔王っぷりがうかがえる。


「愚かじゃないよ!!」

 

 そんなゼノに、リンゼは食って掛かった。


「うるさいのうリンゼ。儂は事実を言ったまでじゃぞ」

「事実じゃない!! スーちゃんが生まれた日は私にとって最高に大切な日だし、それを祝うことも同じくらい最高なことなの!!」

「あぁん? くだらんなぁ!! スパーダは儂にとってのパートナー!! その事実のみが至上にして至高!! 他は些細なことじゃ!!」

「あーいいよいいよ!! ならゼノはスーちゃん祝ったらダメだからね!! 誕生日パーティーにも来ちゃダメだから!!」

「あー構わん構わん!! 儂とスパーダは祝わずともかったーい想いと絆で繋がっとるんじゃ!! 今更そんなもんいらんわい!! 大体祝うって何するんじゃ阿呆あほか!!」

「そんなのプレゼントあげたり美味しい料理をいっぱい食べてもらったりするんだよ!!」

「……」


 瞬間、ゼノは無言になった。


「ほ、ほーん。ぷ、ぷれぜんと……に、料理かぁ……」


 明らかに一秒前と比べ様子が変わったゼノ。

 彼女はどこか気まずそうに俺を見た。


 ……いや、見られても知らねぇぞ俺は。


 そんな意思を込め、ゼノにアイコンタクトを送る。


「こ、こほん……! ま、まぁなんじゃ。誕生日に人を祝うというのも……うん、まぁ風情があっていいものじゃよな!!」


 いや、無理があるぞ相棒……。


 俺はジト目を向けた。


「ふーんだ!! 無理してそんなこと言わなくていいよ!! 愚かな私たちのパーティーなんて魔王様は興味ないんでしょ?」


 リンゼはそう言い返す。

 正直、先程まであれだけ大口を叩いていたゼノにこれはかなり効くだろう。

 下手したら泣いてしまうかもしれない。


 何度も見ているゼノの拗ねる姿と涙を、俺は思い出す。


 しかし、そんな俺の思いとは裏腹にゼノは……。


「は? 言ってないが?」


 ごり押しした。


「いやいやいや!! 言ったじゃんゼノさっき!! 愚かだって!! くだらないって!!」

「言っとらん!! 断じて言っとらんぞ儂はぁ!!」

「嘘吐き!!」

「はぁ!? 貴様この儂を愚弄するか!! タダでは済まさんぞぉ!!」

「「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!!」」


 ゼノとリンゼは互いに顔を近づけ、睨み合う。


「おいおい落ち着けって二人共」


 いつものように険悪な雰囲気になってきたのを感じた俺は、二人の間に入る。


「ゼノ、今のはお前が悪いぞ」

「なぁ……!?」


 とりあえず、まずは確定していることをはっきりと告げた。


「さ、謝るぞ」

「い、イヤじゃイヤじゃ!!」

「わがまま言うな。俺も一緒に謝ってやるから」

「むぅぅぅぅぅぅ……」


 俺の言葉に観念したのか、ゼノは俺に従う意思を見せる。

 そうして俺たちは二人揃って頭を下げた。


「悪いリンゼ」

「ぐぅぅぬぬぬぬぬぬぬぬ……!!」

「ほら、ゼノ」

「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!!」


 俺が促すと、ゼノは唸り……。


「す、すぅ……まぁなかったぁぁぁぁ……!!」


 謝罪の言葉を述べた。


 少し前と比べれば、ゼノがこうして謝罪するなど考えられない。そう考えるとすさまじい進歩である。


「ゼノも悪気があったワケじゃない。コイツは素でこういう奴なんだ」

「いや、うん。それはもう十分分かってるけど……」


 どこか力が抜けたように、リンゼは答える。

 やはりゼノが謝罪する姿が響いたのだろう。


「それよりも、ゼノが……」

「え?」


 言われ、俺は首を横に向ける。

 

 ポタポタ……。


 そこには、唇を噛み締めながら血の涙を流す相棒がいた。


「ゼノォォォォォォォォォォ!!??」

「うが……ぁ」


 力なく倒れたゼノを抱き起こすと、ゼノは虚ろな目で俺を見る。


「わ、儂は……もう、ダメじゃ……」

「何を……、何を言ってんだよお前は!! 俺たち、まだこれからじゃねぇか……!! 一緒に、最高の冒険者になるんだろ……!?」

「す、すまん……。それは、一人で……叶えてくれ……。大丈夫じゃ、お前なら、できる……ぶくぶくぶくぶく」


 そう言い残し、ゼノは泡を拭いて、ゆっくりと目を瞑った。


「ゼノ……ゼノォォォォォォォォォ!!」


 俺の叫びが、家中に響く。


「くっ、ゼノ様……なんとおいたわしい……」


 サイカさんまでもが、口を押さえ悲しんだ。


 そして、リビングのドアが開く。


「何馬鹿なことをしているのかしら?」


 そう言って入ってきたのは、エリーザだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

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◇◇◇

小話:

ゼノの好きな肉TOP3

第一位 超大きな肉

第二位 大きな肉

第三位 肉

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