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第七十話 その後 中

『大オークション』の騒動が終わり、早一週間が経過。

 俺は未だに病院内にいた。

 ……というのにも理由がある。


 騒動が収束したことで、『ブルーノ』内の騎士たちからの事情徴収などがあり、『ブルーノ』から出ることができない。

 加えて俺もまだ入院していた方がいいとエリーザから強く要望され、こうしてホテルではなく病院に滞在を続けているというわけである。


「ふぁ……」


 病院内の庭にあるベンチで、俺は呑気に欠伸あくびをした。

 晴れた空、暖かかい気温。

 あの騒動によって殺伐とした雰囲気が『ブルーノ』内に漂っているが、気候は空気を読まないらしい。


「おー待てお前!! 儂から逃げるとはいい度胸じゃのう!!」


 庭の花壇では、ゼノが大声を上げながら蝶を追いかけていた。

 さながら外で遊ぶ娘を見てる気分だ。


「よ」

「ん、おぉ」


 すると、病衣に身を包んだドミノがこちらに向かって歩いてくる。

 そして彼は俺と同じく、ベンチに座った。


「「……」」


 そうして、静寂が流れる。

 何を話せばいいのか、分からない。お互い、距離を決めかねているのが分かる。


「……腕、どうだ?」


 先に切り出したのは、俺だった。


「おぉ、変な感じだぜ。今までついてたモンが無くなったからな。慣れるにはまだ、時間が掛かる」

「……そうか」


 俺の言葉は、そこで止まった。

 病院で俺が目覚めたのが四日前、この四日間リンゼやシェイズたち【竜牙の息吹】の面々と顔を合わせることは多くあったが、こうしてドミノと二人きりで話すのは、初めてのことだった。

 そして言葉が出ない理由はもう一つ、グラコスさんとラエルさんとのやり取りで、積極的に話し掛けられなかったというのもある。


「……なぁ、スパーダ」

「ん、何だ?」


 空を見上げ、意を決したように、ドミノは口を開いた。


「お前、【竜牙の息吹】への加入、保留してたよな?」

「あ、あぁ」


 急にどうした? そう言おうとした俺は、


「加入、してくれないか? 【竜牙の息吹】に」


 ポカンと、口を開けた。


「い、いや……待てよ。急に、どうした」


 先ほどは音に乗せられなかった言葉を、俺は今度こそ音に乗せる。


「安心しろ。冒険者を引退するワケじゃねぇ。シェイズが許す限り、俺は【竜牙の息吹】のメンバーであり続ける。だが実際問題、今の俺はこんなだ。隻腕での戦い方の模索や慣れには時間が掛かる。一時的に戦力が低下するのは避けられねぇ。だから、お前が入ってくれたら……心強い」

「……」


 ドミノは、どこまでも【竜牙の息吹】のことを考えていた。

 いつもは少し軽薄そうな奴という印象だったが、ここまでしんがあるとは、予想外だった。


「シェイズには既に話は通してある。オーケーだってよ」

「……」


 俺は、これまでと……そしてこれからのことを考える。


 ゼノと魔剣、そしてそれらを狙う魔王幹部たち。

 今回はたまたま運が良くて勝てたが、次は分からない。

 ……いや、負ける可能性の方が高いだろう。

 戦いは更に激化していくはずだ。

 

 なら俺は、早く強くなる必要がある。

 ゼノの魔力と魔剣の力を使いこなし、自分のモノとして扱えるようにしなければならない。

 

 ――そのために必要なのは、経験と場数。


 そこまで思考し、俺の答えは決まった。


「……分かった。俺、入るよ。【竜牙の息吹】に」


 こうして俺は、【竜牙の息吹】に正式に加入したのだった。



「あははー、捕まる側と捕まえる側が逆になっちゃったねー」

「……」


 場所は『ブルーノ』内にある警備隊である騎士の詰所、その地下にある拘置所。

 ここは文字通り、警備隊が捕らえた者を管理するための部屋である。


 地下という立地、特別製の牢によって脱出は困難。加えて拘置所の出入り口は警備員の騎士によって塞がれている。

 そんな場所で今、捕らえられたフィオネは拘束具で肉体を完全に拘束され、身動きひとつ取れない状況にある。

 

 フィオネは虚ろな目で、虚空を見つめる。

 できるだけ力を取り戻さないように最低限の栄養しか与えていないのが原因だ。

 だがもう一つ、ここにはイルミなりの意図があった。


「ごめんねぇ。でもそれくらい弱っててくれないとあなた舌噛み千切って自殺しそうだからさー」


 これがイルミの意図。

 フィオネの自殺を防止するためである。

 

「……」

 

 かなり弱っているのか、フィオネはイルミの言葉に対し返事をする素振りを見せない。

 そんな彼女を見ながら、イルミはしゃがんだ。


「あ、そういえば私お礼を言うの忘れてたわ! 私、捕まるのって初めてだったからとても新鮮だったの! ありがと!」

「……」


 異常なイルミの感謝の言葉にも、フィオネは一切の反応を見せない。

 ――ただ、


「……団長、団長……団、長……」


 ポツリ、ポツリと、壊れた人形のようにフィオネはそう唱え続ける。

 イタンシンの遺体を見せ、彼が死んだことを理解した彼女はずっとこの調子だ。

 自身が崇拝し、心酔し、敬愛する者への執着だけが、不甲斐なさと悲しみに圧し潰されていた彼女を、辛うじてつなぎ留めていた。


「うーん、これじゃあそこまで弱らせる必要なかったかなー?」


 イルミはポリポリと頬を掻く。


「この子はこの後どうなる予定?」

「はっ。『ザカール監獄』に収容されます!」

「あー、あそこか。まぁ【ノーネーム】のメンバーだし、強いし、そりゃそうだよねぇ」


『ザカール監獄』、辺境にある危険な犯罪者のみが収容される施設。ある意味世界一危険な場所と言われている。だが今のフィオネが収容されれば、即座に死亡するのは目に見えていた。


「ねぇこの子、私にくれない?」

「えっ!? な、何を言っているんですかイルミ様!?」


 あまりにも唐突な発言をするイルミに、騎士は戸惑いを見せた。


「別にいいでょー? このまま死ぬんじゃ勿体ないもん!」


 何を考えているのか、まるで新しいおもちゃをねだるようにイルミはねだる。


「だ、ダメです!! これは既に決定事項で……!!」

「そんなの私が口を挟めばちょちょいのちょいだよ」

「で、ですが……!?」


 そこまで言って、騎士は押し黙る。

 何故なら、イルミが非常に不服そうな目をしていたからだ。

 ただ不服そうな目をしているだけならまだいい。イルミ自身、その一面はよく見せる。

 だが今のイルミは、不服さの中に何処か不気味で奇怪な感情が、その目に宿っていた。


 それを見た騎士は自覚する。自分がしているのは、【三大貴族】である彼女にたてつく行為であると。

 ならばどうするか。騎士はコンマ数秒の思考の末、


「……わ、分かりました」


 そう言ったのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

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◇◇◇

小話:

イルミは昔、婚約関係にあり仲も良好であった貴族の男女に目をつけ、男を自分に惚れさせ婚約破棄をさせました。

理由は面白そうだったからです。

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