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第六十七話 『大オークション』三日目 その31

vsイタンシン戦決着!!

 ――二十分後。


「はぁ……ぁ……ぁぁ……」


 綺麗な夜の星空に照らされながら、スパーダの息遣いだけが、そこに響く。


「……ゼノ、アイツの命……後、いくつだ……?」

『はぁ……はぁ!! 次ぃ、最後じゃ!!』


 イタンシンが体内に保有できる命の個数はの合計は九百九十九個。

 スパーダは数秒の内に何度もイタンシンを殺し、イタンシン自身も同時に五十個の命を消費して自身の強化を延長させ、残ったイタンシンの命は……彼自身の命のみとなった。


「ぐぅ……!!」


 ならばスパーダが有利、優勢かと思えば……そうでもない。

 

 この二十分の戦闘で、三本目の魔剣を手に入れたことで上昇したゼノの魔力はほぼ底を尽いた。

 加えて無茶な戦いを続けたツケを払うかのように、今のスパーダは回復能力が低下し、疲弊によって身体能力も十全に発揮することができていない。


 もし次に死ぬような一撃を食らえば、仮に死ななくとも、スパーダとゼノは間違いなくしばらく目覚めない。

 そうなればイタンシンに死体を回収され終了である。


 つまり、両者は辛うじて、ギリギリの所で踏みとどまっている状態。

 どちらが先に落ちるか、正にデッドヒートのチキンレースである。


 次……次奴を殺せば……俺の勝ち!! けど、マズいな……!!


 スパーダは現状自身が不利なことを理解していた。

 消耗しきっている自分と違い、イタンシンは生き返る際に体力や消費魔力が元に戻る。

 いくらイタンシンが残り一つの命とは言え、万全の彼と比べれば、スパーダは間違いなく劣勢と言えた。


「どうした? 来ないのか?」

「あぁ?」


 余裕を見せ、煽るイタンシン。

 スパーダは忌々しそうにそれを見る。


 クソ……あの野郎、分かっちゃいたが自分の命を張ってるってことにビビらねぇか。

 ちょっとは動揺して戦いやすくなるかと思ったのによぉ……!!

 何か、何かないか!! 突破口……!!

 

 頭を回転し、思考を巡らせるスパーダ。

 

 まともにやり合ってる場合じゃねぇ! 意表を突かねぇと……!!

 だがどんだけ甘く見積もろうが、今の俺に意表を突けるような攻撃ができるとは到底思えねぇ!!


 思考は停滞しそうになっていることで、スパーダは焦燥感に駆られる。

 だがそんな焦りとは裏腹に、綺麗な水面が彼の脳に広がり続けた。


 ダメだ、ダメだダメだダメだ……!! 止まるな、考え続けろ……!! 今の俺でも意表を突ける方法……!! じゃないと終わるぞ……!!

 

 圧倒的な逆境に、スパーダは攻め立てられる。

 だが、


 ぜってぇ、諦めねぇ……!! 勝つのは、生きんのは俺たちだ……!!


 彼の意思の炎は消えない。それどころか、より一層盛んに燃える。

 そして、 


 ……俺?


 静寂漂う、綺麗な水面に、一滴の雫が落ちた。

 月並みな言葉で言うならば、『勝利の女神は、諦めない者に微笑む』、といったところだろうか。


「っ!!」


 ……これなら、いけるかもしれねぇ……!!


 突発的な閃きに活路を見出すスパーダ。

 

 俺が奴の攻撃を凌ぐのが大前提の一か八かの危険な賭けだが、やらない手はねぇ。


 やらなきゃただ終わる。だったらやる。

 それだけの、簡単な話だ……!!


「ゼノ」

『何じゃ?』


 思い至ったスパーダは、即座に自身の相棒に声を掛ける。


「……っ」


 だがその時、彼を一抹の疑念と不安が襲った。

 

 ……待て。

 アイツは目で動きを捉え、俺の両腕をむしり取った。つまり、視力も強化されているってことだ。

 もし同じように聴力も強化されているなら、俺が話すことを聞かれる可能性がある。

 ……言えねぇ。

 聞かれたら警戒される、身構えられる、意表が突けなくなる。


『おいどうしたスパーダ?』


 ゴクリと唾を飲み込むスパーダに、ゼノは問い掛ける。


「……」


 今スパーダがすべきことは、イタンシンに話が聞かれることを想定した上で、できるだけ簡潔かつ遠回しにゼノに策の内容を伝えることだ。

 しかし敵であるイタンシンの方がいつ仕掛けてきてもおかしくないこの状況で、簡潔かつ遠回しな言い回しを考える時間など当然存在しない。


「……」


 スパーダの動悸が加速する。

 そうして、彼は絞り出した。

 

 ――それは、たった一言。


「行こうぜ、相棒」


 簡潔さのみが存在し、何一つ情報の無い、一言だった。

 

『……』


 対するゼノは無言。


「じゃあ……ラストだ」


 スパーダは地面を蹴る。

 消耗していても黒い手はまだ多少使える。にも関わらず、彼はイタンシンへと接近することを選んだ。


「自ら向かってくるか。いいだろう、引導を渡してやる!!」

「っ!!」


 接近戦、魔剣という刃物で攻撃を図るスパーダの方がリーチに分がある。

 イタンシンの射程外から、スパーダは攻撃することが可能。だが、


「はっ!!」


 全快状態であるイタンシンに、攻撃射程のアドバンテージなど、無意味。

 彼は一瞬にして間合いを詰め、スパーダを射程圏内に捉える。

 懐に入られれば、剣士は満足に剣を振るうことができず、一方的にやられてしまう。形勢はイタンシンに傾いた。


「ふん!!」


 がら空きとなっているスパーダの胸部、イタンシンはそこに拳を叩き込む。


「【魔王ノ手(デーモン・ハンド)】!!」


 スパーダは五本の黒い手で、攻撃を受け止める。


「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ……!!!」


 ピシィ……ボキィ!! グシャアァ!!


 自身の骨が割れ、折れ、内臓が破損する音を、スパーダは耳にする。

 消耗は魔力や回復能力だけでは無く、【魔王ノ手】の強度にも影響を及ぼしており、【魔王ノ手】はイタンシンの攻撃を完全に防ぐことはできなかった。


「がぁぁぁぁ!!!」


 血反吐を出しながら叫ぶスパーダ。

 彼は【魔王ノ手】ではない、自身本来の腕を振りかざし、二本の魔剣でイタンシンに斬り掛かる。


「捨て身の一撃、いや二撃というわけか。無駄な足掻きを……!! 同じことの繰り返しだと分からないのか!!」


 スパーダの攻撃は、イタンシンの腕で受け止められてしまった。

 

「ぐぅ……!! ま、だぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 それでも、スパーダは叫ぶ。

 形を維持するのがやっとの【魔王ノ手】で、矢継ぎ早にイタンシンに殴り掛かる。


 考える隙を与えるな…‥!! 俺がヤケクソになってると思い込ませろ!! 


「その拳の威力も低下している。防御するまでもない」


 イタンシンはただその場に立ち、スパーダの攻撃を受け入れた。


「っ……はぁ、はぁ……」


 遂に限界がきたのか、スパーダはその場に膝をつく。


「もう体力も残っていないようだな」


 ゼノエリュシオンの地面に突き立て、立ち上がろうとするスパーダを見て、イタンシンはそう言葉にする。


「まだ、だぜ……!!」


 ドンッ!!


 その時だった。

 スパーダは地面についた【魔王ノ手】を伸ばし、その反動を利用してイタンシンに向け加速。

 敵に魔剣を突き刺そうとする。

 しかし、


「驚いたな。多少ながら意表を突かれたぞ」


 それは失敗に終わる。

 攻撃を避けたイタンシンは、カウンターを浴びせるようにスパーダの胸に腕を突き刺した。

 

「っごほぉ……!? がはぁ……!!」

「心臓を狙ったつもりだが、寸前で体を捻り、右肺を俺に突かせたか」


 スパーダの体から、血という血が溢れ続ける。


「黒い手を足代わりにしたこと、伸縮を利用し加速したこと……膝をつくまで体力を消費したのは俺の油断を誘うためか。咄嗟に思いついた作戦としては悪くない。だが……これで終わりだ!!」


 イタンシンは自身のもう片方の腕を上げ、スパーダの心臓に狙いを定める。

 全てが決し、イタンシンは勝者が自身だと確信していた。


 ――彼は、油断していた。


「今だ……!!」

「っ!?」


 血を吐きながら声を絞り出すスパーダ。


 イタンシンは目を見開く。

 それは完全に理外の外、想定外、イタンシンが無意識に排除していた可能性。


「いけ、ゼノ!!」

「任せろ!!」


 ――ゼノの実体化。


 それが、スパーダの策だった。


 スパーダが持っていた魔剣ゼノディーヴァから勢いよく飛び出すゼノ。

 当然、現れた彼女とイタンシンとの距離はゼロである。

 油断していたイタンシンは、


「おらぁ!!」

「ごぉ……!?」


 ゼノに頭部を蹴られ、首を吹き飛ばされた。


 全てはスパーダの作戦通り。

 愚直で考え無しな攻撃をあえて続けることで、ゼノが実体化する可能性をイタンシンの頭から除外させる。

 加えて意表を突くための策を【魔王ノ手】を応用した攻撃だと誤認させ、それを不発にさせることで油断させる。

 後はゼノディーヴァからゼノが飛び出し、カウンターで首を獲るだけ。

 強化魔法など関係無しに凄まじい怪力を誇る彼女であれば、それができるとスパーダは踏んだ。


 当然、この作戦には様々な穴や懸念事項がある。


 ――イタンシンが油断しなかったら、微塵も警戒を解かなかったら。

 ――イタンシンの攻撃を凌ぎ切れなかったら。

 ――ゼノが、スパーダの意図を汲み取れなかったら。


 どれか一つでも当てはまれば、破滅していたのはスパーダたちの方だ。


 だがしかし、それを理解した上でスパーダは作戦を実行し、成功させた。

 リスクを取り、勝利をつかみ取ったのだ。


「バ、カなぁ……!!」


 宙へ舞う生首となったイタンシンは、スパーダたちを見下ろしながら、うめくように呟く。


「ガハハハハハ!! やったぞ流石儂!! 儂最強!!」


 飛ぶ生首に向けて、ゼノはガッツポーズを取った。


「はは……信じてたぜ。相棒」

 

 そんな彼女の背を見ながら、全てを出し切ったスパーダは力無く……賛辞を贈ったのである。

決着!! 第三章あと5話以内に終わります(多分)!!


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◇◇◇

小話:

現在状況

セコノミヤ公園

→スパーダ&ゼノ勝利、イタンシン死亡

 エリーザ、サイカ、バーガンディ、ユナ離脱。

『スワロウズドリーム』第二会場

→ゾイ、フーガ、ツンドラの命令で離脱。

『スワロウズドリーム』外

→ローラ、ラエル、グラコス(右目失明)、ムオー&バーガー死亡。

『スワロウズドリーム』地下

→シェイズはイルミを救出。安全な場所へ向かう。

→サシタは縮小したオークション品を馬車に載せ検問所へ向かう。

→リンゼ、ウーリャ、エルが戦いに勝利、ボルカノは生き残り戦線離脱。

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