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第六十六話 『大オークション』三日目 その30

第三章佳境!!

 ――ゼノカロッツァ


 スパーダたちが手にした三本目の魔剣。

 その力は肉体から黒い靄のような五本の黒い腕……【魔王ノ手(デーモン・ハンド)】を生やすことだ。腕は現状二百メートルまで伸ばすことができ、攻守ともに応用できるなど、その利便性は非常に高い。


「おいお前、名前は?」


 三本の魔剣を手にしたスパーダは、後ろにいるユナに名前を聞いた。


「え……ユ、ユナ。ユナ・パームっす」


 ユナは素直に答える。


「そうか……ありがとな、ユナ。お前は逃げろ」

「は、はい!」


 スパーダの言葉を受けたユナは、足早にその場を後にした。

 

「さぁ、最終ラウンドといこうじゃねぇか。魔王幹部」

「……」


 好戦的な様子のスパーダに、イタンシンは忌々しそうな目を向ける。


 三本の魔剣、奴の戦闘力は間違いなく上昇した。だが、


「調子に乗るなよ!!」


 イタンシンは再び、スパーダの首を狙う。


「おらぁ!!」


 だが、先ほどまでと違い容易に近付くことはできない。四本の黒い手がイタンシンを捕らえるべく縦横無尽に伸び、飛び交う。


「こんなものぉ!!」


 しかし流石魔王幹部。

 スパーダの黒い手が迫る方向を予測、回避しながら前へと進んだ。


「まだまだぁ!!」


 スパーダは追尾の手を緩めない。

 彼はあるを待っていた。


 ――そしてそれは、突然訪れる。


「ここだぁっ!!」


 イタンシンが上空へと回避行動を取った瞬間、スパーダは四本の腕を様々な方向から放った。


 ふん、案の定空中で動きを制限された状況でなら俺を捕らえられるとでも考えていたようだな。


「無駄だ!!」


 彼は体をひねりすんでの所で黒い手を避け、空気を蹴りながら凄まじい速度で移動した。

 スパーダは逆に翻弄されてしまう。


「くっそがぉ!!」

 

 それでもスパーダが諦めない。

 四本の腕を伸ばし、不規則な軌道を描きながらイタンシンを捕らえようと躍起やっきする。

 

「……」


 が、それすらもイタンシンが望んでいる展開であった。


「なっ……!?」

 

 数秒後、上空の光景にスパーダは目を見開く。

 スパーダが放った四本の腕が絡まり合い、自由に動かすことができなくなっていたのだ。


「俺を捕らえるということのみに固執しすれば、こうなるのは必然だ……!!」


 絡まり合った黒い手を通過し、再び空中を蹴ったイタンシンはスパーダへと接近する。


「使用、十。【命拳】!!」


 ガキィィィィィィィィィィィン!!!


「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


 イタンシンが体内に保有する命を消費して放たれた拳を、スパーダは三本の魔剣で受け止める。

 三本の魔剣によって戦闘力が上昇したスパーダだが、イタンシンもまた消費する命を増やしたことで両者は拮抗状態となった。


「がぁ!!」

「っ!?」


 魔剣と拳による鍔迫つばぜり合いは引き分け、スパーダとイタンシンは互いに後方へと下がり距離を取る。


「ゼノ、アイツの体内にある魂は後どれくらいある?」

『あぁ? そんなもん正確に数え切れん!! とにかくたくさんじゃ!!』


 たくさん、ね……。


 ゼノの言葉を聞いたスパーダは、息を吐く。


「ま、どうせやることは変わらねぇか」


 命を刈り取るという明確な覚悟と殺意、今のスパーダに曇りは無かった。


「俺を殺し切れると、本当に思っているのか?」

「あぁ、言ったろ。俺は……いや俺たちは、絶対お前をぶっ殺すってな」

「……」


 魔剣を三本手にしたスパーダ、今の彼の言葉には先ほどとは異なり、それを実行出来うる説得力が僅かながらにあった。


「使用、五十」


 故に、彼はリスクを取り、確実にスパーダを仕留めることを選択した。


 ――ズズズズズズズ

 

 どす黒い魔力圧オーラと凄みが、これでもかというほどイタンシンから放たれ、彼の肌には奇妙な刻印が浮かぶ。


【残機性人生】における命五十個の使用。

 一撃分の威力を上昇させていたこれまでとは違い、これは五分間身体能力と魔法の威力、()が限界を超え、上昇させるのだ。

 

「それがてめぇの本気か」


 ――ズゴゴゴゴゴゴ


 イタンシンに呼応するように、スパーダも魔力圧を発する。

 魔力圧がぶつかり合い、歪な音を立てた。


「「……」」


 そして両者は、ゆっくりと歩き出し、接近する。

 凶悪な眼光が、互いを抉る。


 三本目の魔剣を奴が抜いた際に、理解した。

 この男と魔王をかたるあの少女は、奇妙なことに一心同体の状態にある。つまり、男を殺せば少女も死ぬということだ。

 

 イタンシンはスパーダとゼノの関係を見抜いていた。


 生きた状態でアレを確保するためには、男の方を半殺し程度で留めておく必要がある。

 が、今の奴に対しそれは難しい。

 半殺しにするために手を抜けば、こちらがられる可能性がある。


 ……仕方が無い。本来は直接情報を聞き出したかった所だが、この際情報はコイツらを殺し解剖することで手に入れるとしよう。


 そう定めるイタンシン。

 これで、彼の中に懸念事項は無くなった。

 三メートル先の眼前にいるスパーダを殺すための拳を振るう。その準備が整った。


「ふんっ!!」

「おらぁ!!」


 バゴォォォォォォォォォォォン!!


 イタンシンの拳をスパーダの魔剣、今宵何度目かの激突。

 だがこれは先ほどまでの比ではない。


 具体的には地面が、空気が、空間が……揺れた。

 

 スパーダが凄まじい速度で魔剣を振るい、残った四本の黒い手も拳のラッシュを放つ。

 イタンシンはそれらを全て紙一重で避け、捌く。


 そんな中、最初にダメージを与えたのは、イタンシンであった。


「はぁ!!」


 ブチィ!!


 彼は凄まじい早業はやわざでスパーダの腕の付け根から腕を引き千切る。

 これにより、魔剣を振るう手数が減る。その隙に畳み掛ける。そう考えていたイタンシン。

 だが、

 

「うぅ!? この野郎!!」


 ほぼ一瞬の内に、肩から伸びるスパーダの黒い手が、地面に落ちる前に魔剣を拾い、振るう。


 なるほど、攻撃の起点となる魔剣を持つ手を破壊しても、肩から伸びるあの手が落下前に魔剣を拾い、そのまま攻撃が再開する。加えて引き千切った腕は即座に再生か。

 ……なら!!


 イタンシンは目を見開き、全意識を自身の眼球と腕に集中させる。


「食らいやがれぇ!!!」


 そんな彼の一瞬の硬直を好機と捉えたスパーダは、彼の脳天めがけて両腕を振るった。


「っ!!」

「……な!?」


 しかし、それは不発に終わる。

 イタンシンの両手が、スパーダの両手首を掴んでいたからだ。


「【命蹴】」


 その状態のまま、イタンシンは足でスパーダに連続蹴りをお見舞いする。


「ふん!!」

「があぁ!?」


 スパーダはそのまま腕を引き千切られ、後方へ吹き飛んだ。


「こんのっ!!」


 が、タダでは転ばないスパーダ。

 吹き飛ばされながらも彼は黒い手を伸ばし、イタンシンを掴むと、そのまま引き寄せる。そして、


「おらよぉ!!」


 バキィ!!


 その勢いを利用して、イタンシンの顔面を即座に再生した右腕で殴りつけ、頭を飛ばした。

 だが彼は【残機性人生】によって復活、首から新たな頭部が生える。


「……」


 新しく生成された眼球で、イタンシンはスパーダを見た。

 

「……あ」


 思わず、彼は声を漏らす。

 感じたのだ。畏怖と恐怖を。


 それは、彼が魔王と対峙した時のみに抱くものであった。


 何だ……有り得ない。

 この俺が、あんな男に……魔王様の面影を感じているなど!!


「さぁ、続行だ」


 戦闘でハイになっているのか、スパーダは笑う。


「……っ」


 そしてそれは、イタンシンにも伝播でんぱした。

 久しく抱かなかった感情に、彼の心は無意識に躍ったのだ。


 蒐集だけでは満たされなかった欲望、それが今刺激され、満たすための手段が目の前にある。


「いいだろう」


 イタンシンは構える。そして、笑う。


「全力で、殺し合おう!!」


 それはここ四百年の中で、一番の笑みだった。

次回、VSイタンシン戦決着!!


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◇◇◇

小話:

現在状況

セコノミヤ公園

→スパーダ&ゼノ、イタンシン戦闘中

 エリーザ、サイカ、バーガンディ、ユナ合流

『スワロウズドリーム』第二会場

→ゾイ、フーガ、ツンドラの命令で離脱。

『スワロウズドリーム』外

→ローラ、ラエル、グラコス(右目失明)、ムオー&バーガー死亡。

『スワロウズドリーム』地下

→シェイズはイルミを救出。安全な場所へ向かう。

→サシタは縮小したオークション品を馬車に載せ検問所へ向かう。

→リンゼ、ウーリャ、エルが戦いに勝利、ボルカノは生き残り戦線離脱。

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