表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

156/170

第六十三話 『大オークション』三日目 その27

 ジュググ……。


 頭部と首の切断面が、それらを接合しようと汚らしい音を鳴らす。血と肉、骨が結びつく音だ。


「スパーダ!! 起きろぉぉぉ!!」


 ゼノは呼び掛ける。


 首を切断した。そこからの蘇生などいくら魔剣やゼノ様の魔力を行使している人間でもあり得ない。

  

「……」 


 だが現実としてあの少女の行動は、あの男が生き返ることを信じているかのようなものだ。

 ならば、


「ふん!!」


 阻害するまで。


 イタンシンはゼノと同じようにスパーダへ向かい急降下する。


「っ!? おいスパーダ!! 奴が来る!! 早く起きろバカもんが!!」


 ゼノは頭を押さえつけながらスパーダの体を揺する。


 マズイ!! このままでは……!!


 両者ともに死ぬ、そう考えたゼノ。

 よって彼女は藁にも縋るような思いで、片腕でスパーダを固定し、もう片方の破損した腕の切断面を上空に向けた。


「えーどうやるんじゃあれ!! こうか!!」


 瞬間、ゼノとイタンシンの間に一枚の壁が現れる。

 ゼノはバカだが、センスはあった。


「魔力壁か。だが、その程度……」


 拳を握り、そこに黒い瘴気しょうきを纏うイタンシン。

 そして腕を振りかぶり、


 バキィィィィィィィ!!


 ゼノの魔力壁を殴りつけた。


「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!???」


 とてつもない衝撃に、ゼノは歯を食いしばる。


 何じゃこれぇ!? もう十秒ももたん……!!


「無駄な抵抗はよせ。衝撃でお前が死なないように手加減しているんだ。俺を煩わせるな」


 イタンシンにとって生きたままゼノを確保することは今の彼にとって最重要。

 それが功を奏し、満身創痍のゼノは辛うじて今拮抗できている。


「な、めるなよぉ!! 魔王幹部如きがぁ、魔王である儂にぃ……勝てると思うなぁ!!」

 

 ゼノの声に応えるように、魔力壁の強度が上がる。

 

「醜い」


 が、イタンシンもまたそれに伴い攻撃の威力を上げた。

 

 ピシィ!!


 魔力壁が、そんな音を立ててひび割れ始める。いくらゼノにセンスがあるといっても対する相手は魔王幹部。

 付け焼刃のゼノの魔力壁では、耐えるのに限界があった。


 くぅっ……!! 早く、早くせい……!!


 祈るように、ゼノは内心で叫ぶ。

 まるでそれは、懇願するようだった。

 しかし、


 バリーン!!


 その祈りは、届かない。


「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!??」


 他愛もなく、ゼノは息を吹き返さないスパーダと共に、吹き飛ばされた。


「う……ぅぁ!!」


 地面を激しく転がったゼノは、辛うじてよろよろと立ち上がる。

 身体中が彼女自身の血で染まり、内臓や骨にもダメージを受けていた。

 この程度で済んでいるのは、イタンシンが手心を加えたからである。


「……」


 だが、今イタンシンが見ていたのはボロボロとなった彼女ではなく、その脇に抱えられているスパーダだった。


 頭と首が、接合されている。

 まさか……そんなことが。あれではまるで……。


 そこまで思考し、次だ浮かびそうになった言葉をイタンシンは振り払う。

 何故ならそれはあり得ないから。

 自身の長年の経験や感覚などでは無く……確固たるを持っている彼は、はっきりとそれを否定することができた。


「はぁ……ぁ」


 そんなイタンシンを他所に、ゼノは脇に抱えるスパーダに目をやる。


「お、いスパーダ。お前……なぁに腑抜けとるんじゃ……」


 声を発さないスパーダに、ゼノは語り掛ける。


「いくら儂が最強で天才で最強でも……、このままだと死ぬ。だから、さっさと目を覚ませ」

「……」


 スパーダは目を覚まさない。


「正直、魔王である儂には人間の価値観は良く分からん。だからあの時、何故お前が奴の言葉に何にショックを受けたのかもよー分からん。むしろ儂は共感すら覚えた」

「……」


 未だ、スパーダは目を覚まさない。


「じゃがな、そんなことはどーでもいい。大事なのは今、何をするかじゃ。お前はどうしたい? スパーダ」

「……」


 俺、は……。


 目を覚まさないスパーダだが、彼の耳にはゼノは言葉が届いていた。


 俺のした選択は、表面を綺麗に取り繕っただけの汚れたものだ。

 それを無意識に、俺は選択していた。

 きっと俺は、心の何処かで気付いていたんだ。自分の言っていることの本質に。

 けどそれじゃあ作戦が成り立たないから、魔剣が手に入らないから、その部分に対して俺は目を瞑った。

 危険に晒される客の命と、自分の目的を天秤に掛けた。

 俺の弱さが、そうさせた。


 スパーダは懺悔する。『愚かしい』自分の行いに。だが、


 ――違う。


 直後、それを否定する。

 そうして彼は、突如として思い出した。

 それはオークション一日目の、エリーザの言葉。


『本来なら愚かと言う所だけれど……意識的にそれを選択するのと、無意識で選択するのでは、そこには雲泥の差が生じる』


 ……あぁ、そうだな。全く、その通りだよ……。

 俺はこれを上っ面でしか受け取ってなかった。大事なのは、ただ意識的にバカになることじゃない……そうだろ?


「エリーザ……」


 ポツリと呟いたソレは、現実世界で吐かれたものだった。


「む!? スパーダ起きたか!! 遅い!! お前のせいで儂がこんな目に遭ったではないか!! この借りは千倍返しで返してもらうからな!! というか何故儂では無く別の女の名前を呼んだ!! 死罪じゃ死罪!! 今度は本当に死ね!!」

「あぁ、悪い……」


 首をゴキゴキと鳴らしながら、両腕の無いままスパーダは立ち上がる。


 スパーダとゼノが言葉を交わす。そんな彼らに対し、イタンシンは半眼を向ける。


「まさか本当にあの状態から蘇生するとはな。おとなしく、黙って死んでいればいいものを」

「ゼノ」


 が、スパーダはイタンシンの言葉に応えるのではなく、相棒の名を呼んだ。


「あぁ? 何じゃ」

「お前聞いたよな。俺に、どうしたいか」

「ん? まぁ言ったのう」

「決めたぜ……。俺はアイツを絶対に、殺す」


 瞬間、確かな沈黙が、流れた。 

 だがそれは、イタンシンの嘲笑うような声によって破られる。


「ふん、先ほど己の意志と行動の矛盾に気付き戦意を喪失した者と同一人物とは思えんな」


 煽るような物言いをするイタンシン、だがスパーダは一切動じる様子は無い。


「てめぇが許せないクソ野郎なのは変わらねぇからな。それに、俺はもう、覚悟は決めた!!」


 スパーダはイタンシンを睨む。


「俺の行動と選択は、全部俺の意思だ!! 無意識だの弱さだの、そんなモンを言い訳の口実にしねぇ!! どれだけ悩んでも、矛盾に満ちても!! 全部ひっくるめて、考え続けて前に進む!!」

「詭弁にして戯言だな。そんなものはタダの思考停止に過ぎん。愚か者が」

「愚か者上等!! こちとら元から褒められる人生なんて歩んじゃいねぇんだよ!! 行くぞゼノ!!」

「ガハハハハハハハ!! い、良いぞ!! 流石は儂のパートナー!! そうでなくてはなぁ!!」

 

 吠えるスパーダ、威勢を取り戻した相棒に、興が乗ったゼノは大きく笑う。

 二人は満身創痍。だが何故だろう。


「二人であの野郎を……!!」

「あぁ!! 奴を……!!」


 今の彼らならば不可能が可能になる。


『ブっ殺す!!』


 そう思わせる何かが、そこにはあった。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

よろしければブックマークや感想、広告の下にある【☆☆☆☆☆】から評価していただけると大変作者の励みになるのでぜひお願いします!!

お気に入りユーザ登録をしていただけると更に舞い上がります!

◇◇◇

小話:

現在状況

セコノミヤ公園

→スパーダ&ゼノ、イタンシン戦闘中

『スワロウズドリーム』外

→フィオネ気絶。

 エリーザ、サイカ、バーガンディ、ユナ生存。

『スワロウズドリーム』第二会場

→ゾイ、フーガ、ツンドラの命令で離脱。

『スワロウズドリーム』外

→ローラ、ラエル、グラコス(右目失明)、ムオー&バーガー死亡。

『スワロウズドリーム』地下

→シェイズはイルミを救出。安全な場所へ向かう。

→サシタは縮小したオークション品を馬車に載せ検問所へ向かう。

→リンゼ、ウーリャ、エルが戦いに勝利、ボルカノは生き残り戦線離脱。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をポチっと押して

いただけると作者への応援となります!


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ