第六十一話 『大オークション』三日目 その25
「恐らくだが、お前は何か思い違いをしている。それを訂正させる意味も込め、ここで説明させてもらおう」
「思い違い……?」
スパーダは怪訝そうな表情を浮かべる。
「俺は最初、一つの魂しか保有していなかった。元々複数の魂を保有していたわけじゃない。今この中にある魂は最初の一つを除いて全て後から手にいれたものだ。【残機性人生】を使ってな」
「何を……言ってるやがる、てめぇ……」
イタンシンの言葉の意味が十全に理解できないかのように、スパーダは呟く。
【残機性人生】の魔法が、全てイタンシンが最初から有していた魂を元に行使されていると思い込んでいたスパーダから、嫌な汗が流れ出る。
唇が、震え始めた。
「【残機性人生】の力はさっき話したものに加え、もう一つある。それが、魂の補充だ。俺は他者を殺し……その魂を俺のものとして体内にストックする。生き返りや強化に利用しているのはソレだ」
「……」
スパーダは、無言。ただ、唖然とその場に立ち尽くす。
――ドス黒い『何か』が彼の中を侵食していく。
「だがまぁ、この補充にも制限があってな。俺がストックできるのは齢零歳から十三歳までの子供の命に限られる」
「……言い残すことは、それだけか?」
酷く冷徹に、だがはっきりとした怒気が籠った声で、スパーダは問うた。
「別に遺言のつもりじゃ無い。お前に、俺は倒せないからな」
「あぁ……そうかよ」
魔剣を強く握りしめるスパーダ。そうして彼は、
「っ!!」
イタンシンへと接敵した。
「らあぁ!!」
スパーダは魔剣を振るう。が、イタンシンは容易くそれを回避する。
『おいスパーダ!! 落ち着け!!』
「うるせぇ!! アイツは絶対殺す!! 【魔王ノ炎】!!」
放たれる灼熱の業火に対し、イタンシンは魔力壁でそれを防ぐ。
「死ねぇ!!」
攻撃の手を緩めること無く、スパーダは果敢に攻める。
自ら炎の中に突っ込み、炎に身を焼かれながら魔力壁ごとイタンシンを斬りつけた。
「ははっ、怒りで我を忘れているな」
体制を低くして、スパーダの横斬りをイタンシンは回避する。
さっきまでとは比べものにならない圧倒的大振りな攻撃。対処は容易い、煽った甲斐はあったな。
「避けてんじゃねぇぞぉ!! 【魔王斬對慟:双雷】!!」
「……」
攻撃自体の精度と魔力コントロールにも粗さが目立つ。
「ここまで単純になるとは、驚いたな」
ぐしゃあ!!
「っがぁ……!!」
「さっきまでのお前と、今のお前。勝っているのは威勢だけだ」
スパーダの腹部を貫きながら、イタンシンは言う。
「う、るせぇよ……!! てめぇは絶対許さねぇ!! 俺が、この手で殺してやる……!!」
「……参考までに聞いておきたい。俺は人間の心象は把握しているが、理解はしていない。今回お前を激昂させるために言ったことだが、実際の所何故お前がそこまで激昂しているのか、俺には分からない。教えてくれないか? 何故そこまで、感情を爆発させる?」
「っざ、けんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 何もしてねぇ子供の命を奪うような奴にキレんのは、当たり前だろぉがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ガキィィィィィィィィィン!!
剣を振るい、イタンシンの首に刃を当てるスパーダ。
だが感情に身を委ね、ただ力任せに斬るだけでは、イタンシンの首は落とせない。
いくら力を込めて刃を進ませようとしても、それ以上刃は一向に動かなかった。
「てめぇが殺した奴らにはなぁ、そいつらだけの可能性が広がってたんだ!! これからそれを掴んで、自分だけの人生を歩んでいくはずだった!! だがてめぇは、そいつらの可能性全部を奪った!! 絶対許さねぇ!!」
血を吐きながら、スパーダは睨み付ける。
そんな彼を、興味深そうにイタンシンは見据えた。
「なるほど、可能性を摘み取る……か。確かにそうかもしれんな」
――だが。
そう言ってイタンシンは言葉を続ける。
「この世界で、その可能性とやらを摘み取られている者など大勢いる。強者が弱者に蹂躙されるのは当然の摂理。弱者の命は、強者に利用されるためにあり、気にするようなことではない」
「てめぇ……!!」
スパーダの怒りのボルテージは、既に上限値を超えていた。
「それに、お前もそうだろう?」
「……は?」
だが、そんなイタンシンの言葉が、スパーダを硬直させる。
「今回の流れを見れば、俺がこうして戦っているのがお前たちの作戦だということは分かる。つまり……あの会場内の客を危険に晒し、下手をすれば死なせる可能性があるにも関わらず、お前たちは作戦を実行したということだ。それは、他者の命を利用したことにはならないのか?」
「……」
この時、スパーダの中で、何か淀みが流れ込むような、そんな感覚が駆け巡った。
その淀みは、既に彼の中にあったものだ。
――何を、言ってるコイツは。
スパーダの思考が、一瞬停止する。
だがすぐに、彼の脳は再起動を果たす。
ダメだ、さっさと否定しろ。
コイツと、俺は違う……!!
――だから!!
スパーダは、口を開こうとする。
『……作戦は、実行する。けど、できるだけ被害は最小限に抑える。そんな作戦、あるか? エリーザ』
その時、彼は思い出した。自身がエリーザに言ったことを。
……何だ、『最小限』って?
そして探る、その言葉の意味を。
――否、その意味は……探らずとも明瞭なものであった。
最小限、つまり最小限なら被害が出ても仕方ないと……俺は決めつけていた。
無意識に人の命を天秤に掛けて、大事な人とそうじゃない人を、区別していた。
ここでようやく、スパーダは自覚する。
まだ夢だけを追いかけ、ただ目を輝かせていた昔の彼であれば、このような選択は取らなかった。例え最小限であろうと、犠牲の可能性があれば、必ずその作戦に待ったを掛けただろう。
ロクデナシになって、無駄に損得勘定が上手くなって、俺は……気付かない内に色んなモンを落としちまってたのか。
――ズキン
「っ!?」
瞬間、スパーダの脳に激痛が走る。
何、だ……今の……?
突発的な痛みに混乱し、狼狽える。
『スパーダ!!』
「え……?」
そして、それが転機となった。
ズシャア!!
「これで、詰みだ」
イタンシンが、スパーダの両腕を切り飛ばしたのである。
本当にこの主人公は良く肉体が破損しますね。とても清々しいです。
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小話:
現在状況
セコノミヤ公園
→スパーダ&ゼノ、イタンシン戦闘中
『スワロウズドリーム』外
→フィオネ気絶。
エリーザ、サイカ、バーガンディ、ユナ生存。
『スワロウズドリーム』第二会場
→ゾイ、フーガ、ツンドラの命令で離脱。
『スワロウズドリーム』外
→ローラ、ラエル、グラコス(右目失明)、ムオー&バーガー死亡。
『スワロウズドリーム』地下
→シェイズはイルミを救出。安全な場所へ向かう。
→サシタは縮小したオークション品を馬車に載せ検問所へ向かう。
→リンゼ、ウーリャ、エルが戦いに勝利、ボルカノは生き残り戦線離脱。