第六十話 『大オークション』三日目 その24
……まずは情報整理だ。
今の俺たちと敵である魔王幹部の戦力差は数字で言うと三対七……高く見積もって四対六。
回復能力に関しては俺に多少の分があるかもしれないが、それだけ。それ以外の全てにおいて俺たちは奴に劣っている。
……いや、正確には違う。俺が奴に優勢になれる可能性は無くは無い。
だが、可能性だ。絶対じゃない。それに奴の手の内が何も分かってない。無闇やたらに仕掛けるのはこっちのリスクだけが増える。
――最悪だな。
スパーダは内心でそう漏らす。
そして、彼はふと思い至った。
「……ゼノ。確かお前妙なモン見えるようになったんだろ。その目で相手の弱点とか見抜けないのか?」
『んあ? 弱点などそんな曖昧ではっきりしないモンが分かるか! 儂が見えるのは肉体に宿る魂じゃ! そんなモン今見たところでってえぇ何じゃアレ気持ち悪い!!』
「どうした?」
明らかに様子の変わったゼノに、スパーダは問い掛ける。
『あ、あの男……体内が複数の魂で充満しとる!』
「何……?」
不可解なゼノの言葉に眉をひそめるスパーダ。
複数……つまり、この前の悪魔みたいに人格も複数あって要所要所で切り替えて戦ってるってことか?
仮説を立てるスパーダだが、すぐに頭からそれを取っ払った。
いや、それにしては妙だ。
もっと別の……違う『何か』。確証は無いが、そんな気がしてならねぇ。
「……」
息を吐き、スパーダはこれまで相対した敵の中で最も強いと断言できるイタンシンを見据える。
彼は吹き出る恐怖を押さえつけ、覚悟を決めた。
『何か』の正体を確かめるために、リスクを取ることを選んだ。
「ゼノ、魔力全開で俺に流せ」
『お! 何か勝算があるのか?』
「ンな大層なモンじゃねぇよ。ただこれが勝算なのかどうか、確かめるだけだ……命張ってな」
『ん? よー分からんが分かったぞ!!』
非常に頭の悪いことを言いながら、ゼノはスパーダに魔力を流す。
よし……まずは、
スパーダは雷属性の魔力特性を利用し、全身に雷を纏わせた。
カレン、お前の技……真似させてもらうぜ。
「【魔王ノ雷:加速】」
瞬間、スパーダはその場から消える。次に彼が現れたのは、
「……」
イタンシンの目の前だった。
「【魔王斬對慟:双雷】」
ガガガガガガガガガガガガ!!!!
対ジオルド・ゲオルド戦においての決定打となったスパーダの【魔王斬對慟:双】。
二本の魔剣とそれによって上昇した身体能力にモノを言わせ、凄まじい速度と手数で相手を斬りつけるというこの技を、スパーダは土壇場でアレンジした。
端的に言えば、【魔王斬對慟:双】に雷属性の魔力を加えた上位互換である。
雷電の速度が、魔剣に乗った。
「ほう……」
そんな彼の攻撃に、イタンシンは感嘆にも似た声を発した。
目まぐるしいスパーダの斬撃を避けたり手で捌くなどして対処する彼だが、それら全てを捌き切ることは出来ず、頬や腕に傷が生じ、出血する。
マジか……!! これならコイツに攻撃が届く……!!
攻撃が通ったことに驚くスパーダ。
彼にとってこれは僥倖、棚から牡丹餅であった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
スパーダは叫ぶ。
攻撃の手を緩めるという選択肢は無い、むしろその逆……通用すると分かったことで彼の攻撃速度と威力は徐々に上昇を続けていき、【魔王斬對慟:双雷】はその精度は高まっていく。
そして、
「っ」
遂に、イタンシンに明確な隙が生まれた。
避けようない位置に加え、手で防ぐことも間に合わない。
それを見逃す理由など、スパーダに在りはしなかった。
「はあぁぁぁぁぁ!!」
ゼノエリュシオンに万力の力を込め、スパーダは振りかぶる。
その剣先は、イタンシンの首を性格に捉えていた。
ズシャア!!
そうしてイタンシンの首は、斬り落とされた。
「っし!!」
落下する生首を目にしながら、思わずそんな声を漏らすスパーダ。しかし、
「まさか頭を落とされるとはな。驚いたぞ」
「……は?」
突如として発されたその声に、彼は目を見開いた。
ゆっくりと視線を上に戻したスパーダ、その視線の先には……落としたはずのイタンシンの頭部が存在した。
「誇るといい。俺が死んだのは久しぶりだ」
「っ!!」
何てことない様子で言うイタンシンに対し、スパーダは身の危険を感じたのか距離を取る。
クソ!! とんだぬか喜びだ。やっぱり一筋縄でいくわけねぇよな……!!
スパーダは歯ぎしりを立てる。
……けど、俺の本来の目的はそこじゃねぇ。
「ゼノ、アイツの魂……今どうなってる?」
『むぅ……お、魂が減っとるな』
「……そうか。それが分かれば十分だ」
「ふん、どうやら今の攻撃は俺を討つためでなく、俺の手の内を探るためのものだったようだな」
イタンシンは、スパーダの目的を悟った。
「正解だよ魔王幹部。おかげでてめぇの力が何なのか……大体検討がついたぜ」
スパーダはゼノディーヴァの剣先を向け、イタンシンを指す。
「てめぇには複数の魂……命がある。だから一つを破壊した所で死なねぇんだ」
『何!? そうなのかスパーダ!!』
「……」
スパーダの言葉に、イタンシンは目を細める。
……バレたか、ならここで打つべき最適解を考えるとしよう。その上で重要なのは、相手の性格とこれまでの行動だ。
あの男、冷静で多少頭が切れるが、それだけではなく感情的な面も強い。そんな奴に掛ける言葉は……。
スパーダに力を見抜かれたイタンシンは、返す言葉を刹那の中で熟慮。
そして、彼は放つ言葉を決定した。
「正解だ。俺の中には複数の魂がある。死んだとしてもその内の一つが消えるだけ。内包する別の魂によって俺は生き返ることができる。更に、魂を消費して身体能力や魔法の威力を急激に上げることも可能だ」
偽ることなく、事実を告げることだった。
やっぱり、そういう感じの力か。厄介だな……。
イタンシンから告げられた正解に、スパーダは苦渋の表情を浮かべる。
「これは俺の魔人としての性質では無く、俺自身の特殊型魔法だ。名を【残機性人生】、そう呼んでいる」
「はっ、そんなベラベラ手の内を明かしていいのかよ。敵に塩を送るようなもんだぜ」
「問題ない、露見した所で対処のしようがないものだからな」
確かに、その通りだ。
死んでも生き返る魔法。攻略法もクソも無い。アイツを完全に殺すには、中に魂を全部破壊する以外に無い。
……たが、それは不可能じゃない。
奴に明確な死があり、俺とゼノの力で奴の命に手を掛けることができることも分かった。
何度も、何度でも、殺し尽くしてやる……!!
先ほどまで敵の強さと手の内の不明瞭さに頭を悩ませていたスパーダだが、今の彼にその迷いは完全に消失した。
「そうだ。俺の魔法について、一つ言い忘れていたことがある」
そんな時、水を差すようにイタンシンは口を開いたのだった。
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小話:
現在状況
セコノミヤ公園
→スパーダ&ゼノ、イタンシン戦闘中
『スワロウズドリーム』外
→フィオネ気絶。
エリーザ、サイカ、バーガンディ、ユナ生存。
『スワロウズドリーム』第二会場
→ゾイ、フーガ、ツンドラの命令で離脱。
『スワロウズドリーム』外
→ローラ、ラエル、グラコス(右目失明)、ムオー&バーガー死亡。
『スワロウズドリーム』地下
→シェイズはイルミを救出。安全な場所へ向かう。
→サシタは縮小したオークション品を馬車に載せ検問所へ向かう。
→リンゼ、ウーリャ、エルが戦いに勝利、ボルカノは生き残り戦線離脱。