第五十九話 『大オークション』三日目 その23
お待たせしました。ようやく主人公の話です。
セコノミヤ公園
各所でリンゼやサイカが【ノーネーム】のメンバーと対峙する中、ここセコノミヤ公園でも戦いが繰り広げられていた。
スパーダとゼノ……そして【ノーネーム】団長であるイタンシンの対決。優勢なのは、
ドガァァァァァァァァァァン!!
「ごほぅあ……!!」
紛れも無く、イタンシンであった。
何、だよコイツ……。強すぎんだろ……!!
腹部に大きな穴が空き、口から吐血を続けるスパーダは自身が相手にしている者の強さに愕然とする。
「どうした。その程度か?」
汗一つ流さず、イタンシンは膝を付いているスパーダに向かって歩いた。
「まだに……決まってんだろ!! ゼノ!!」
『うむ!!』
スパーダの声に応え、ゼノディーヴァから上半身だけを実体化させ現れたゼノは口を開け二本目の魔剣を出す。
「らぁ!!」
ゼノエリュシオンを抜刀したスパーダ。
直後、彼の身体能力が一気に向上し、傷を瞬く間に治療する。
「ふんっ!!」
両手に魔剣を握り締め、スパーダは駆け出した。
「【付与】!!」
スパーダがそう叫ぶと、ゼノディーヴァとゼノエリュシオンの刀身にそれぞれ火と風が纏われた。
「【魔王ノ炎】、【魔王ノ風】!!」
ゼノエリュシオンの力は光属性以外全ての基本属性の魔法を使うことができるというもの。
スパーダは歯を食いしばり、二本の剣をイタンシンに向けて振りかぶった。
ズガァァァァァァァン!!
激しい衝突音が響き、土煙が舞う。そして数秒後、スパーダの視界が晴れた。
「……」
「なっ……!?」
だが、目の前に広がる光景にスパーダは驚きを隠し切れない。
無理も無い、自身が振るった二本の魔剣による攻撃は、それぞれイタンシンの片手で受け止められてしまっていたのだから。
「多少力は上がったがな」
そう言って、イタンシンは二本の魔剣を払いのける。
一瞬、スパーダの胴体が無防備になった。
ドドドドドドドドド!!!
そしてその機を逃すこと無く、イタンシンはスパーダの胴体に目で捉えきれない拳のラッシュを叩き込んだ。
「……がぁっ……!!」
あまりの威力、それが休む間も無くスパーダを襲う。
「ふん」
更にダメ押しとばかりに、イタンシンは滞空状態にあったスパーダの頭部に回し蹴りを食らわせたのだった。
ズドォォォォォォォォン!!
「ぐっ……ごぉ……ほぁ……!?」
跳ねるボールのように、スパーダは地面に転がる。
っ痛ぇ……。マズい、意識が……飛びそうだ。
曲がってはいけない角度まで曲がってしまった首をゴキゴキと音を立てて戻すスパーダ。
そんな彼を、イタンシンは目を細めて見ていた。
……妙だな。いくら魔剣を二本使用していると言っても、ただの人間の身体能力と回復能力があそこまで上がりることはない。加えて今の攻撃に感じた魔力はゼノ様のものだった。
イタンシンは顎に手を当てる。
原因はあの幼女か。やはりゼノ様への手掛かりになることは間違いない――何としても、回収する。
「はぁ……ぁ…‥‥!!」
『スパーダ!!』
「クッソ……!! 何だよ、アイツ強過ぎんだろ……!!」
イタンシンがゼノへの執着を高める中、スパーダは彼の圧倒的な強さに愕然としていた。
魔剣二本の攻撃を防がれた……しかもアイツ、まだ全然本気じゃねぇ……!!
ここまでのイタンシンとの戦闘で、スパーダは彼が一切余裕を崩していないことを痛感していた。
ダメだ、三本目が無いと話にならねぇ!! 何とかエリーザたちが魔剣を持ってくるまで時間を稼がねぇと……!?
そこでスパーダは思考を中断する。十数メートル先にいたイタンシンが一瞬にして距離を詰めてきたからだ。
「くっ!!」
反射的に、スパーダはゼノディーヴァを振るう。しかしそこにイタンシンは既におらず、彼はスパーダの背後を取っていた。
「どうやら生半可な攻撃ではすぐに治癒してしまうようだからな。少し、本気を出させてもらう」
そう言って、イタンシンは構える。
「使用、五」
そして確実に手掛かりとなる少女を手に入れるため、彼は拳を握った。
「【命拳】」
「……っ」
瞬間、音と光の速度の壁を越えた拳がスパーダに向かい放たれる。
ヤベェ……これは……。
――死
直撃すれば、そこで自身の人生が終了することを、スパーダは悟る。
「っ!!」
バキィィィィィィ!!
たが、すんでのところで彼の防衛本能が作動した。
反射よりも先に、肉体が稼働した。
二本の魔剣を以て、スパーダはイタンシンの攻撃を受ける。
「ぐぅあ!?」
たがそれでも、スパーダは後方へ吹き飛ばされた。それほどまでに、イタンシンの攻撃は凄まじい。
「はぁ……はぁ……!!」
危ねぇ……けど、今のは運良く受け切れただけだ。次も上手く捌ける保証は無い……。
『おいスパーダもっと気張れ!! なーにいいようにやられとるんじゃ!!』
「こっちだって好きでやられてるワケじゃねぇよ!!」
好き勝手な言葉を浴びせるゼノに一抹の苛立ちを覚えるスパーダ。
「つーかゼノ。アイツが魔王幹部ってんならお前の元部下だろ。何か弱点とか無いのか?」
『知らん!! 言ったじゃろ儂は昔のことは何にも思い出せん!!』
「使えねぇなぁクソ魔王がぁ!!」
『何じゃとぉ!? 今何と言ったお前ぇ!! クソって言った方がクソなんじゃぞ!! このクソォ!!』
相も変わらず罵り合うスパーダとゼノ。
傍から見ればスパーダが一人大声で叫んでいるだけであり、周囲から見れば奇怪な光景だ。
「愚かだな」
「あぁ?」
その光景を見ながら呟くイタンシンを、スパーダは見る。
しかし、イタンシンはスパーダが一人で叫んでいることを「愚か」と称したのではない。
「その魔剣に憑いている幼女が魔王だと? 笑わせるな」
「はぁ!? 何とぶれーな奴じゃ!! 殺すぞお前!!」
スパーダと言い合いをしていたゼノだが、イタンシンの発言が頭にきたのか、実体化し彼を睨み付けた。
そういや……前に戦った魔王幹部ルオード、アイツもゼノのことを魔王じゃないって言っていた。一体どういうことだ……?
ルオードの発言を思い出したスパーダは、頭の奥に追いやっていた疑問が再燃する。
「大体何を根拠に儂が魔王じゃないと言っとるんじゃ!! しょーこを見せろしょーこを!!」
そんな彼を他所に、ゼノはビシッと指を差す。
「俺は魔王であるゼノ様に忠誠を誓い、ゼノ様のために生き、ゼノ様のために尽力している。その俺が見て、お前はゼノ様では無いと言っている……これ以上の理由がいるか?」
「いるわ阿呆が!! 何のしょーこにもなってないじゃろうが!!」
堪らずゼノは声を上げる。
無理も無い、確かにイタンシンの言っていることは何の根拠も無いことであり、どう受け取っても証拠足り得ていない。
だが、彼にとっては確証に足り得ており、彼の中でゼノが魔王ではないという結論は帰結しているのである。
「他の魔王幹部が見ても、俺と同じことを言うだろう」
「かぁー!! よもやこの儂をそこまで侮辱するとはのう!! 覚悟はできてるんじゃろうなぁ!? ならお前を屈服させて儂が魔王だと認めさせてやるのじゃ!! 行くぞスパーダ!!」
ゼノは再び実体化を解除し魔剣の中へと潜る。そこでスパーダの思考は中断した。
……そうだ、落ち着け俺。今はあの魔王幹部に対処することだけに集中しろ! 余計なことを考えてたらそれこそ死ぬぞ……!!
そう思い直したスパーダは、魔剣の柄を強く握りしめる。
つっても……どうすりゃいいんだよこんなバケモン相手に……!!
しかし、すぐさま現実問題という名の無慈悲な壁が立ちはだかったのであった。
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小話:
現在状況
セコノミヤ公園
→スパーダ&ゼノ、イタンシン戦闘中
『スワロウズドリーム』外
→フィオネ気絶。
エリーザ、サイカ、バーガンディ、ユナ生存。
『スワロウズドリーム』第二会場
→ゾイ、フーガ、ツンドラの命令で離脱。
『スワロウズドリーム』外
→ローラ、ラエル、グラコス(右目失明)、ムオー&バーガー死亡。
『スワロウズドリーム』地下
→シェイズはイルミを救出。安全な場所へ向かう。
→サシタは縮小したオークション品を馬車に載せ検問所へ向かう。
→リンゼ、ウーリャ、エルが戦いに勝利、ボルカノは生き残り戦線離脱。