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第五十八話 『大オークション』三日目 その22

「サイカさん!! てのひらで対象に触れることが相手の魔法発動条件です!!」

 

 バーガンディは叫ぶ。

 彼はフィオネが『触れたものに磁力を付与する』という予想を立てていたが、三度フィオネと戦闘を交わし、必ず彼女が掌で触れたことからそう確信した。


『承知』


 サイカたちは口を揃え答える。


「はっ!!」

「ふん!!」

「はぁ!!」

「っ!!」


 このメイド、一人でも厄介だがこの数は……中々に分が悪い。


 そう思うフィオネだが、次の瞬間に彼女は思う。


 ――だが、それだけです。


 彼女はサイカたちの攻撃を的確に捌いていく。ただの体術においても、彼女は相当な実力の持ち主だ。次々と飛び出してくるサイカを制圧していく。

 

「私があの魔法に依存しているだけと思いましたか?」


 その場に倒れ、死に絶えるサイカの分身たちを見下ろしながらフィオネは言った。


 これ以上この分身に対応するのは面倒ですね。


 そう考えたフィオネは分身の一体に触れる。


「【届かないこの想い(ラブ・マグネット)】」

 

 彼女は自身に付与していた極を解除し、サイカに極を付与した。そしてその極はS極、バーガンディとは違う極だ。

 必然的に、倒れ伏していたサイカの分身たちとバーガンディは引き寄せ合う。そして彼らは密着し、互いに身動きが取れない状態となった。


【届かないこの想い】の効果範囲に制限はありますが、少なくともこれで私がエリーザと魔剣を確保する間、奴らの動きは制限される。メイドの本体がこちらに向かってきたとしても問題ありません。


 約十メートル先を走るエリーザを見据え、フィオネは思考する。


「まだ、です」

「……哀れですね。その状態で何をしようと言うのですか?」

「はは、サイカさん」


 バーガンディは密着しているサイカの名を呼ぶ。すると、大量にバーガンディにくっついていたサイカが焼失した。


 魔法を解除し、分身を消したことで身軽になったか。ですが……、


「一人残っていますよ?」

「それは仕方ありません。本物は消えませんから」


 ニッコリと、バーガンディは笑う。


「その状態で私と戦うと? そもそも私に接近すること自体が困難だと思いますが」

「そうかも、しれないですね」


 ……何だ?


 ここで初めて、フィオネは奇妙な感覚に苛まれる。

 それはまるで喉に魚の骨が引っ掛かったかのような不快感にも似たものだった。


 いや、何を動揺しているんだ私は。問題の敵は私の魔法で密着状態、エリーザと魔剣を手に入れるための障害は全て取り除いた。

 問題ない、問題ない。


 邪な思考を振り払い、フィオネはエリーザの背中を追った。

 即座にエリーザとの距離は約二メートルまでに縮まり、背後のバーガンディとの距離は離れていく。

 全てが決しようとしていた。


 ――その時、


『勝った』


 フィオネには届かない声で、バーガンディとサイカは呟いた。


「っ!?」


 フィオネは目を見開く。

 その理由は目の前にいたエリーザが突然横に跳躍をしたからだ。


「は……?」


 そしてエリーザが一瞬視界から消えたことで、フィオネの目にあるものが目に入る。それはフィオネに向かい走るサイカであった。


 何故、あの女がいる? あの女は後ろに……。


 チラリと、フィオネは後方に目をやる。そこには、


「っ!!」


 密着していたはずの本物であるサイカが消え、身軽となったバーガンディがいた。


 アレも分身……!? 他の分身が消えたことで奴にくっついていたのが本体だと思い込んでいた……!!


 そして彼もまた、フィオネに向かい距離を詰めるべく、走る。

 二人の行動の意図が、フィオネには見えない。


 両者ともこちらに接近……何を考えている? そんなことをすれば【届かないこの想い】によって引き寄せ合い密着するだけ。


 フィオネが考えている通り、現状サイカとバーガンディには彼女の魔法によって磁石のように互いを引き寄せ合っている。

 ……そしてサイカとバーガンディを点とした一直線上、そのほぼ中央に、フィオネはいた。


「っ!?」


 気付くフィオネ、だがもう遅い。


 強化魔法を発動したまま勢いよく駆け出し、助走をしたサイカとバーガンディ。

 そんな二人は【届かないこの想い】の効果範囲内に入った。


 ビュン!!


 瞬間、音が置き去りになり、二人とフィオネの距離が一メートルにまで迫る。

 

 マズい!? 【届かないこの想い】を解除……いや間に合わな……っ!?


 バキィィィィ!!


 フィオネの両頬に、それぞれサイカとバーガンディの拳が直撃した。


「がぁ……あぁ……!!」


 白目を向くフィオネはそのまま地に膝を付く。


 やられ、た……まさか私の魔法を逆に利用するなんて……。

 そうか……全てはこの状況を生み出すために……。


 フィオネの考える通りであった。


 建物の上を移動するバーガンディはエリーザたちの乗る馬車を先回りすることができていた。

 彼は事前にナイフで地面を抉って穴を作り、更に馬車の後方からナイフで牽制を掛けることでその穴に馬車を誘導したのだ。

 結果として馬車は激しく揺れ、フィオネの意識が逸れる。そこを利用してエリーザは魔剣を外に放り出したのである。

 

 魔剣を放り出したのはフィオネを馬車の外に出すため……もっと正確に言えば、建物による死角と直線距離にして数百メートル以上あるこの街道に、彼女を引きずり込むためだった。

 これならばバーガンディとサイカは【届かないこの想い】の範囲外、もしくはある程度は動けるくらいの距離を保つことも、建物による死角から不意の攻撃を繰り出すことも可能だった。

 しかし、真の目的はそこではない。

 これら全てはフィオネを誘導するための布石である。


 エリーザの奪還が目的であるとフィオネに認識させ、手加減をして戦闘を行い、サイカとバーガンディは【届かないこの想い】が異極で設定されている状態で、互いの距離をフィオネがほぼ中央の位置となるよう調節した。


 後は油断しているフィオネに向かい走り出すのみ。

【届かないこの想い】の効果範囲内に入るまでの助走と、磁力の引き寄せ合う力が加わり、凄まじい速度を生み出した。

 引き寄せ合う力に抵抗していた彼らだが、身を委ねればそれは大きな力となる。

 二人に挟まれるような位置にいたフィオネは、意図を察することができず反応が遅れ、サイカとバーガンディの拳が直撃したのである。


「イタンシン……様」


 自らが敬愛する者の名を呟き、フィオネは倒れた。

 約十数秒にも満たない戦いを制したのは、サイカとバーガンディであった。


「良かった。上手くいったわね」


 フィオネの隣で、地面に座っていたエリーザは立ち会がり、膝の汚れを払う。


「私は不本意でしたよ。ここまで主を危険に晒すなど、執事失格です」


 やれやれといった様子で、バーガンディは言う。


「私の命令よ。何も悔いる必要は無い。称賛したいくらいだわ」

「そういう問題では無いのです……全く、どこまで想定していたんですか?」

「相手の魔法から、狭い会場よりも外ならやりようはあると思った。後はあなたたちのやろうとしていることに動きを合わせようと思った程度ね。それ以上は特に考えなかったわ」

「はは、にわかには信じられませんね。貴方がそのような」

「あら、心外……と言いたい所だけど事実ね。私は常に安全圏で合理的な策を一から十まで張り巡らせる」 


 エリーザはそこで一度言葉を途切れさせる。

 確かにエリーザの言う通り、これまでの彼女であればそうしただろう。


「ただ……」


 だが、今の彼女は『違う』。


「『信じる』というのも、悪くないと思ったのよ」


 今の彼女には、愛する未来の夫からの『信じていた』という言葉があった。

 それは深く彼女の心に刺さり、根付き、『エリーザ・ヴァロナント』という人間に変化の兆しを与えていたのである。

いよいよようやく次回主人公のスパーダが再登場です(何話振りかは怖くて数えてません)


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◇◇◇

小話:

現在状況

セコノミヤ公園

→スパーダ&ゼノ、イタンシン交戦開始

『スワロウズドリーム』外

→フィオネ気絶。

 エリーザ、サイカ、バーガンディ、ユナ生存。

『スワロウズドリーム』第二会場

→ゾイ、フーガ、ツンドラの命令で離脱。

『スワロウズドリーム』外

→ローラ、ラエル、グラコス(右目失明)、ムオー&バーガー死亡。

『スワロウズドリーム』地下

→シェイズはイルミを救出。安全な場所へ向かう。

→サシタは縮小したオークション品を馬車に載せ検問所へ向かう。

→リンゼ、ウーリャ、エルが戦いに勝利、ボルカノは生き残り戦線離脱。

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