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第五十七話 『大オークション』三日目 その21

なんとこれが150話目です。

※矛盾点があったためある部分を削除しました。本筋は全く変わりませんのでご容赦ください。

「エリーザさん。こうなってしまっては仕方がありません。あなたを利用させてもらう」


 そう言って、フィオネはエリーザを自分の方へと引き寄せるために、手を伸ばす。

 その時だった。


 ガコッ


「きゃあ!?」


 歪な音がした直後、馬車が揺れる。運転をしていたユナは驚いたように声を上げた。

 瞬間、エリーザは隣に立て掛けてあり、馬車の出入り口に一番近い位置にあった魔剣を掴んだ。


「っ!!」


 そして扉を開け、彼女は魔剣を持つと力任せに馬車の外へと放り出す。

 激しい衝突音が鳴り、魔剣は地面に転がった。


「……どういうつもりですか?」

「はぁ、重たいわねアレ。あと少し重量があったら投げられなかったわ」

「人が下手したてに出ていれば……どうやら何か思い違いをしているようですね」


 平然とした態度を崩さぬフィオネは、エリーザの服の襟首を掴み、持ち上げた。


「あなたの権力は相当なもの。それは理解しています。ですが、ことこの状況において……物事を進める指針は肉体に依存する力。その点に関して、あなたは私より圧倒的に格下にいます。いいですか? 私はあなたの提案が私の目的の遂行確率を上げると判断したまで。提案に乗ったのではなく……乗ってあげたのです」


 襟を掴むフィオネの手に、更に力が籠る。


「馬車を止めなさい」

「え?」

「止めなさい」

「は、はいぃ!!」


 少し怒気が入っているフィオネの声に圧されたユナは、馬車を停止させた。


「あの剣を拾い、再び馬車に乗り、検問所へと向かう。あなたに拒否権はありません、エリーザ・ヴァロナント。さぁ、行きますよ」


 そう言って、フィオネはエリーザの背後に回り、彼女を拘束しながら馬車を降りる。そうして三十数メートル先に落ちている魔剣に向かい足を動かした。


「……」


 だが、先に魔剣へと到達しそれを拾い上げる女が現れる――サイカだ。

 魔剣を持ったサイカと、エリーザを拘束しているフィオネの双眸が交錯する。


「その魔剣を離しなさい。さもなくば、ここでエリーザ・ヴァロナントの首が飛びます。勿論、比喩ではありません」 


 フィオネは自身の指先をエリーザに当てた。


「そんなことをすれば、コレを破壊します」


 サイカは脅しを掛ける。だが、


「無駄です。そんなことはあなたも理解しているでしょう?」

「……」


 フィオネの問いに、サイカは無言。

 それは勿論、図星だったからに他ならない。

 先ほどユナが魔剣を壊そうとした際フィオネが動揺したのは、彼女が相手の行動を止めるだけの材料を何一つ持っていなかったからだ。

 しかし今は違う。彼女はエリーザ・ヴァロナントという三大貴族の命を握っている。


 だが言ってしまえばサイカはエリーザの護衛ではない。彼女はスパーダのメイドだ。

 実の所、彼女にとって魔剣の優先度はエリーザよりも高い。

 

 ……が、サイカは知っている。

 彼女が死ねば、スパーダが悲しむこと。彼が誰一人として犠牲になってほしくないと願っていることを。


 故に、サイカはエリーザの命が失われるのを看過することが、度外視することが、無視することができない。

 主に大切な人を失わせる辛さを味あわせたくない、それが従者としてのサイカの意思であった。


「さぁ、剣を置いて立ち去りなさい。安心しなさい。私が無事にこの都市から脱出できた時点で、この女は解放します」


 そう言って、フィオネはエリーザと共に歩く。


「……」


 彼女の言葉に従うように、サイカはゆっくりと魔剣を地面へと置いた。そして、


「っ!!」


 踵を返し、勢いよく走りだす。

 その意味を、フィオネは即座に理解した。


 ビュン!!


 何かが風を切る音がする。それはフィオネの背後から。


「やはり、そういうことですか」


 後ろ振り返るフィオネはそう呟き、自身に向かって放たれたナイフのつかを持ってそれを受け止めた。


 現在あの男と女には私の【届かないこの想い(ラブ・マグネット)】が発動し、互いを引き寄せ合う関係にある。

 これに対応するには互いが磁力の作用しない距離を取り続けるしかない。

 作用しない距離……これは凡そ五十数メートル。

 この条件下で私と戦闘を行う方法は二つ。

 一つはこの投擲されたナイフのような遠距離攻撃を行うこと。

 そしてもう一つは……

 

「ふん!!」

「はっ!!」


 バーガンディとフィオネの腕が絡み合い、近接戦闘が繰り広げられる。


「どちらかが距離を取り、もう一方が私に接近する。有効な手段です」

「サイカさんが走り出した段階で見抜かれていましたか。惜しいですね」

「もう諦めなさい。あなた方に勝ち目はない」

「そうですかね。少なくとも、今この状況は想定通りですが」


 そう言ってバーガンディはフィオネの後ろをチラリと見る。

 釣られるように、フィオネも後ろを見るとそこには全力疾走で駆け出したエリーザがいた。


「なるほど、あなたは囮。私があなたに対応している間に距離を取ったあの女に保護してもらう算段ですか」


 すぐに敵の狙いを見抜いたフィオネ。


「そんなこと、させるわけが無いでしょう」

「ぐっ!!」


 彼女はバーガンディの腹部に蹴りを入れる。しかし彼はそれに耐え、フィオネをエリーザの元に行かせまいと攻撃を繰り返す。


「……しつこいですね」


 そんなバーガンディに苛立ちを見せるフィオネ。

 彼女は現状の【届かないこの想い】を解除し自身にN極、触れたバーガンディにも同じ極を付与した。

 

「うっ、おぉ……!?」


 同極の物質は反発し合う。フィオネの突然の切り替えに為す術も無くバーガンディは後方へと吹き飛ばされる

 こうして、バーガンディを処理したフィオネは走るエリーザに向き直った。


「先ほども言ったはずです。あなたはタダの権力者。速さで私に勝てるわけが無いでしょう」


 フィオネの宣言通り、彼女は数秒も経過せぬ内にエリーザの元に到達する。

 その時である。


『はっ!!』


 大量のサイカが、建物の死角から現れフィオネに襲来した。

 

 あの女の分身……なるほど、恐らく磁力が作用している圏内でもある程度自由に動ける距離で待機していた所を、引き寄せられる感覚が消失したことから私が魔法を解除したと判断し攻めてきましたか。


 冷静に分析するフィオネなど知ったことではないといった風に、サイカたちは彼女へ攻撃を繰り出した。


「全く以て理解しがたい。こんなことをしても私を止めることなどできはしないです」


 呟き、フィオネはサイカたちに対し迎撃の構えを取る。


「さぁ……、正念場です」


 そんな中、その様子を見ていたバーガンディはそう呟いた。

  

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◇◇◇

小話:

現在状況

セコノミヤ公園

→スパーダ&ゼノ、イタンシン交戦開始

『スワロウズドリーム』外

→魔剣とエリーザを巡ってフィオネVSサイカ&バーガンディ。

 ユナは馬に乗ったまま

『スワロウズドリーム』第二会場

→ゾイ、フーガ、ツンドラの命令で離脱。

『スワロウズドリーム』外

→ローラ、ラエル、グラコス(右目失明)、ムオー&バーガー死亡。

『スワロウズドリーム』地下

→シェイズはイルミを救出。安全な場所へ向かう。

→サシタは縮小したオークション品を馬車に載せ検問所へ向かう。

→リンゼ、ウーリャ、エルが戦いに勝利、ボルカノは生き残り戦線離脱。

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