第五十三話 『大オークション』三日目 その17
お待たせしました。
『スワロウズドリーム』外
エリーザがフィオネとユナを相手に交渉をしている最中、グラコス・ラエル夫妻はムオー、バーガーと戦闘を繰り広げていた。
さぁてと、ハニーにはもう片方をやってくれなんて言ったが、実際の所……その必要はねぇんだよなぁ。
矢を握りしめ、グラコスは眼前にいる二人を見据える。
敵との距離は十分に離れてる。つまり、遠距離攻撃専門の俺が圧倒的に有利な状況。
【二重矢】はさっきので使い切っちまったが、これなら【追尾矢】で十分。
一方的に追尾する矢で二人まとめて攻撃、殺してやる。
「おらよぉ!!」
グラコスは五本の矢を【追尾矢】にし、同時に放った。
さっきよりも追尾の精度と威力を上げた。攻撃で掻き消そうとしても当らねぇし、ヌルい防御じゃ貫通するぜ!!
「バーガー」
「はーい、よっと」
だが、対する余裕綽々出した風にバーガーへと声を掛けた。
そして次の瞬間、
「【巨大化】」
バーガーの手がとてつもない大きさへと変貌を遂げた。
そして巨大化したそれは、広大な掌で【追尾矢】が避ける暇とスペースを与えなかった。
よって、矢は全てバーガーの掌に突き刺さる。
「うー、チクッてする……」
嫌そうな顔でバーガーは呟いた。
「マジか」
ほぼ同時に、少しだけ面食らったグラコスも呟く。
手を巨大化させる能力……いや、巨大化出来んのは手だけとは限らねぇ。
それよりも問題なのは巨大化したことによる皮の厚さだ。
俺の【追尾矢】を食らったにも関わらずかすり傷程度にしかなっていやがらねぇ。
「ダリィのが来やがったなぁ」
「どーするダーリン?」
ラエルは首を傾げながらグラコスに聞く。
「ま、やることは変わらねぇさハニー」
なにも俺の攻撃が完封されたワケじゃねぇ。つけ入る隙はまだ余裕である。
そう考え、グラコスは方針を変えることはしなかった。
先ずはアイツらを分断させて、手をデカくした奴にラエルを当てさせる。
そのために……【追尾矢】!!
ビュン!!
再びグラコスは複数の矢を同時に放つ。
「バーガー、さっきアイツは矢と隣にいる女の位置を入れ替えた。気を付けろ」
「りょーかい」
ムオーの伝達にバーガーは頷いた。
この時、ムオーはグラコスの【反転矢】がラエル以外とも位置の入れ替えを行うことを可能性として考慮していたが、あえてそれをバーガーに伝えなかった。
その理由は単純であり、仮にグラコスが矢とラエル以外の位置、もしくはラエルと矢以外の物体の位置を入れ替えることが可能であったとしても問題ではないからだ。
周辺にある物体は植林や小石、ゴミ箱。ラエルのような攻撃力は無い。
多少意表は突かれるかもしれないが、それだけ。
今、ムオーにはバーガーという味方がいるからだ。
対処も、攻撃も、先ほどムオー一人で行っていたことが二人で可能になっている。
その事実は、ムオーが自分たちの勝利を裏付ける確固たる自信になっていた。
飛来する複数の矢、それらは規則性の無い軌道を描き、ムオーたちを襲おうとする。
一、ニ、三……。
そんな中、ムオーは何かを数えていた。
「【巨大化】」
バーガーは再び手を巨大化させ、到達する矢を薙ぎ払うようにしてムオーを守った。
ビュン!!
そのコンマ零点一秒後、一本の矢が死角からムオーに襲い掛かった。
「あ……」
再びムオーを守ろうとするバーガー、しかし問題があった。
それは角度。
バーガーは放射中の矢を無理やり自身の手で払うことで、回避軌道を取る前に矢を潰していた。ムオーの前に自身の手を置き防御態勢を取ったとしても、矢が軌道を変更してしまうからだ。
グラコスが一本だけ軌道を変えて操作している矢は、もしバーガーが【巨大化】で払おうとすれば当のムオーも弾き飛ばしてしまう角度でムオーに向かっている。
そしてついコンマ零点一秒前にバーガーは【巨大化】で矢を薙ぎ払った。
それが、彼の反応を一瞬だが確かに遅らせた。
しかし、
「【酸泉】」
振り向き様に、ムオーは酸を吐く。
良かったぜ。てめぇが矢を放つ直前に本数を数えておいて。案の定、無軌道に矢を動かし、暗がりの中その内の一本を別で操作、バーガーが矢を払えない角度で俺に向かわせる。悪くない作戦だが、残念だったな。この状況、てめぇらの目的が俺とバーガーを引き離すことなのは想像がつく。そこから考えれば容易に分かることだ。
もうお前の策は通じない。仮にここで矢と女の位置を入れ替えたとしても、女は俺の酸で死ぬ。
グラコスの策を看破し、完璧な対応をしたことを確信したムオーは嗤う。
「……良かったぜ。てめぇがしっかり考えてくれる奴でよぉ」
そこで、グラコスは笑った。
「何……!?」
瞬間、ムオーの目の前で、それは起こった。
彼の眼前にあった一本の矢が、二本に分離した。
正確には、矢の先端から真っ二つになった。
グラコスは矢を放つ直前、一本の先端に切れ込みを入れていた。そうすることで、その矢は複数という認識になり、グラコスが別々の軌道を思い描くことで、分離したのである。
分離した内、ムオーに迫った方は彼の【酸泉】によって溶かされる。だが、もう一本は、
「あー?」
隣にいるバーガーへとその軌道を変え、ムオーの魔法を回避した。
「くっ!! バーガー!!」
「うん」
だがバーガーには【巨大化】した手がある。そして角度的にもスペース的にもムオーが被害を受けることも無い。だからそのまま腕を振り抜けば良いはずだったのだが、
「【反転矢】」
当然、易々とそれをさせるグラコスではない。
彼はバーガーが腕を振り抜く直前、彼に迫る矢とラエルの位置を入れ替えた。
「ちぃっ……!! この状況、やはりそうするか……!!」
突如として現れたラエルに、ムオーは苛立ちの声を上げる。
クソが……!! これじゃあ【酸泉】がバーガーにも当たるから撃てない!!
「ふん」
ムオーが苦渋な表情を見せる中、バーガーは巨大な手を前に出し、ラエルの攻撃に備えた。
「デカいから、少し強めにいくよぉ!! 【エルフ式武闘術】、【羽蹴る】!!」
「んぅ……!!」
ドッゴォォォォォォォォン!!
凡そ肉と肉がぶつかった音とは思えぬ音が鳴り響き、衝撃波が走る。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
「おぉぉぉぉぉ」
互いの声が交差する中放たれたソレは、近くにいたムオーを吹き飛ばすには十分であった。
「痛ったいなぁ。ビリビリする」
先ほどのグラコスの矢とは違い、ラエルの物理的攻撃はバーガーの分厚い手の皮と筋肉にしっかりとしたダメージを与えていた。
不快そうな顔をするバーガーを、ムオーは怪訝な表情で見つめる。
マズい、さっさとバーガーの元へ……!?
「行かせると思うか?」
グラコスが牽制するように放った矢に、ムオーは苛立ち声を上げた。
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小話:
現在状況
セコノミヤ公園
→スパーダ&ゼノ、イタンシン交戦開始
『スワロウズドリーム』第一会場
→サイカ&バーガンディ行動不能。
→フィオネ、ユナ、エリーザ検問所へ向かう。
『スワロウズドリーム』第二会場
→ゾイ、フーガ
『スワロウズドリーム』外
→グラコス&ラエル、ムオー&バーガー交戦中
『スワロウズドリーム』地下
→シェイズはイルミを救出。安全な場所へ向かう。
→サシタは縮小したオークション品を馬車に載せ検問所へ向かう。
→リンゼ、ウーリャ、エルが戦いに勝利、ボルカノは生き残り戦線離脱。