表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

145/170

第五十二話 『大オークション』三日目 その16

【火炎球】は火属性の魔法の中で基礎中の基礎であり、火属性の魔法特性を持つ者はまずこの習得を目指す。

 そして基礎魔法の熟練度で、使用者の力量を図ることができる。

 大抵の者であれば【火炎球】の威力や放射速度は凡庸の域を出ない。しかしAランクやSランク冒険者ともなれば、本当に基礎魔法なのかと錯覚するレベルの威力、放射速度のモノを放つ。


 そんな中で、ウーリャの【火炎球】は特段優れているワケではない。それは他の攻撃魔法でも同様である。

 では何故そんな彼女がSランク冒険者となり、Sランクパーティーである【竜牙の息吹】に加入することができたのか。

 それはひとえに彼女の付与魔法の才能に起因する。

 魔力強化という一点に関して、ウーリャはずば抜けた才能を持ち合わせていた。だが自己評価がとにかく低い彼女はその才能に無意識なストッパーを掛けている。

 

 ――分かるだろうか。

 ストッパーを掛けた状態でさえ、彼女はSランク冒険者となったのだ。そのストッパーが無くなれば……。


 何だあの火の魔力濃度は……!? この通路全体を燃えつくす気か!? だが、そんなことをすればお前の仲間もタダでは済まないぞ……!?

 

 ボルカノがそう思うのも当然であった。ウーリャが放とうとしている火炎球の攻撃範囲は間違いなくこの通路を埋め尽くすほどのもの。

 それを放つということは、通路内にいるリンゼとエルもその餌食えじきになるということに他ならない。


「「っ!!」」


 だが、違う。

 ボルカノがウーリャの方に目をやった一瞬の隙に、殺されそうになっていたリンゼ、そして動きをあぐねていたエルはすべきことを定めた。

 ウーリャと同じパーティーに所属し、彼女を見て来た者たちだからこそ……彼女の強さに助けられ、彼女の強さを信じていた彼女たちだからこそ、動くことができた。


「っ!?」


 反応が遅れた!!


 リンゼとエルが動き始めたことに、そんな感想を抱くボルカノだが、直ぐに次の感情に心が支配される。


 待て、だとしてもこの状況でどうするつもりだ? 防御魔法を展開する? いや、あの女の魔法は間違いなく俺を倒すためのモノ、この狭い通路で防御魔法を展開することは俺も守ることも意味する。

 なら次に考えられることはこの場からの離脱だが、それも考えにくい。この状況で逃げ場は無い、扉はいくつかあるが、扉の前まで行きドアノブに手を掛け扉を開けるという作業を完了するまでに魔法はこちらに届く。

 ――つまり、コイツらは自分たちを犠牲にして、俺を殺すつもりなのだ。


「舐めるな……!!」


 ボルカノは【血行迅巡】を解除する。そして、


「【血壁ウォール】!!」


 腕から放出した血液を凝固させ、自身の体を守れる程度の面積の壁を目の前に形成した。

 リンゼとエルはボルカノの前方にいるため、ボルカノが防御魔法を使用しても彼女たちはウーリャの攻撃を食らうという寸法である。


 これで死ぬのはお前たちだけだ……!!


 だが、直後に彼は思う。

 

 待て、初めから自分たちを犠牲にするのが前提ならば、何故コイツらは動く必要があった?


 そう、ボルカノの考え通りであれば、リンゼやエルは動く必要が無い。であれば何故彼女たちは動くのか……そこには当然、彼の思考では到達できなかったがある。


「「っ!!」」


 意を決したように、リンゼとエルはそれぞれが左右へと跳躍した。だがそこには当然壁がある。

 彼女たちはそれを……。


 ドゴォォォォォォォォォン!!


 破壊した。


「何っ!?」


 想像の範囲外のリンゼたちの行動に、ボルカノは目を見開く。

 だが考えてみれば、理に適った行動である。

 リンゼたちがいる場所は通路であり、左右にはいくつもの部屋がある。つまり、壁を破壊すればそこにはがある。そこに入ることさえできればウーリャの通路を埋め尽くすほどの【火炎球】を回避することが可能だ。


 ボルカノはそれに気付くが、もう遅い。

 リンゼとエルが左右の部屋に無理やり入った直後、ウーリャの【火炎球】は無慈悲に放たれた。

 

 ボオォォォォォォォォォォン!!!


「ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 凄まじい熱と衝撃に、ボルカノは叫ぶ。

【血壁】の凝固を更に強め、破壊された傍から更に血液で補強していく。


 そうして約十秒後に、ウーリャの攻撃は終了した。

 通路の床、壁、天井全てが黒く焦げ散らかし、鼻をまみたくなる匂いが辺りに充満、ボルカノがいた位置には煙が立ち込めていた。


「や、やった……?」

「……」


 そんな中、左右の部屋に滑り込むように入ったリンゼとエルは通路側に目をやった。

 数秒が経ち煙が晴れる。彼女たちは武器を構え、緊張の糸を張り直した。


「嘘……でしょ」

「化け、モノ」


 そうして目に入った光景に、二人はそんな声を漏らす。


「はぁ……ぁぁ……はぁ……はぁ」


 無理も無い。

 何故なら、そこには服が燃え、肌が焦げただれたボルカノが息をして生存していたのだから。


「……」

 

 意識が、飛びそうだ。

 体が震える……言う事を、聞かん。

 くっ……、今ので血液を消費し過ぎた……。これ以上血を消費するのは、マズい。

 ――相手の行動を読み切れなかった、俺の負けか。


 ボルカノは、十数メートル先にいるウーリャを朧げな目で見つめる。


「ははっ、面白いものだな。世界にはまだ……団長以外にも、見るべき者がいるという訳か」


 そう呟き、ボルカノは体内に残った血液で【血行迅巡】を発動。そうして最後の力を振り絞るように、踏み出した。


 ……まだ来る!!


 ウーリャは真っすぐ自分に向かってくるボルカノに対し応戦するため魔力壁を展開。そしてもう一度自身への付与魔法を発動しようとする――だが、


「ふんっ!!」


 ボルカノの行動はウーリャへの行動では無く、斜め上のモノであった。

 彼はウーリャ展開した魔力壁を含めウーリャを飛び越し、そのまま走り逃げ去っていったのだ。

 残存した血液で、ボルカノが取ることのできる最適解である。


「あ!?」


 振り返り魔法を放とうとするウーリャ、しかし【血行迅巡】状態のボルカノはすぐに彼女のいる通路から姿を消してしまったのである。


 逆方向に逃げれば、先程逃がした剣士と鉢合はちあわせになる可能性があるからな。逃走を図るならこっちだ。

 ……それにしても何年ぶりだろうな。命が惜しいと思うようになったのは。


 走りながら、自身に抱いた感情にボルカノは心躍る。


 今回の作戦での俺の役割――最早、どうでもいい。それにサシタならもう逃げれただろう。

 そんなことよりも……今はこの体に滾る熱を大事にしたい!!

 また戦おう、少女たちよ!!


 食らったダメージと、血液が沸騰する感覚に頭をやられそうになりながら、ボルカノは強くなりたいという想い、強くなるために生きていたいという生への執着心に駆られ……笑いながらその場を去っていったのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます!

よろしければブックマークや感想、広告の下にある【☆☆☆☆☆】から評価していただけると大変作者の励みになるのでぜひお願いします!!

お気に入りユーザ登録をしていただけると更に舞い上がります!

◇◇◇

小話:

現在状況

セコノミヤ公園

→スパーダ&ゼノ、イタンシン交戦開始

『スワロウズドリーム』第一会場

→サイカ&バーガンディ行動不能。

→フィオネ、ユナ、エリーザ検問所へ向かう。

『スワロウズドリーム』第二会場

→ゾイ、フーガ

『スワロウズドリーム』外

→グラコス&ラエル、ムオー&バーガー交戦開始

『スワロウズドリーム』地下

→シェイズはイルミを救出。安全な場所へ向かう。

→サシタは縮小したオークション品を馬車に載せ検問所へ向かう。

→リンゼ、ウーリャ、エルが戦いに勝利、ボルカノは生き残り戦線離脱。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をポチっと押して

いただけると作者への応援となります!


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ