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第五十一話 『大オークション』三日目 その15

『スワロウズドリーム』地下

 サシタがあっさりとイルミをシェイズに渡したのとほぼ同時刻、同じく地下では命のやり取りが繰り広げられている。


「ふんっ!!」

「くっ……!?」


 ボルカノの【血刃ブレイド】による猛攻に、リンゼは苦し気な声を上げていた。


 なんて硬いの!! クルシュ特製の剣と張り合うなんて……!!


 凝固された血の硬質さに驚くリンゼ。


「その程度か」


 キィィィン!!


 高い硬度を誇る武器同士がぶつかり合うような音を響かせ、ボルカノはリンゼの剣を上方へといなす。

 それによってリンゼの腕が上へと上がり、胴への隙が生じた。


「っ!!」


 そこを見逃すボルカノではない。彼はすかさず斬り込もうと腕を振るう。


 まっずい……!! 防御が間に合わない……!!


「【魔力壁】!!」


 が、リンゼとボルカノの間にウーリャが魔力壁を展開した。


 バキィ……!!


 と言っても、ボルカノの【血刃】の攻撃性は凄まじく、ウーリャの魔力壁を破壊する。だが時間は稼げたことでリンゼは距離を取り、攻撃の回避に成功した。


「【暗澹祷廻あんらんじゅかい】!!」


 そしてすかさず、リンゼはボルカノに向かい暗黒の刃を振るう。


「ふんっ!!」


 しかし、ボルカノはもう片方の腕からも【血刃】によって凝固された血液の刃を発生させ、両腕に生じた二本の刃でリンゼの攻撃を受け止める。


 ぐっ!! 暗澹祷廻を受け切るなんてぇ……!!


「良いな。闇属性の魔法とそれに甘んじない剣技が為せる技だ」

「褒められたって嬉しくないよ!!」


 ボルカノからの称賛にリンゼは剣の柄を握り締めた。


 この人、パワーは昨日のデカい人ほどじゃないけど、それをあの血の魔法で完全にカバーしてる。色んな意味で、昨日よりやりにくい!!

 けど、勝てないワケじゃない。昨日できたあのを、ちゃんとぶつけられれば……!!


 昨日のドンドフとの戦いで、リンゼは【闇黒一刀堕あんこくいっとうだ】という技を放った。

 だがこの技はまだ不完全。精度も威力もムラがあり、昨日のように高いものが放てるとは限らない。


「……」


 ボルカノという強敵を前に、恐らく隙を生じさせ【闇黒一刀堕】を放てるチャンスは一度のみ。それを失敗すれば、彼は警戒を更に強め当てることはできないだろう。


 一度のチャンスで、一度しか使用したことの無い技を、最高の精度・威力で放つ。

 相当に難儀なことであるが、やるしかない。


 思考するリンゼに対峙するボルカノ。彼もまた、この局面での最適解を導き出そうとしていた。


 このままでは戦いが間延びする。剣士の女との戦闘は旨味が無い。ここは……、


「っ!?」

「お前だな」


 そう言ってボルカノが目を付けたのは支援役を務めていたウーリャだった。

 適切あタイミングでリンゼに強化魔法と魔力壁を展開する彼女を先に潰すのは真っ当な結論と言えよう。


「させないわよ」


 だがそう易々とウーリャを潰させるワケがない。

 ウーリャを守るため、エルは魔法を放つ。


「【一風刺し(サルト)】」


 狭い一方通行の通路上において派手な魔法が放てないのは昨日と同様。

 エルは相手の攻撃を邪魔するに足る魔法を使い、ボルカノの気を削いだ。


 あの女……魔法の放射速度に加え、精密なコントロール。面倒だな。


「仕方が無い。アレをやるか」


 ボルカノは【血刃】を解除する。その光景を前に、リンゼたち三人の背筋には嫌な汗が流れ落ちた。

 この状況で自らの魔法を解除したのだ。何かが起きる、そう考えるのは自然の摂理である。


「【血行迅巡ブースト】」


 瞬間、ボルカノの肉体から謎の蒸気が生じた。そして、


「っ!!」

『っ!?』


 地面を蹴ったボルカノは、何故かウーリャの目の前にまで距離を詰めていた。


「【魔力壁】!!」

「無駄だ」


 バキィィィィィィィィン!!


「が……ぁ!?」


 ボルカノが放った拳は、ウーリャの魔力壁を爽快感のある音で破壊し、いとも容易くウーリャの肉体に到達した。


「ウーリャ!!」

「よそ見をしている場合か?」

「くっ!?」


 通路の奥へと吹き飛ばされたウーリャに駆け寄りたい衝動に駆られるエルだが、そんな暇はない。ボルカノの次の標的はエルなのだから。


 ダメ……!! 魔力壁の展開は間に合わない!! なら……!!


「【閃ノ光(フラッシュ)】!!」

「っ!?」


 エルの魔力特性は二つ。風……そして光だ。

 突如として予期していなかった光に視力を奪われたボルカノは堪らず目を瞑り、エルから距離を取る。


「リンゼ!!」

「うん!!」


 そしてこの機を逃す理由は皆無。ボルカノの視界が奪われた今、攻撃する以外の選択肢は存在しない。

 リンゼは鞘に剣を収めた。


「【闇黒一刀堕】」

 

 そして短く呟き、凝縮されたときの中で彼女は構え、剣を抜く。見据えるはただ一人の、敵。

 地面を抉り、駆けるリンゼ。その刃はボルカノの首を確かに捉えた。


 そんな中、ボルカノが取った行動は……。


「……」


『静』の姿勢、待ちの構え。流れに身を任せるように二本の脚に体重を預けた彼は、微動だにしない。 

 次の相手の攻撃までに自身の視力が回復しないと判断したボルカノ。彼は視力では無く、気配と肌感覚で敵の攻撃を捉えることに全神経を集中させた。


 ボルカノの【血沸血踊血巡ブラッド・パーティー】、その三つ目の技である【血行迅巡ブースト】は体内の血液を高速循環させ、身体能力や五感、反射神経を常軌を超えたものにする。

 この技を使っている際には他の血液の操作はできないため、【血弾】や【血刃】を使用することはできない。だがそれを差し引いたとしても、【血行迅巡】は強力無比な技である。


【血行迅巡】とこれまでの戦闘経験による蓄積値により、感覚が精錬され研ぎ澄まされるボルカノ。

 そんな彼であれば、


「っ!!」

「な……っ!?」


 リンゼの【闇黒一刀堕】をさばくことは、訳も無いことであった。

 圧倒的な反射神経と、それに反応し実際に行動に移せる【血行迅巡】状態の肉体が為せた御業みわざである。


「う、そ……」

「嘘じゃない。これが俺とお前たちの力の差だ」


 信じられないといった表情で唖然とするリンゼに、ボルカノは無慈悲な宣告を下す。


「死ね」


 ボルカノの手刀が、リンゼの首に照準を定めた。


 ――ダ、メ。このままじゃあ……リンゼさんが……。

 

 ウーリャはボルカノの拳を左腕で受ていた。そのため左腕は骨折し、胴体の方にも衝撃が走り、多少内臓にダメージはあるが、死ぬ程度ではない。


 僕は、いつもこうだ……。大切な所で、いつも足が出ない……自分を、殺す。


 そうして、ウーリャは二日前のスパーダとの会話を思い出した。


『お前は自分を変えるんじゃなくて、嫌いな自分と共存しながらも、周りに報いる事を選んだ。おどおどしてて、人目を気にし続けても、それが自分だって……決めた。それを貫く選択をするのもまた、勇気のいることだと思う』

『それに、お前の性格を気にする奴なんて、【竜牙の息吹】にいないだろ。だから、余計なおせっかいだったな』


 スパーダさん、ありがとう。こんな僕を肯定してくれて、こんな僕に優しい言葉を掛けてくれて。

 ――けど、やっぱり僕は……変わりたい。

 きっと全部は変われないし、それは無理だってことは分かる。

 でも……でもせめて、大切な人が死にそうになってる時くらい……周りの目なんて気にせず、手を差し伸べたい……!!


「【付与エンチャント:火炎球(ファイアボール)】!!」

 

 自分自身にしか使えない強化魔法と違い、付与魔法は付与魔法を扱う本人に対しても使用することが可能である。

 そして身体能力を向上させる強化魔法とは異なり、付与魔法はを強化する。

 

 これまで周囲の目を気にし、支援に徹し続けてきたウーリャ。そんな彼女が初めて自分自身に付与魔法を使用した瞬間であった。

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◇◇◇

小話:

現在状況

セコノミヤ公園

→スパーダ&ゼノ、イタンシン交戦開始

『スワロウズドリーム』第一会場

→サイカ&バーガンディ行動不能。

→フィオネ、ユナ、エリーザ検問所へ向かう。

『スワロウズドリーム』第二会場

→ゾイ、フーガ

『スワロウズドリーム』外

→グラコス&ラエル、ムオー&バーガー交戦開始

『スワロウズドリーム』地下

→シェイズはイルミを救出。安全な場所へ向かう。

→サシタは縮小したオークション品を馬車に載せ検問所へ向かう。

→リンゼ、ウーリャ、エルはボルカノと交戦中

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