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第四十八話 『大オークション』三日目 その12

 サイカとバーガンディ、フィオネが交錯し魔剣の取り合いを繰り広げる中、ユナはずっと機会を伺っていた。

 彼女らの目的が壇上の魔剣である以上、どちらに取られてもユナの依頼は失敗する。

 正真正銘、これが魔剣を奪う最後のチャンス。ソレを逃す道理など、りはしなかった。


 サイカがフィオネの魔法によって吹き飛ばされ、壇上の魔剣に近い位置にいたのはバーガンディとフィオネのみ。そして両者は拮抗状態にある。


 ――今だ。


 絶望にして絶好のタイミング。

 恐怖と不安に煽られながらも、ユナは仕掛けを作動させた。それは第一会場の照明機能を全て停止させるというものであり、衆目を欺き時間を稼ぐためのもの。

 会場は煌々と照らされている。そんな状況で突然周囲が暗闇に包まれれば、会場の者たちは視界が慣れるのにある程度の時間が掛かる。


 そしてその思惑通り、バーガンディやフィオネは突然視界が暗くなったことで膠着こうちゃくする。そんな中、暗視ゴーグルを装着したユナはしっかりと魔剣や彼らを補足しながら動くことができていた。


「「っ!!」」


 だが流石と言うべきか、バーガンディとフィオネは目視での確認を放棄し、気配での探知に切り替える。それにより、二人は壇上に現れたもう一つの気配……ユナの存在を感じ取った。


 ここに来て別の勢力? させない……!! っ……!?


 フィオネは魔剣に手を伸ばそうとする。だがそれを阻んだのはバーガンディだ。

 フィオネが微かに吐く息から、彼女の動揺を察した彼は、この状況がフィオネにとっても想定外の事態であることを理解する。

 その情報をもとに彼は思考し、そして結論付けた。


 魔王幹部が率いている組織の者に渡すくらいであれば、ここはそうではない第三者に渡す方がリスクが低い。


 そう考え、バーガンディはフィオネの邪魔をすることだけに力を注ぐ。


 くっ……!! どうする、【届かないこの想い】を解除して剣に触れ、私と剣を磁力で引き合わせる? けどそうした場合、あのメイド服の女性に付けている極を解除することになる。そうなれば数の暴力で私は抑え込められる。

 なら……!!


「【届かないこの想い】!!」

「なるほど……」


 突如として魔剣の方向からきびつを返し、触れられたことでバーガンディはそう声を漏らす。

 そしてその瞬間、彼は後方へと引っ張られるように体が動かなくなった。


 何をしたか、端的に言えばフィオネは自身の極を解除してバーガンディに極を付与したのだ。

 異極の物体は互いに引き合う作用を起こす。サイカの方向へと磁力が働いたことで、バーガンディは動けなくなったのだ。


「これで……!」


 第二会場にいたゾイとフーガが何故か追ってこない以上、この場において邪魔者はもういない。

 よって今はユナとフィオネの一対一(タイマン)

 戦力で言えば、ユナはフィオネよりも圧倒的に格下、この勝負……魔剣の争奪はフィオネの勝利。


 ――そう思われたが、


 二つ目、発動!


「っ!?」

 

 突如として襲来する謎の浮遊感に、フィオネは目を見開く。そしてその浮遊感の正体を、彼女はすぐに悟った。


 これは……!


 フィオネは自身の足元を見る。すると、そこに床は無く……穴がいていた。


 これがユナの二つ目の仕掛け、壇上への穴空けだ。

 本来は会場を暗くした後、競売品がある位置に穴を開ける予定だったが、念のために彼女はこの壇上内でどこでも穴が空くように細工を施していた。


 落ち、る……!?


 暗闇で視界が判然しない中での、突然の落下。それらがフィオネに咄嗟の判断を強要する。

 穴のへりを掴み、落下を防ごうとするフィオネだが、暗闇の中でどこまで穴が広がっているか分からない。そのため端が分からなかった。

 

「ふんぬっ!!」


 展示品のガラスを破壊し、ユナは魔剣を抱えたまま壇上を飛び、客席の方へと離脱する。


 やった、やったやったやった!! 後はこのまま『スワロウズドリーム』から出て……っ!?


「やってくれましたね」


 下へと落下したフィオネだが、身体強化を行い跳躍し客席へと着地した。

 短く、だが怒気の籠った呟きにユナの心臓が震える。

 明確な殺意が自身に向かうのを感じ、頬に冷や汗が伝う。


 お、落ち着け私!! 相手はまだ暗闇に視界が慣れてない!! だから……!!


「暗闇だからと言って、私から逃げられるとでも?」

「っ!?」

 

 完全に思考を読まれていたことに、ユナは目を見開く。


「この暗闇で動けることから、あなたが何らかの方法で視界を確保していることは間違いない。その点に関してだけ言えば間違いなくアドバンテージはあなたにある。だが、それだけです。ここから出るにはどうしたって会場の入り口に向かわなければならない。後は物音や気配から、あなたの位置を完璧に特定する。私にはそれができる」


 淡々と述べるフィオネ。言葉通り、彼女にはそれが可能だった。


「おとなしくその剣を渡しなさい。そうすれば命は保証します」


 ……違う。この状況、有利なのは私だ。


 恐怖に圧し潰されそうになるユナ。しかし彼女は確かな活路を見出す。

 それを見出せたのは、一秒前のフィオネの発言からである。

  

「はは……そんなこと、言っていいんすか?」


 だからこそ、彼女は口を開き言葉を発した。ソレは自身のアドバンテージを捨てる自殺行為に他ならない。

 だがユナは理解した。フィオネはユナを脅す程に、この剣を傷つけたくないのだと。


 フィオネはユナの位置を推測し、ある程度の位置を特定することができる。ここでフィオネがすべきことはユナの位置を特定し殺すことだ。だが彼女はソレをしない。つまり、フィオネはユナがただ剣を奪いに来たのではなく、その先……剣の破壊を目的に来た可能性を考慮に入れていた。


 剣の破壊。

 それは自身が付き従う団長、イタンシンの意に背くこと。それは何としても彼女が避けなければならない行為だった。


「変な動きを見せない方がいいっすよ。私は今、アンタの一挙手一投足が手に取るように見えてるっすから。もし私を襲うような動作を見せれば、その瞬間にこの剣を破壊するっす」


 虚勢を張り、強く煽るような口調で、ユナは言う。それが彼女の目的が本当に剣の破壊であることをフィオネに錯覚させた。


 そのやり取りを聞きながら、バーガンディは思う。


 この感覚、今私はサイカさんに引っ張られている……なるほど、今発動しているこの魔法、恐らく二つの物体までにしか作用しない。

 もし彼女が三つ以上の物体に磁力を付与できるならば、私をサイカさんと同じように反発させればいい。だがそうしないということは、彼女が磁力を作用させる物体には限りがあるということ。

 

 そう推察し、バーガンディはフィオネの魔法の対象数が二つまでであることに到達した。


 だがそれに気付いたところで、バーガンディにはどうしようも無い。

 今彼はサイカと引き合わされており、バーガンディは勿論サイカも満足な動きができない。


 今この場を左右する効力を持つ役者はユナとフィオネ。そして……、


「そこまでよ」


 バーガンディが仕える令嬢、エリーザのみだった。

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◇◇◇

小話:

現在状況

セコノミヤ公園

→スパーダ&ゼノ、イタンシン交戦開始

『スワロウズドリーム』第一会場

→サイカ&バーガンディ行動不能。

 フィオネ、ユナが対峙。エリーザが参戦

『スワロウズドリーム』第二会場

→ゾイ、フーガ

『スワロウズドリーム』外

→グラコス&ラエル、ムオー&バーガー交戦開始

『スワロウズドリーム』地下

→オークション品保管倉庫内にサシタ、イルミ

 シェイズはイルミの元へ、残りのメンバーはボルカノと交戦開始

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