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第四十七話 『大オークション』三日目 その11

 カンパネギアとチュルラがサイカにより殺害され、第一会場内の人たちが護衛対象と護衛を含め場外へ出ていく中、その少女は舞台袖に潜んでいた。


 どうも! 私の名前はユナ・パームっす! 猫人族のしがない何でも屋です! 諜報活動に盗みまでなでもござれです!

 今回のクライアントからの依頼は商業都市『ブルーノ』で開催される大オークション、その三日目に出品される『剣』を盗むというものです! 私を雇うくらいなら自分でオークションに参加した方がいいんじゃない? って思ったんすけどどーやらクライアント様的にはそれだとダメな様子! まぁお金払ってくれるんなら私は何でもやるんでいいんすけどね!

 と、まぁそんなこんなで依頼を受けた私はその『剣』を盗むために数か月掛けて運営警備の人間として【シジマ連合組合】に潜入したんすけど……。


「な、何すかこれぇ……」


 司会の人の姿が突然変わるし、変わったと思ったら戦い始めるしもうカオス! どうなる私……ってそんな呑気なこと言ってる場合じゃ無いんすけど!


「ナイスよサイカ。これで楽に動ける。流石ね」

「いえ、もし相手が戦力をこちらに多く割いていれば危ないところでした。相手の戦力配分に助けられたと言っても過言ではないかと」

「確かに相手があなたを【慟哭の宴】から派遣されたメイドだと知っていれば戦力がこっちに過多になっていたかもしれないわね」


 うー……何か客席の方じゃ意味分かんないこと言ってるしぃ……。ていうかあの人たちこれだけ死人が出てるのに何であんな冷静なんすか!?

 あーもうやだ。帰りたい。こんな依頼引き受けるんじゃなかったっす……。


 はぁ、と溜息を吐くユナという少女。


 ま、まぁ今は『待ち』っす。この第一会場にいた人は皆外に出て行ってるし、後はそこで喋ってる人だけ。あの人たちも外に出たらここには私一人。そうしたらアレを盗むなんて楽勝……。


 そんな考えを抱いていたユナ。だがその直後、第一会場の壁が盛大に破壊され、バーガンディが転がり込んできた。


 いやもう今度は何すか!?


「あら、バーガンディ」

「……こんばんは、お嬢様」

「貴方、何やられてるのよ」


 バーガンディとエリーザのそんなやり取りの後、更に空いた穴からフィオネが現れる。

 目まぐるしく、次から次へと起こる最悪の事態の連続にユナは頭を抱えそうになる。


 うぅどんどん状況がマズい方へ……。

 ……と、とりあえずこの人たちがこの場から過ぎるのを待とう。その後ゆっくり『剣』を盗めばいいし!


 そう思い直すユナだが、それはあまりにも希望的観測が過ぎることだった。

 何故ならフィオネやエリーザたちの目的は、まさにその『剣』なのだから。



「……」


 フィオネは壇上にある『剣』を見る。

 

 あれだ。あれを回収することが団長の、本懐。


 その一瞬の視線に、サイカとバーガンディは勿論、ここまでの正確な推論を立てているエリーザも、彼女の狙いが魔剣だということを理解する。


「バーガンディ、マズイわ。距離的に相手の方が魔剣に近い。このままだと奪われる。貴方の魔法で対処しなさい」

「残念ですが承諾しかねますお嬢様」

「はぁ……。一応理由を聞いておこうかしら」


 溜息を吐き、エリーザは聞く。


「理由は二つあります。まず一つはお嬢様は『三大貴族』の当主であること。その執事である私が、まだ周囲にの富豪や護衛がいる中で力を見せることは今後の不利益に繋がります」

「……ふざけないで。一応の筋は通っているけれど、それじゃあ何も解決しないわ。あの女を抑え、壇上の魔剣をスパーダに届ける。それが私の目的にして命令よ」

「二つ目の理由は、私の特殊型魔法をここで使用した場合、それによって相当数の死者が出ます。そしてそれはお嬢様も例外ではありません。そんなことは、断じて許容できない」


 バーガンディにとって、一番の優先事項はエリーザの命に従うことではない。それは二番目であり、一番はエリーザの命を守ることである。


 ――よって、


「っ!!」

『っ!!』


 魔剣に向かい走り出したフィオネに対し、サイカとバーガンディは後出しで走り出すしかなかった。


「【明日の事は明日の私に任せよう《フューチャー・イン・ザ・パスト》】」


 走り出した直後、サイカは自身の特殊型魔法を発動し十人のサイカを複製した。

 数でフィオネを抑える、そういう算段だった。


 その思惑通り、十人のサイカがフィオネを拘束しようとする。


「くっ……」


 その光景に、フィオネは顔を歪ませる。

 当然だ。彼女の【届かないこの想い(ラブ・マグネット)】は一度に二つの物体までしか適応できない。

 つまり、現れた全てのサイカに対応することは不可能。

 だがともかく今は取り巻きの人数を減らすしかない。そう考え、フィオネは十人のサイカの内の一人に触れた。


 そして、次の瞬間想像の余地を超えた事態が発生する。


「これは……」

 

 ドガアァァァァァァァァァン!!


 激しい音を立てながら、サイカはフィオネによる磁力で周辺に飛ばされたのだ。

 これはサイカたちにとっては不運、そしてフィオネにとっては紛れもない僥倖。

 そしてこの状況に一番驚愕したのはフィオネ本人に他ならない。


 ――どうなってるの?


 フィオネの【届かないこの想い】が同時に極を設定できるのは二つの物体まで。そう、二つまでだ。

 ここで着目すべきはサイカの【明日の事は明日の私に任せよう】である。彼女の魔法は自分自身を複製する。

 ――自分自身、つまり体が細胞レベルで全く同じということ。それ故に、十人のサイカは【届かないこの想い】の発動下で全て同じ……一人の人間として認識された。

 自身をN極と設定し、サイカもN極と設定したフィオネ。これにより十人のサイカは磁力の反発力を受け、吹き飛ばされたのである。


 サイカとフィオネの特殊型魔法の衝突に起きた例外事象、バグ。だが今こんなことを考えている暇などは存在しない。

 そう思い、いち早く行動を再開、動き出したのはフィオネだ。


「させませんよ」

「っ!!」


 魔剣に手を伸ばすフィオネに、バーガンディが対処すべく彼女に襲い掛かる。


「邪魔です」

「それはこちらの台詞ですね。今の私は本気で戦えませんが、それはその剣を渡して良い理由にはならない」

「この……」


 拮抗する二者、それは崩れる様子は無い。

 繰り出される拳と蹴りの応酬、一歩攻撃の選択を違えれば重症に繋がる。

 張り詰められた糸をどちらが切るかという勝負。

 ――その時だった。


『っ!?』


 その場の誰もが、心拍数が瞬間的に跳ね上がる。動揺が走り、木霊こだまする。


 その中で唯一、迅速に的確に目的のために動けたのは……。


 あー私今日死ぬかも……うわぁぁぁぁ怖いぃぃぃぃ!!


 会場の暗転を引き起こしたユナ本人である。

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◇◇◇

小話:

現在状況

セコノミヤ公園

→スパーダ&ゼノ、イタンシン交戦開始

『スワロウズドリーム』第一会場

→サイカ&バーガンディVSフィオネ。

 ユナが魔剣を奪うために会場を暗転させる。

『スワロウズドリーム』第二会場

→ゾイ、フーガ

『スワロウズドリーム』外

→グラコス&ラエル、ムオー&バーガー交戦開始

『スワロウズドリーム』地下

→オークション品保管倉庫内にサシタ、イルミ

 シェイズはイルミの元へ、残りのメンバーはボルカノと交戦開始

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