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第四十四話 『大オークション』三日目 その8

「圧縮」


 ボルカノはそう呟くと、彼の手の平にあった血がまるで意思を持つように宙へ浮く。


「くる……」


 エルはそれが敵の攻撃の予備動作だと即座に判断し、ボルカノが仕掛ける前に再び魔力壁を正面に張ろうとするが、


「【血弾マグナム】」


 ボルカノが放った血液は、先ほどとは比較にならない速度と威力でエルの魔力壁を貫き、穴を開けた。


「っ!?」


 魔力壁を破り、ボルカノの攻撃は内側へと侵入。

 エルの頬を擦る。


 つー、とエルの頬から血が垂れる。


「この威力なら通るか。なら問題ない」


 その様子を目にしたボルカノはまるで楽器の調律師のような口ぶりだ。


 血を操る魔法、なんて速度と威力だ……。


 一連の動作と放たれた物体からボルカノの魔法の概要をシェイズは把握。

 そして同時にそれは他の【竜牙の息吹】メンバーも理解できたことである。


『……』


 この時点でシェイズたちは方針を定めた。

 ――否、最初から定めていた。


「走れ!!」


 シェイズの掛け声と共にリンゼたち他のメンバーは同調するように前に進む。

 それはすなわち、前にいるボルカノと接敵することに他ならない。


 彼らはそれを選んだ。


 対して、前進する【竜牙の息吹】を目にたボルカノは思考する。


 ここは一本道の通路、逃げ道は後方にしかない。だが捕虜へ通じる場所に行くにはこの通路のみ。

 奴らの目的は恐らく捕虜の奪還。ここで退くことは捕虜奪還を諦めることに直結する。


 それを考えれば俺を突破しようとするのは必然。

 ……だが、


「この通路で俺と対峙することは自殺行為に等しい」


 再びボルカノは構える。


 さっきの威力で相手の魔力壁は破れる。なら後は、

数を増やすだけだ。


 ボルカノの特殊型魔法

血沸血踊血巡ブラッド・パーティー】。

 血液を操作する魔法であり、その対象は自身の血液。自身の血液ならば体内であろうと体外であろうと操作可能。

 具体的には先程のように血を高圧縮し凄まじい速度で飛ばすことができる。


 そして一度に放てるソレは一発では無い。ボルカノは自らの研鑽により体外へ出た血液を細かく分割、それをそれぞれ圧縮し、一度に大量の血液の粒を放てるのだ。


「【血連弾マシンガン】」


 ボルカノの攻撃は文字通り、血のマシンガン。

 連射された血の弾丸が直進し、ボルカノに向け前進するシェイズたちに容赦なく注がれる。


「この……!!」


 エルは正面に魔力壁を展開した。だが、


「無駄だ。お前の魔力壁では耐えられない」


 ボルカノの言う通り、先ほど展開したエルの魔力壁を彼の攻撃は易々と貫通した。

 今度はソレが一発では無い。無数に魔力壁へと激突する。


 当然の如く、エルの魔力壁には大量の穴が開いた。


「くっ!!」

「……ほう」

 

 が、次の光景にボルカノは軽い感嘆の声を漏らす。

 その光景とはウーリャが展開した魔力壁にボルカノの血弾がぶつかり、それを更に貫通。そこを更にリンゼが展開した魔力壁で防ぎ切るというものだった。


 魔力壁を三重で展開し威力を殺したか。単純だが発動タイミングや位置を誤れば失敗する、中々に難しい芸当だ。熟練度の高いパーティーだな。


 ボルカノはそう分析する。

 そうして彼とシェイズたちとの距離が三メートルに迫った。


「【魔力付与マジック・バフ】!!」

「はぁっ!!」

 

 ウーリャの魔法によって強化されたシェイズが剣を抜く。

 その間、ボルカノは冷静に周囲に目をやった。

 

 ……真っ向から俺を斬ろうとする男に加え、左右の女二人。

 コイツら、俺を殺してここを抜けるつもりか……。


 確かに殺意の籠ったリンゼの剣と、エルの宗玉の杖(アグロバル・ワンド)の先端に魔力が集約するのを見ながら、ボルカノはそう思考する。


 攻撃役が三人、支援役が一人。これだけの手練れ複数に接近されたのは面倒だが、俺が負ける道理は無い。

 

 腕に力を籠め、ボルカノは迎撃態勢を整えようとする。その瞬間、


『っ!!』


 水ノ斬で流れる水のような美しい軌道を描き、シェイズはボルカノをすんでの所でかわし彼という障害を突破した。


「何……?」


 流石にそれにはボルカノも微弱な動揺を見せた。

 無理も無い、コンマ数秒前まで自分を殺そうとしていた男の殺意が急に消失したのだから。 


「っ!!」

 

 だが動揺は一瞬。ここを突破されるワケにはいかないボルカノはすぐに切り替えると自身の背後に行ったシェイズを追おうとかかとを返そうとする。


「させない……!」


 しかし、それをリンゼが立ちはだかることで防ぐ。更には背後にエルとウーリャが立つ。ボルカノは三人の美少女に囲まれる位置となった。


 イルミを捜索する上で、【竜牙の息吹】はある方針を定めていた。

 それは『もし敵が現れた場合、メンバーの内数名がそれを足止めし、残った者が先へ進む』というものである。

 昨日のオークション二日目でドンドフとムオーとの戦闘で、一人では【ノーネーム】のメンバーに対処することはできないと理解していた彼らはそう結論を出していた。


「お前たちからも殺意が消えている……なるほど。どうやら俺はまんまと騙されたようだな」


 シェイズたちの目的を見誤ったボルカノは、自嘲気味に鼻を鳴らす。


「いや、間違ってない」

「何?」

 

 が、エルからは放たれたその言葉にボルカノは思わず聞き返した。


「あなたが私たちの殺意を本物だと察するのは当然のこと。だって、私たちはあなたに対して本当に殺意を抱いている。私たちの仲間の腕をもいだ奴の仲間に抱く感情としては、当然」


【竜牙の息吹】の中で、ドミノの腕がもがれたことに怒り……殺意を覚えていない者など一人もいない。

 彼の意思を無駄にしないためにも、彼女たちはここにいる。


「……理解できんな。奪われた奴のことをそこまで気に掛けるとは」


 目を細め、ボルカノは言う。

 彼は本気でそう思っていた。現にドンドフが死んだということに対し、ボルカノはドンドフを殺した者に対する殺意など微塵も抱いていなかった。


「……きっと、あなたみたいな人には、分からないですよ……」

 

 珍しく、自発的に言い返したのはウーリャだった。

 人一倍劣等感を抱えながらも、誰より周囲に報いようとする少女である彼女だからこそ、目の前にいる何かが欠落した快楽主義者に言ってやらねば気が済まず、そう思った時には既に口が動いていた。


「だろうな。俺は……いや、俺たちはこれからも勝手気ままに他者を蹂躙し、奪う。その過程で仲間が死のうがどうでも良いことだ」


 この時点で、ボルカノは先へ進むことを許してしまったシェイズの対処をサシタに任せ、自分はこの場の三人を足止め……殺害することに注力することを決める。


「エル、ウーリャ。行くよ!!」

「うん」

「は、はい!」


 リンゼの声に従い、彼女たちは戦闘態勢を取る。


 ――『スワロウズドリーム』地下で、血が舞い踊る戦いの幕が開いた。

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◇◇◇

小話:

現在状況

セコノミヤ公園

→スパーダ&ゼノ、イタンシン交戦開始

『スワロウズドリーム』第一会場

→サイカ勝利。カンパネギア、チュルラ死亡。

『スワロウズドリーム』第二会場

→バーガンディ&ゾイ&フーガ、フィオネ交戦開始

 グラコス&ラエル、ムオー交戦開始

『スワロウズドリーム』地下

→オークション品保管倉庫内にサシタ、イルミ

 シェイズはイルミの元へ、残りのメンバーはボルカノと交戦開始

 

新作短編投稿しました!

ロシア美少女が流行ってたのでドイツ美少女のラブコメです!

下に直接飛べるリンクがあります!


軍人気質で超優秀な幼馴染のドイツ人美少女は今日も俺を厳しく指導するが、俺にだけデレを見せてくれるので全く問題ありません。

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