第四十三話 『大オークション』三日目 その7
サシタとカンパネギアの戦闘で矛盾点があったので修正しました。結果やお話の進行は変わりません。
スパーダたちの作戦開始直後、イタンシンの言葉の元チュルラはサシタに連絡を入れた。
『サシタ。俺たちのことがバレた。会場内の奴らは全員殺すからその間にお前はオークション品を全部持って『ブルーノ』から出ろ』
「……はぁ、全く。ドンドフも死ぬし、散々だな今回は」
連絡を受けたサシタは、すぐさま【全ては俺の手の平に】で倉庫のオークション品を全て縮小する。
「ねぇ、外はどうなってるの?」
「あぁ?」
オークション品の縮小中、目に鉢巻をされ腕を後ろ手で縛られているイルミがそうサシタに尋ねた。
イルミの管理はサシタに一任されており、彼は自分の移動に伴い彼女も同行させているのだ。
「黙っとけ。お前は捕虜だ。立場を弁えろ」
普段と一切態度の変わらないイルミに、サシタは少しだけ怒気の籠った声を上げる。
「あはは! 立場を弁えろなんて面白いこと言うわね。それだったら貴方の方こそ立場を弁えるべよ。貴方は平民で、私は貴族なんだもの」
「……てめぇ」
本気で言っているイルミにサシタは確かな殺意を抱き、彼女の元に歩み寄る。しかし、
「うんうん、知ってるわ。殺せないものね。私は捕虜、『殺しちゃいけない』捕虜だもの」
目隠しをされたまま、サシタが近くに来たことから自分を殺そうとしたのだと判断したイルミは無邪気な声でそう言った。
彼女の言う通り、サシタはイルミを殺せない。捕虜として管理はするが、殺すなとイタンシンに言われているからだ。
「っ……」
無邪気、悪気の無い悪意の塊。そんなイルミに対し抱く黒い感情をサシタは押し殺し、自身の役割に戻った。
「ねぇねぇ、やっぱり思うんだけど貴方たちのリーダーっておかしいと思うわ。一体何を考えているのかしら」
そんなサシタにお構いなく、イルミは喋り続ける。その発言に対し、サシタは無言だった。
何故ならそれは、サシタ自身考えていたことだからである。
このクソ女、知った風な口を……。ンなこと分かってんだよ。
サシタは奥歯を噛み締める。
今回の作戦はどう考えても無駄な工程が多い、回りくどすぎる。オークションの客に俺たちのことがバレたっていう今の状況にぶち当たったのは間違いなくソレが原因だ。これじゃあ最優先の剣の入手は難しい。加えて、団長が最終目的として掲げていた二日目と三日目のオークション品総取りは確実に失敗……。
どうしちまったんだ団長。いくらドンドフの意思を反映したとしても、いつものアンタならもっとスマートな作戦を考えたはずだろ。
サシタの頭に混乱と困惑の渦が巻く。自身が所属するチームの長の普段との乖離っぷりに、動揺を隠し切れないでいた。
だが直後、彼は思う。
――だからどうした、と。
「……はは」
気付けば、サシタは無自覚に笑っていた。
「ん、どうしたの?」
流石のイルミも、サシタの様子にキョトンと首を傾げる。
「あー、いや。一番大事なことを思い出しただけだ。体の芯に刻んだ、一番大事なことをな」
「何それ?」
要領を得ないその発言に、イルミは頭上に『?』を浮かべる。
「さっきの質問、答えてやるよクソ女。俺たちにとって団長が何考えてるかなんてどーでもいいんだよ」
「どーでもいい?」
「あぁ、どーでもいい。俺たちは決めてんだ。どんなことがあろうが団長を信じて付いていく。例えそれが、地獄に向かう道でもな」
【ノーネーム】に属する者は、全員が一般人とはかけ離れた存在だ。
それは身分、という意味合いではない。精神がだ。
人殺しを躊躇わず、奪うことを好み、混沌を至上のものとする。
性格や価値観に多少の違いはあれど、【ノーネーム】のメンバーには共通してそれが言える。
そして、そんな彼らは出会った。
圧倒的強者、自分たちが今まで出会った中で誰よりも強く、邪悪。まるで自分が善人なのではないかと、錯覚する人物に。
ーーそれが、イタンシンだ。
【ノーネーム】のメンバー全員は彼の強さに触れ、それぞれの思いを馳せた。
その強さに羨望の眼差しを向ける者。
自分は彼に仕えるために生まれてきたのだと、生きる意味を見出す者。
彼といれば最高の景色が見れると期待する者。
彼の強さ、邪悪さを吸収しようと背中を追いかける者。
それはもう様々だ。
【ノーネーム】は、彼を慕う者たちが集まったことで形成されたチームなのである。
そんな彼らに、団長に懐疑心を抱けど、裏切りチームを抜けることなどありはしない。
「うっすいわ!」
が、サシタの言葉を聞き、イルミから放たれた言葉はソレだった。
理由も根拠も示されていない彼の言葉では無理からぬものだ。
「はっ。理解されねぇのは百も承知だ。そんで分かってもらおうとも思ってねぇ」
さっきまでのサシタであれば今のイルミの言葉に腹を立てたことだろう。
だが、改めて芯を正した彼にとって、彼女の言葉は感情を逆撫でるには至らない。
誰に理解されるわけでもない。
ただ、サシタを含めたメンバー全員は決めていた。
どんな状況であろうと、全てを楽しむ。
それがタガの外れた者たちができる……否、者たちしかできない唯一の特権なのだと。
そしてその瞬間、サシタが腕に装着していた感知端末のカンパネギアとチュルラの反応が消失した。
◇
「一体イルミ様はどこに……!」
スェイズたちは地下一階を駆ける。
それぞれの部屋の扉を破壊し内部を捜索。いなければ次の部屋へ、そうして先へと進んで行った。だがあるのは【シジマ連合組合】の人物を護衛する黒服の死体のみ。
そして馬車の停留所とオークション品を保管している倉庫が近付く中、それは起きた。
『っ!!』
突如として真正面から凄まじい速度で飛来した大量の粒に、辛うじて反応した【竜牙の息吹】面々は正面に魔力壁を展開しそれを防ぐ。
「防いだか。ただの雑魚なら今ので終わるんだが」
そう言って現れたのは【ノーネーム】のメンバー、ボルカノだった。
「ここで敵、まずい」
エルは呟く。
彼女の言う通り、ここで敵にかまけて時間を浪費することはイルミの身の危険を上昇させることに他ならない。
「ここに来る途中、何人もの死体を見た。あれをやったのはお前か?」
「あぁそうだな。上で俺たちのことがバレた以上、俺たちを【シジマ連合組合】と思ってた部下共は用済み。邪魔にしかならない。だからとりあえず、この地下にいる運営の奴らは全員殺した」
シェイズの質問に、ボルカノはそう答えた。
「……つまり、お前はイルミ様の居場所を知っているな」
「何だ? お前たちあの捕虜を助けに来たのか?」
シェイズがイルミの名を出すと、彼女を知っているボルカノは合点がいったように顎に手を当てた。
なるほど、つまりコイツらが昨日団長が言っていたパーティーか。
団長が殺さなかったパーティー……なら、どうするのか正解だ? 本来の手筈ではオークションが終わり次第あの捕虜を解放する予定だった。だが俺たちのことがバレ、ここに捕虜を奪還しにコイツらが来た。
――いや、正解など決まり切っているな。
『っ!!』
構え、戦闘態勢を取るボルカノを目にした【竜牙の息吹】面々は息を呑む。
ここでコイツらを見逃す選択肢などありはしない。殺しはしないが、腕と足を潰し無力化する。
方針を定めたボルカノ。
そんな彼の手には、自らの血が付着していた。
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小話:
現在状況
セコノミヤ公園
→スパーダ&ゼノ、イタンシン交戦開始
『スワロウズドリーム』第一会場
→サイカ勝利。カンパネギア、チュルラ死亡。
『スワロウズドリーム』第二会場
→バーガンディ&ゾイ&フーガ、フィオネ交戦開始
グラコス&ラエル、ムオー交戦開始
『スワロウズドリーム』地下
→オークション品保管倉庫内にサシタ、イルミ
【竜牙の息吹】VSボルカノ
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